会ってはいけない神
雨が降っている。
もう梅雨に入ったのかもしれない。ジメジメした感じと、どんよりした空のせいで疲れが抜けない。
リカはアジサイが咲く公園を横切り、近道をする。今は下校中だ。
薄暗く、霧がたちこめる中、傘をさして制服を揺らしながら、歩く。
「よう! 『TOKIの世界』はあるぜ!」
霧で視界が悪い中、公園のベンチに紫の髪の男が座っていた。男は奇妙なことに創作の着物を着ている。
……いま、私に話しかけたんだよね?
リカは気味悪く思いながら、男と目を合わさずに通りすぎた。
「俺が見えるか?」
再び話しかけてきた男を無視し、リカは慌てて走り出す。
……怖い! 突然なに?
……視界が悪いのを利用して、私をさらうつもりなのかも……。
リカは息を上げながら公園を抜けて、大通りに出た。
「はあ……はあ……怖かった……。なんだったんだろ? マナさんの小説のファンなのかも……」
「リカちゃん、そんなに息を切らしてどうしたの?」
後ろから声をかけられてリカは固まった。
「リカちゃん?」
リカは恐る恐る振り向いて、心配そうな顔をしているツインテールの少女を視界に入れる。
「なんだ、マナさんかあ……」
声をかけてきたのが、知り合いだったので、リカは安心した表情を浮かべた。
「ねぇ、どうしたの? 顔色が悪いよ?」
「マナさーん! 変な男に話しかけられた! マナさんの小説、『TOKIの世界書』の話していたからファンなのかも……」
リカは怯えた顔でマナを仰ぐ。
「見えたの?」
「え……?」
マナの発言にリカは顔を青くして苦笑いを浮かべた。
「ねぇ、平行世界に行ってみたくない?」
「平行世界? な、なに? 物語のこと? パラレルワールドとか大好きだけど。それが?」
動揺しながら尋ねるリカに、マナは微笑を浮かべながら言う。
「じゃあ、ちょっと、平行世界に行ってみようか?」
「え……?」
リカが目を見開いた時、突然に雨音が激しくなった。滝のような雨が降るなか、マナの瞳が金色に輝いているのを、リカは見た。
「マナさん……目が……」
リカがつぶやいた刹那、雨が小雨になり、マナの目も元に戻った。
「じゃあ、今日の、夜中の……零時に第二公園に来てね」
「え……」
手を振って去っていくマナに、リカは口角を上げたまま固まっていた。
……そこまで気になっているわけじゃない……。
「TOKIの世界書」のこと。
でもなんだろう。
なにかが引っかかる。