栄次を探せ!1
サヨは学校の帰りに、霊魂、夢の世界である弐の世界に入った。世界を守るシステムの一部であるサヨは『弐の世界』にも簡単に入れる。
この弐の世界は、想像する生き物分の心の世界があり、霊はエネルギーを消費しつくして消滅するまで、誰かの心に住んでいる。
サヨの場合は特殊で、弐の世界の時神、更夜がサヨの世界に住んでいた。
しかし今は、いつもいるはずの更夜がサヨの世界にいない。
「……どこに行っちゃったんだろ。よくわからないけど、ずっと更夜様の苦しい感情だけ伝わってくる。また、激しく感じる。アヤ達、まだ見つけてくれない」
サヨは自分の心の世界をさみしく歩き始めた。
白い花が沢山咲いている。
この花は更夜が好きな花らしい。それを知ったサヨは『想像』し、心の世界にこの名もない花を咲かせた。
「おじいちゃん、喜んでくれたっけ」
サヨは小さな白い花を軽く触ると、また歩きだす。
空は抜けるような青空。
更夜は夜が好きではないようで、いつも早く寝てしまう。
「でも、私が寝るまで寝なかったっけ。早く寝なさいっていつも怒られたなあ」
サヨは小さい頃から更夜の所によく遊びに行っており、親よりも長い時間一緒にいた。
更夜は二十三歳のようだが、年齢は四百歳を超えており、おじいちゃんのようでもあるので、サヨはおじいちゃんと影で呼んでいる。
「……怒ると怖いんだよね、おじいちゃん……」
サヨは苦笑いを浮かべ、空を見上げる。サヨは更夜の存在を、この世界に戻そうと必死に『想像』した。霊魂を呼ぶが更夜は来ない。
「刀で遊んだ時、めっちゃ怒られたなあ。へらへら笑ってたら、説教されてからのお仕置きだよ。お尻百叩き。めっちゃ泣いたね。ほんと、容赦のない平手でございましたぁ~。まあ、私が隠してあった刀を勝手に持ち出したのが悪かったんだけど、刀なんて置いとくなよって思った、正直」
サヨは薄く目に涙を浮かべながら、更夜が住んでいた屋敷を回る。
「悩みも聞いてくれたなあ。女の子の体について聞いた時、おじいちゃんは『なぜ、俺に聞く。女に相談しろ』ってちょっと照れてて、かわいかった。反応楽しんじゃったよね」
サヨは再び白い花畑に戻り、顔を上げた。
「ねぇ、おじいちゃん……今、どこにいるの? おじいちゃんの苦しい気持ちをずっと感じるんだけど。『あの娘』を何回も殺しているの? ねぇ、おじいちゃん」
サヨは更夜に声をかけるが、更夜からの返答はない。
……やっぱり、あの『おサムライさん』か。
更夜様を消したのも、『変えた』のも……。
「そんなに泣くな……」
泣いている幼い自分にかかる優しい声を思い出す。
サヨは目を伏せ、うつむいた。
……優しい私のおじいちゃん。
「何回、あのひとの娘と同じ年齢の子を殺させるつもりなの?」
サヨは栄次にも語りかける。
「おじいちゃんを返してよ、白金栄次……」