栄次を探せ!4
神々の図書館へたどり着いたリカ、アヤ、プラズマはツルにお礼を言うと、駕籠を降りた。
「よよい! 月の門を開いていただいたよい! やつがれはお先に月で月姫様のお相手をするよい。ではまただよ~い! よい、よ~い!」
最後までおもしろい言葉を話していたツルにリカは固まったが、飛び去るツルはとても美しかった。
「さすが……神の使い……。待って、私、ツルとカメに出会ったよね!? もしや、縁起がいいんじゃ……?」
「リカ、行くわよ」
独り言をもらしていたリカは、アヤの視線を感じ、慌てて歩き出す。
「とりあえず、ツルが月姫の相手をするということで、月の門を開けてもらった。天記神には、この空間から月の門を繋げてくれるよう頼む」
プラズマの説明を聞きながら、リカはぼんやり思った。
……縄張りみたいのがあるのかなあ……。
霧深い森を抜けると古い洋館のような図書館が現れた。
「おーい! 天記神!」
プラズマは早々にドアを開けると中に向かって声をかける。
「はいはい。いらっしゃいませ。栄次さんのことかしら?」
天記神は来ることがわかっていたかのような発言をした。
体は男性だが、女性よりもどこか女性らしい雰囲気がある。
「あらっ! プラズマさん、かっこいいっ!」
「あ……ほんとっすか? えー……ありがとう。……じゃなくて……なんだっけ?」
天記神は、変身したプラズマを見て、頬を赤く染める。プラズマは困惑しつつ、アヤに目を向けた。
「月に行くんでしょ」
アヤにそっけなく言われ、プラズマははにかんだ。
「そ、そうそう! 月っ! 月に行きたいんだ!」
「月ですか。ええ、では、わたくしが、ここの結界を開ければよろしいのですね?」
天記神が妖艶な笑みをプラズマに向け、プラズマは慌てて頷いた。
「そうそう! よろしくっ!」
「では、お外へ」
「お、おっけー!」
動揺しているプラズマはアヤ、リカを連れ、盆栽がたくさん置いてある庭へ出る。
「結界を一度、一部分だけ解きますわ」
天記神は手を前にかざし、結界を解いた。解いた直後に鳥居が現れ、鳥居の奥で夜空と共に大きな月が存在していた。よく見ると、鳥居から月へエスカレーターが通っている。エスカレーターの左右に等間隔で灯籠がなぜか浮いていた。
「きれいだけど、不気味な月……。なぜ、エスカレーター……」
「いいから、早く行くぞっ!」
プラズマはリカの疑問を途中で終わらせ、リカをさっさとエスカレーターに乗せる。
無機質な機械の音が聞こえるくらい辺りは静かだった。鳥居は時神達がエスカレーターに乗ると消え、手を振っていた天記神も霧に包まれ、いなくなった。
あの図書館の空間は霧で覆われていた。もしかすると、あの霧が結界なのかもしれない。
あの書庫の神とやらは何者なのか、実はよくわからないが。
エスカレーターはゆっくり月へと向かう。空には綺麗な星。
エスカレーターから下を見ると、どこかの町の夜景が広がっていた。
「わあ……きれい」
「よね? 夜景を上から眺めるのはきれいよね。今、夜の陸の世界の町並みよ」
アヤとリカはしばらく美しい景色で心を落ち着かせる。
「デートにピッタリってか? お嬢さん方」
プラズマが肘をエスカレーターの手すりに置き、かっこつけながら二人を見てきた。
「役に入っているわけ?」
「まあね」
「そろそろエスカレーターの終わりが見えてきましたよ」
気がつくと、辺りがクリーム色の空間に変わっていた。
鳥居が見え、時神達はエスカレーターからおろされる。
「ついたか」
辺りはクリーム色の空間。
他は何もない。
「えーと……何にもないんですけど」
リカが戸惑っていると、白い小さな生き物がリカの視線の下で飛び跳ねていた。
「おおい、こちらでごじゃる!」
「はあっ!?」
急に下から声をかけられ、リカは驚いて飛び上がった。
恐る恐る下を見ると、幼稚園児くらいの身長の女の子がたくましい前歯を覗かせ、こちらを見上げていた。
紫色の肩なしの着物を着ている元気そうな少女で、なぜか真っ白のツインテールの髪がウサギのように左右に真っ直ぐ上に立っていた。
瞳は赤い。
「……因幡の……シロウサギ……みたい」
リカはぼんやり思ったが、すぐに気がついた。
「って、まさか、ウサギ!?」
よく見ると手足がウサギで、肉球みたいなのがついている。
「あれ……ウサギって肉球あったっけ……」
「なーにをごじゃごじゃ言っておる! ウサギでありますっ! ウサギンヌっ!」
ウサギと名乗った謎の少女はツル同様、謎の言語で話しかけてきた。
「あー、相変わらずだな。……リカ、月神の使い、ウサギだ。月神のトップのせいで変な言葉を教えられてんだ。流しとけ」
「は、はあ」
プラズマの紹介を聞いて、リカはもう気にしないことにした。
「月子さんに会いに行くでごじゃるか? ラビダージャンっ!」
「そうそう」
「こちらへドーゾー! 月の宮へごあんな~いでありますっ! ウサギンヌ!」
ウサギがさっさと行ってしまったので、リカ達は慌てて追いかけた。
「ラビラビダージャン、ウサギンヌ~!」
「はあ……とりあえず、語尾が気になるんだよね……。ラビダージャンとかウサギンヌとか頭に残る」
リカはため息をつきつつ、ウサギについていく。
ウサギについていくと、クリーム色の空間がなくなり、立派な天守閣が見えた。
ただ、天守閣は全体的にショッキングピンクに塗られており、わけがわからない。
「かなりヤバそうな城が……」
「月姫の変神さがわかったかしら……?」
色々な事でお腹がいっぱいのリカは、さらにアヤの言葉で胸焼けしそうになった。
とりあえず、通り過ぎるウサギらしき者達と、月神らしき者達にあいさつしながら、時神達は城に入る。和風なのかと思いきや、中身は子供用のオモチャのような雰囲気だった。
全体的にピンクで、ウサギのぬいぐるみやら、アイドルのポスターやらが大量に飾られている。
女性のウサギはなぜかメイド服を着せられており、さらに意味不明だった。
なんというか、「ゆめかわいい」状態。
「落ち着かねぇ!」
プラズマが頭をかきながら、ピンクのエスカレーターに乗り、上階へ行く。
「目が疲れる……」
「はあ……あのね、月子はこういうのが好きなの」
「月子?」
アヤの言葉にリカは眉を寄せて尋ねた。
「ええ、月子さんと呼べと人に強要してるのよ、彼女……」
「け、けっこうヤバめな感じ……?」
「ヤバめだわね」
話している内に最上階へとたどり着き、一室にあったピンクのすだれに向かい、ウサギが話しかけた。
「月子さん、連れてきたでごじゃーる! ウサギンヌ!」
ウサギが声をかけると、すだれの奥で影が揺れた。
「えー! もうきたのぉ! メイク終わってなぁい! ウサギ、もっとアイドルっぽくダンスしながら、声かけ! はい、もう一回! あー、それからツルは壱の世界が夜になってから来るって!」
甲高い女性の声が聞こえ、ウサギが改まって変な踊りを始める。
「わ、わかりました~! つ、つ、月子さん! 連れてきたよんよん~! ウサギンヌ! ついでに、ラビダージャン!」
ハートと星がいっぱいつきそうなセリフを吐きながら、クルクル回るウサギを見、リカは顔を青くした。