弐の世界の真髄へ2
アヤ、プラズマ、リカはうんざりしながら月子さんが呼んだ駕篭に乗っていた。
もちろん、あの変なツルも共にいる。
行きと同じように帰らなかったわけはエスカレーターが上りしかなかったからだ。
ちなみにこの月がある場所は、バックアップ世界、陸の世界なためツルが飛んでいるのは弐の世界である。
ツルは、生き物分の心の世界がある弐の世界を自由に飛び回れるらしい。
ただ、飛べるだけで目的の世界へ入る事は不可能。
特定の心の世界には行けない。
なので、壱(現世)の世界に戻してもらうだけである。
「よよい! よーいよい!」
「あー……もう」
少しいらついているアヤはため息混じりで、駕篭についていた窓から外を眺めた。
宇宙空間が広がっている。
下方にネガフィルムが絡まり、誰かの世界が二次元に映っていた。
「で、これからどうやってワダツミに会う?」
プラズマは頭を抱えながら、アヤとリカを見た。
「うーん……。私は一度、会ったことあるんですけど、本当に海の中にいました。溺れて死にましたし」
リカが苦笑いをプラズマに向け、プラズマは困惑しながら、はにかんだ。
「マジで溺死したの? あんた……」
「ループしていた時期だったんで、すぐに生き返りましたけど、まいりましたね」
「そりゃ、まいるよな……。かわいそうだなあ。海、怖くならなかったか? 俺、あの時知らずにあんたを泳がせちまったよ」
プラズマが同情してきたので、リカは薄笑いを浮かべた。
「もう、それどころではなかったですからね、あの時」
「リカ、怖かったら、無理しないでね」
アヤにもなぐさめられ、リカは微笑む。
「大丈夫、ありがとう。今は皆がいるから、本当に平気。で、どうします?」
リカはプラズマを再び仰いだ。
「どうしよう……深海まで行けるか?」
「大丈夫よ。今、電話するわ」
「え……?」
アヤは当たり前のようにスマートフォンを取りだし、ワダツミのメグに電話をかけ始めた。
「ちょ、ちょ……電話番号知ってんのか?」
「友達だもの、知っているわよ」
アヤが平然と言うので、プラズマは目を見開いた。
「すげー交友関係……」
「あ、メグ、聞きたいことがあるの」
テレビ電話を起動したアヤは、プラズマとリカにメグを見せる。
「なにかな?」
淡白なメグの声が駕籠に響いた。
「栄次が行方不明で探しているの」
アヤは恐る恐る尋ねる。
「ああ、過去神はたぶん……桜花門にいるかな。今、検索してみた」
「検索……」
プラズマは首を傾げながらつぶやいた。
どういう仕組みかはわからないが、メグは弐を中から監視している神なため、特定の人物を検索して見つけられるデータがあるようだ。
「この事件、けっこうまずいと思う?」
アヤが尋ねても、メグは顔色を変えずに淡々と答えた。
「私は観察をしているだけ。だからわからない。適切な情報を適切に必要としている者に話す。私は解決できない。協力はできるかもしれないが。弐の世界への関与、世界への関与は許可されていない」
メグは少し困った顔をしつつ、アヤ、プラズマ、リカをそれぞれ見回す。
「そう。わかったわ。それで、栄次がいる桜花門ってどうやっていくわけ?」
「あそこへは、望月サヨの世界にある『刀』から飛べるかな。現代神、未来神がいれば、関係性があるため、『栄次の心の世界』に入れるはず」
「ま、待てよ……。どういうことだよ? 桜花門ってのは『栄次の心』なのか?」
プラズマは混乱しつつ、メグに尋ねた。
「違う。桜花門は黄泉に一番近い場所。黄泉は魂のエネルギー成分、ソウハニウムを分解し、新しいエネルギーとして甦らせる所。
後悔を持つ魂は汚いので、後悔の感情エネルギーが自然消滅するまで、黄泉には入れない。
『栄次の心の世界』が黄泉に近くなっているが、彼は後悔があるので入れない。
ただ、彼は肉体も入り込んでいるため、『消滅』を期待しているよう。
リカの世界改変の影響で、時神がそれぞれの世界へ帰らなくても良くなった。だから、栄次と更夜とサヨに微妙なすれ違いができた」
メグの言葉に一同はまた首を傾げる。
「話が飛びすぎてよくわからないわ」
アヤが代表して言うと、メグはさらに詳しく話し始めた。
「つまり、栄次のデータが更夜との矛盾に気づき、追及を始め、栄次は『参の世界での記憶』を何度も繰り返して思い出し、彼の優しさから『繰り返し』と『消滅』の狭間をうろついていたということ。
ついでに更夜のデータもおかしくなり、サヨはデータのおかしさに自ら気がついた。
彼女は、栄次が更夜を斬った『刀』が、この壱の世界にあるわけがないと考えた。
これは参(過去)の世界の令和に存在している、自分と更夜の記憶だと、壱……今を生きている自分達の記憶ではないと。気がついたサヨは桜花門に入った」
メグは一通り詳しく説明すると、アヤの様子をうかがっていた。
「複雑だわ……。なんとなくはわかったけれど」
「だから、サヨの世界にある『刀』も記憶置換で栄次が使った刀になっている。つまり、栄次の記憶を持つ。栄次と深く関係するアヤとプラズマならば、栄次の心に直接干渉でき、栄次の心に入れるだろう」
メグは的確な情報のみ話した。
「んまあ、難しい事はわかんねーけど、とりあえず、更夜が住んでた、サヨの世界に行けばいいんだな。どうすりゃあいいの? ツルは特定の世界がわからないから連れてってくれないんだよ」
プラズマがメグに尋ね、メグは軽く頷いた。
「わかった。それだけなら、協力しよう。私は『K』だから皆を運べる」
「おお!」
プラズマが歓喜の声を上げるのと、横の窓が叩かれる音が同時に響いた。
アヤがカーテンを開けると、横をメグが飛んでいた。
メグはスマートフォンを片手に持ちながら手を振る。
スマートフォンには驚いた顔をしているアヤが映っていた。
「嘘、早すぎるわ」
「急ぎかなと思ったから」
メグは時神が戸惑う中、窓とは反対側の出入口にある簾をめくった。
「行こう。そのまま降りて大丈夫。私がいるから」
メグは時神達に出るように言った。辺りは宇宙空間である。
一瞬ためらったが、アヤは勢い良く外へ足を踏み出した。
「浮いてる」
アヤを見たリカが次に飛び降りた。アヤ同様にメグの後ろを浮遊していた。
最後にプラズマが冷や汗をかきながら飛び出し、全員がメグの後を電車のように強制でついていかされる。
「俺達には動く権限はなさそうだ。このまま連れて行ってもらおう。ツル! もう自由にしていいぞ!」
遠ざかるツルにプラズマは叫び、ツルは「よよい」と言いながら、反対側に飛び去っていった。