竜宮戦7
竜宮は驚くほど静かだ。
けん玉で遊んでいる謎の女龍神に上の階段をのぼらされ、時神達はわかりやすく怯えていた。
「あら? 不在だね」
女龍神が辺りを見回してから、時神達を見る。
「ふ、不在なら、このまま出るよ。竜宮に用がなくなったからな」
プラズマは冷や汗をかきつつ、女龍神にそう伝えた。
「ふーん」
女龍神がつぶやいた横で、アヤとリカが同時に何かに反応していた。
なにかの記憶を見ているようだ。
「アヤ、リカ……大丈夫か」
「栄次の映像が見える……っ」
「俺には見えない。だから、過去のようだな」
プラズマが、過去をみているアヤとリカを見据えながらつぶやく。
栄次は黒い髪の幼い少女を寝かしつけていた。畳を重ねて寝ており、栄次が着ていた着物をかけ布団がわりにかけている。
リカは寝にくそうだと思っただけだが、アヤは目を細めて言った。
「戦国時代か江戸時代……かしら?」
やたらと部屋が暗く、電気もない。ろうそくすらないようだ。
「……栄次さん、優しい顔をしてるね」
リカがつぶやき、アヤが答える。
「そうね。誰なのかしら、この子供」
ふと急に時間が飛んだのか、なぜか黒い少女は縄に繋がれ、弱々しく上を見上げていた。
「……なに?」
アヤが意識を集中させ、少女の前に立った人物の輪郭をハッキリさせる。
「……っ、更夜?」
少女の前で刀を持ち、立っていたのはサヨの先祖である更夜だった。
何かを話している。
話している内容はわからないが、悲しそうな表情の栄次が映った。少女は静かに目を閉じ、無表情の更夜が刀を振りかぶる。
なぜか彼は目を怪我していた……。
更夜は一瞬だけ、せつなげな表情をし、目を泳がせると、少女を……。
「ひっ!」
アヤとリカは同時に悲鳴を上げ、手を口元へ当てた。
顔色が青くなり、震え、目に涙を浮かべる。
「……アヤ、リカ! 大丈夫か! 何を……」
プラズマが声をかけるも、アヤとリカは言葉がないのか、口をわずかに動かしているだけだった。
そのうち、リカが口元を抑えたまま、胃液を吐き出した。
「リカ……。おいっ!」
プラズマはリカの背中を優しくさすり、アヤを優しく引き寄せる。
「……何が見えた? 言いたくなきゃ言わなくていいが」
プラズマは会話ができそうなアヤに尋ねた。
アヤは目に涙を浮かべ、震えながら小さな声を上げる。
「幼い……女の子が、更夜に首っ……」
切れ切れに言うアヤの言葉でプラズマは理解した。
「ああ、そうか。これは栄次周辺の当時の記憶だ。今じゃない。……ただ、平和を生きていたあんたらからしたら、かなりショッキングか……」
プラズマがアヤとリカを落ち着かせつつ、けん玉の龍神を見る。
「……で、あんたは俺達を襲わないのか?」
「何言ってるの? 私は戦わないよ。こんな野蛮なゲームしない。君達、ラッキーだったね。他のヤバい龍神にも出会わず、飛龍も不在ならかなりのラッキー」
「お、おう、そうか。な、なら良かった……。地味な感じの龍神もいるんだなあ……」
プラズマは言葉の地雷を踏んだ。何かの単語にけん玉の少女龍神は青筋をたてる。
「地味……地味って言った? 私は地味子じゃないっ!」
なんだか突然怒り出した少女は唐突に意識を失い、その場に倒れた。
「ちょっ……え? あ、お、俺が地味って言っちゃったからっ……ご、ごめん……。ていうか、何?」
プラズマが慌てている中、恐ろしく強い風が吹き、風は倒れた少女に集まり、包む。
すると、少女は突然桃色の髪へと変わり、龍を模した創作着物に身を包んだ状態でゆらりと起き上がった。
頭には龍のツノがある。
「えっ……」
さすがにリカとアヤも目を丸くし、意識を少女龍神へと向ける。
少女龍神は表情がなくなり、冷たい瞳のまま、剣のようになった霊的武器「けん玉」で襲いかかってきた。
「お、おいっ! ま、待て待て! なんだかわからねーが、ごめん! ほんと、ごめんなさーい!」
プラズマがあやまりながら必死に逃げ、アヤとリカも、とりあえず戦う準備をする。
「あの龍神……感情がなくなってるみたいだわ。まさか、二重神格……」
アヤがつぶやいた刹那、プラズマが一撃でDPをゼロにされていた。
ゲームオーバーのはずだが、勝手にコンテニューさせられ、プラズマのDPはまた満タンに戻る。
かまいたちがプラズマを切り裂き、剣のように固い水を纏わせたけん玉に斬られ続けた。
「いてぇっ!」
DPは何度もゼロになり、プラズマは痛みに悶え、血を流す。
アヤとリカも容赦なく襲い、震えて動けない二人をかばうため、プラズマが飛び込んで身代わりになっていた。
「信じ……らんねぇ……。強すぎる……」
プラズマは何度も来る強烈な痛みに足を震わせ、動きが鈍くなったので、何度も無慈悲な攻撃を受け続けることとなる。
「ぐあっ……がはっ……ごほっ……」
反撃の隙すらない恐ろしい攻撃が続き、プラズマの精神も病んできた所で、何かが飛んできた。
少女龍神は吹き飛ばされて、地面に叩きつけられ、意識を失った。元の黒髪になり、服も先程の地味めなものに戻った。
「はあっ……はあっ……なんだ?」
プラズマが肩で息をしつつ、アヤとリカをかばうように前に立つ。
「そいつは大丈夫だ。感情を高ぶらせると地味子は攻撃的な神格が出るが、長くは持たない。超強ええから好きなんだがねぇ。もう終わりかあ。タイムリミットの神力の後半だったから、ぶっ飛ばせた。ははは~!」
プラズマの目の前に赤い髪の荒々しい女龍神が現れた。
豊満な胸を動きやすい袖無しの着物で隠し、鋭い目は赤色で、紫に金の龍が描かれたハチマキを頭に巻いている。
何本もロープのように結わいている髪は長く、まるで龍のようにうねっていた。
まずい雰囲気しか感じない。
「ま、まさかっ……」
……こいつは一番会ってはいけない、アイツかよ……。