弐の世界の真髄へ4
「あ、あれ……プラズマさんとアヤは……」
リカはなぜか部屋に取り残されていた。転がっていた刀を拾い、眺める。
「もしかして、私……栄次さんの心に入れなかった? なんで?」
「それは、リカちゃんが力を放出しなかったからだね」
リカが動揺していると、後ろから声がかかった。
「だっ、誰!」
リカは上ずった声で叫び、振り返った。誰もいないはずの場所で声がすると不気味である。
「こんにちは、リカちゃん」
メガネに黒いツインテール、紺色ブレザーの学生服をきた少女……。
「な、なんで……ここに……」
リカは蒼白になりながら同い年くらいの少女を見据える。
「なんでって、私はアマノミナカヌシの一部。過去神栄次周辺が変になったということで、ちょっと見にきたんだよ」
「マナさん……」
リカは全てを見透かしているマナに震えた。
「ああ、言っとくけれど、リカちゃんがこちらに来て、私を無視して世界を変えたから、時神に影響がかなり出てるみたい。今回の原因も君だよ、リカちゃん。栄次と更夜、共倒れするかもね。サヨにもシステムエラーが出たみたいだし」
「……全部私のせいなの?」
「そうだよ」
マナはリカを鋭く射貫いた。
「君が世界を変えたから」
「……それよりも……」
リカはマナを睨み付け、気づいた事を負けじと聞く。
「どうやって入ってきたの? マナさんはサヨの知り合いじゃないよね?」
「あ~、リカちゃん、忘れてないかな? あなたは私の一部。あなたにはアマノミナカヌシの力がある。あなたが入れれば、もちろん私も入れるよね?」
「……そういう……こと」
リカは頭を抱えた。
では、マナは何をしに来たのだろうか?
「何しに来たか、知りたい? 私は世界を繋げたいだけ。過去神がいないなら、過去をいじれるかなって」
マナは楽しそうに笑いながらリカを見た。
「ダメ! 皆いなくなっちゃう! 壱と伍を繋げたら時神を私ひとりにするんでしょ! そんなの許さない」
「あなたのデータはなかなか変わらないね」
リカが戦闘体勢になったので、マナは不気味に笑いながら敵意がないことを伝える。
「ふふ……戦うつもりはないの。リカちゃん、ワールドシステムに入って弐の世界の破壊システムを止めなさい」
「……?」
「わからないよねぇ? 弐の世界にはね、おかしなシステムを破壊して作り替えるシステムがある。栄次と更夜は『それ』に狙われている。あなたが止めなさい。元凶があなたなんだからね」
マナは再び笑うと、ワールドシステムを開き、てきとうにリカをその中に放り込んだ。
「まっ……」
リカは何も抵抗できず、ワールドシステムに吸い込まれていった。
「さてと」
マナは刀を鞘にしまうと、棚に置き、サヨの貼り紙を見ておかしそうに笑った。
……アヤが変えた『トケイ』をリカが元に戻す……。
感情を思い出した彼とアヤがどうなるか、私は楽しみ。
リカちゃん、色々やってくれるね。
……リカを壱と伍の上に立たせ、古い時神を排除できる日はいつになるかな。
現代神が狂えば……自滅してくれるかもしれないしね。
「あー、楽しい」
マナが笑っていると、甲高い子供の声が響いた。
「おじいちゃん! ただいまー! あれ?」
「ああ……ワールドシステムめ、また余計な神を産んだか」
マナが部屋から出ると、廊下に幼い少女が立っていた。
「えっと……誰? お仕置き部屋から出てきた? おじいちゃんにお尻叩かれたの? 痛いよね、しばらく座れなくなるよね?」
サヨに似た銀髪の少女は怯えながらマナを仰ぐ。
マナは軽く笑うと、少女の頭に手を置き、すれ違いざまに一言、言った。
「更夜はそのうち帰ってくるよ。だから待ってなさい」
「え? えっと……おじいちゃんはでも、ルナが痛がると座椅子になってくれるよ! 本当は……優しくて……」
少女は途中で言葉を切る。
マナはもうすでに目の前から消えていた。
「あれ?」
少女はしばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。