弐の世界の真髄へ3
メグがどうやって進んだかが全くわからなかったが、リカがこちらに来た事件で、サヨが皆を連れていったあの感じと同じだった。
メグはしばらく、宇宙空間を右へ左へ動き、ネガフィルムが絡まる世界の一つで止まった。
「ここ。私は案内はできるけど、サヨとは会ったことがないから、中には入れない。サヨの心は『霊』と『サヨが招いた者』以外入れない」
「……ここ……なの?」
アヤは二次元に展開する絵のような世界を訝しげに見据えた。
「うん。間違いない」
「つ、つまり、時神の私達しか入れないってことだよね」
「そう」
リカの言葉にメグは淡々と答え、頷く。
「じゃあ、さっさと行こう。メグ、ありがとな」
「いいよ、これくらい」
プラズマのお礼にメグは淡白に答えた。
「ありがとう、メグ。えっと、これは……どうやって入るわけ?」
「そのままドーン」
困惑していたアヤの背をメグが軽く押した。
「な、なにこれ。吸い込まれる!」
「あー、リカの事件で、アヤはサヨの世界に入る時に意識がなかったんだったな。リカ、行くぞ。一回やったから平気だろ?」
アヤが吸い込まれてから、プラズマはリカに目を向ける。
「は、はい」
「あー、月子あたりからかなり動揺してんな? 手、繋ぐか?」
「あ、ありがとうございます! だ、大丈夫です!」
プラズマが微笑んで手を差し伸べたが、リカは顔を赤くしながら自ら世界へ飛び込んでいった。
「リカは恥ずかしがりやなんだよな~。メグ、じゃあな」
プラズマは無言で手を振るメグを見つつ、リカへ続いた。
プラズマが世界へ入るとアヤが驚いた声を上げていた。
「いきなり、立体になったわ」
「ああ、俺も初めての時はビビったよ。じゃあ、刀とやらを探すぞ」
三人はかわいらしい白い花が咲いている場所を通りすぎ、日本家屋に入り込んだ。
「部屋がいっぱいありますね」
リカが障子扉を控えめに開けていき、刀を探す。
静かな日本家屋はなんだか怖い。
探しているうちに、三人はある一つの障子扉の部屋で立ち止まった。
「なんか、異様な怖さがある部屋だな。他の部屋と変わらない感じだが、入るのをためらうような雰囲気を感じる」
プラズマが顔をひきつらせながら少し広い畳の部屋へ入る。
他の部屋と違うのは、家具がまるでない事か。
「空き部屋な感じですかね……。でも、なんだろ、めっちゃ怖いんですが」
「あー、なんかわかったぞ。ここ、子供のお仕置き部屋だ」
プラズマが雰囲気の不気味さと、なにも家具がない部分からそう判断した。
「お仕置き……部屋」
「サヨが小さい時にここでお仕置きされてたんじゃねーの? だが、まだ使われている感があるな。そういやあ、サヨには年の離れた妹が……」
「無駄話はその辺で、刀を見つけたわ」
プラズマの会話を途中で切り、アヤは飾られてもない刀を拾い上げた。畳にそのまま置かれていたのだ。誰かが触って片付けなかったらしい。
「サヨね。サヨがこの刀を触って自分の記憶が違う事に気がついた」
刀が落ちていた横の柱に汚い子供の字で
『さよは わるいこ。かたなを つかったから どげざに ごめんなさい、おしりひゃくたたき』
と紙が貼られていた。
幼いサヨが書いたのか。
「あの男、マジで女の子のお尻、ぶったたいて叱っていたのかよ。女の子だぜ、俺、できないよ。泣いてる女の子見ると、かわいそうになってくる」
「それより、刀をどうすればいいわけ?」
アヤは重たい刀を危なげに持ちながらプラズマに渡す。
「おお……危ないぞ、アヤ。刀を使ったから……これはお尻百叩きかな?」
プラズマはにやけながら刀を受け取った。
「ふざけないで! あなたね、ふざけてるのか、真面目なのかどっちなのよ……」
「あんたらの顔が怯えてるから、少し柔らかくしてやろうかと思ったんだがなあ」
「あ、ああ、そうだったの……。ありがとう。大丈夫よ。それより、どうすればいいのよ、この刀」
アヤは眉間のシワを指で伸ばす。
「鞘から出してみたらどうかな……」
リカが恐る恐るアヤを見て言った。
「ああ、そうね。プラズマ」
「わかったよ。刀を抜くなんて久々だな」
プラズマが慣れた手付きで刀を抜く。
「なんもねぇな」
刀を抜いてもなんともなかった。
「……この刀から栄次の心に入れるのよね? 神力を解放してみましょう。反応するかも」
アヤに言われ、プラズマはため息混じりに頷くと、神力を高める。
プラズマとアヤは神力を少しだけ放出してみた。ちなみに、リカは神力の使い方がわからないため、待機している。
神力を解放すると、刀が光って反応し、畳に五芒星の陣が広がった。
「ついに栄次にたどり着いたか……」
プラズマが光りに包まれながら小さくつぶやく。
刀は時神達を飲み込んだ後、何事もなかったかのように畳に転がった。