表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/316

リカの世界書5

 「別世界って? まあ、彼女は何も知らないみたいよ」

 アヤの一言で、なんとなくその場の空気が柔らかくなった。


 「別世界から来たらしいとは、どういうことだ?」

 目付きの鋭いサムライ、栄次が、なるべくやわらかに尋ねる。


 リカは小さくなりながら「わからない……」とつぶやいた。

 「わからないって、どういうことだよ?」

 赤毛のお兄ちゃん、プラズマは焦っている風でもなく、どこか楽しそうに聞いてきた。


 「だから、わだつみっていう……メグって名前の女の子から、そう言われたんだってば。私は、真夜中の公園の水たまりで、『マナさん』に押されただけ! それで……」


 「海神のメグは知っているけれど、そこから先は、まるで何を言っているかわからないわね……」

 アヤは必死のリカに、戸惑いの表情を浮かべた。


 「ところで、アンタは神なのか?」

 プラズマがリカの顔を覗く。


 「神? 人間だと思うんだけど……」

 プラズマに覗かれて、少し赤くなったリカは小さい声で答えた。

 だんだんと、自分の常識が崩れていく。少なくともいままでは、いたとしても、神様は目に映らなかったはずだ。


 ……なのに……。


 「これは、高天原案件かもしれん」

 栄次は困惑しているリカを見据え、他の時神達にそう言った。


 「……とりあえず……『サキ』かしら?」

 「ああ、アヤ、頼む」

 アヤがそうつぶやき、栄次が頷く。リカにはわからないところで、話が勝手に進んでいた。


 ……サキって人の名前……?

……それとも、サキっていうなにか?

 ……てか、私、どうなるの?

 まさか、拷問とか、処罰とか?

 サキっていう、拷問器具の名前かも!


 「あわわわ……」

 「ちょ、ねぇ! 栄次、アヤ! この子、めっちゃ震えてんだけど!」

 プラズマが苦笑いでリカの背中をさする。


 「リカ、大丈夫よ。原因を調べるだけだからね」

 アヤの言葉に、リカはさらに怯えた。


 「拷問とか!? ムリムリ! ほんと、知らないんだって! マジだって!」

 リカ、絶体絶命の危機。 


 「はあ? 拷問? そんな非人道的なことやるわけないじゃないの」

 「女を拷問する趣味はない」

 「なっははは!」

 アヤ、栄次、プラズマの順で、それぞれ言葉が飛んできた。プラズマは笑っているだけだが。


 「じゃあ、私をどうするの?」

 「調べてもらうのよ。あなたの中にあるデータを」

 「やだ! どうやるわけ? なんかこう……わきわきわきーみたいな……?」

 リカは両手の指を動かし、怪獣のような動作をした。


 「この子、大丈夫かしら……」

 アヤはあきれるが、リカにとっては重大なことだった。

 

※※


 四人はアヤの家には行かず、サキという名前の誰かに電話をかけはじめた。


 電話はリカがいた世界と変わらず、スマートフォンだ。


 だが、見たことのないアプリで画面がいっぱいだった。


 スマートフォンはアヤのものらしい。テレビ電話を起動し、サキという人物に繋いでいる。


 「サキ、今から大丈夫かしら?」

 「はいはーい、どうしたんだい? アヤ。遊びの予定かい? 花見とピクニックするなら、今からいくよ!」

 スマートフォンから愛嬌のある声が響いた。なんだか、愉快そうな人だ。


 リカが恐る恐る画面を覗くと、ウェーブかかった黒髪を揺らしながら、猫のような目をした赤い着物の女が、楽しそうに手を振っていた。


 「え……このひとが……サキさん?」

 「リカ、サキは私達と同じ年よ。神としては手の届かないところにいるけれどね」

 「やっぱり神様なんだ……」

 アヤの紹介を聞いて、リカは顔を再び青くした。


 ……神様ってこんなにポコポコ会えるの?


 リカは疑問を心に入れつつ、アヤ達の会話に耳を傾けた。


 「サキ、この状況を見てわかるかしら……」

 アヤがスマートフォンを回して栄次達をうつし、最後にリカを映した。


 「なんかまずいことが起きたってのはわかるね。別世界の……過去やら未来やらの時神が揃っちゃってるじゃないかい」

 サキのあきれた声に、アヤがため息で返す。


 「そう。で、なんだかわからない子がひとり……」

 アヤはスマートフォンでリカを映した。リカは疑惑を解くべく、笑顔で、サキに手を振っておく。


 「ふーん……なんか、変なデータ持ってそうじゃないかい。データの解析はあたしじゃなくてさ、歴史神(れきししん)ナオがいいんじゃないかい? 霊史直神(れいしなおのかみ)って名前の! 神々の歴史の管理をしているあの子さ!」


 「あー、確かに。じゃあ、そうするわ。サキ、高天原にこの件、持っていってくれないかしら?」


 「おっけー! ああ、えーと君は…… 名前は?」

 ふと、サキに声をかけられたリカは、慌てて口を開いた。


 「あ! えー……リカです!」


 「リカね。覚えておくよ。ちなみにあたしは、輝照姫大神(こうしょうきおおみかみ)、サキだよ。アマテラス大神の力を受け継いだんだ。アマテラス大神は、あたしに力を与えた後にいなくなっちゃったんだけどねぇ。概念になっちゃったから『存在』が消えちゃったらしいよ。今は誰も知らないのさ」


 「え……」

 サキの楽観的な言葉に、リカは濁点がつくような声を上げた。


 「と、いうことで、よろ!」

 「ちょ、ちょ! アマテラス大神って、うちの近くに神社があったけど!? あの神社、からっぽってこと?」

 「……!」

 リカの言葉にサキの顔色が曇った。


 「それ、どういうことだい?」


 「ど、どうもこうも……、あちこちにアマテラス大神、ツクヨミ神、スサノオ尊の神社があるじゃん。最近は係累を祭る神社も……マナさんの……小説の影響で……」


 リカの声はだんだん小さくなっていった。サキを含む全員が、リカを訝しげにみていたからだ。


 「なんで皆、マナさんを知らないの? 『TOKIの世界書』の作者だよ!? マナさんの小説がヒットして、自然信仰とか、先祖信仰とか、古い時代の神様達が再び注目されてて……テレビとか雑誌とかにも載って……なんで? なんで知らないの? ついこないだまで、想像物なんてどこにも存在しなかったんだよ! それを、マナさんが……」


 「……リカ、落ち着いて……。想像物がない? 神は何万年も前からいたわよ……。ついこないだも私達はいたわよ」

 アヤはリカの背をさすりながら、困惑した表情を浮かべていた。


 「そ、そんなの……絶対……」

 リカは震えながら、スマートフォンの画面に映る、サキを見据えた。


 「ま、まあ、とりあえず『ナオ』に……」

 サキが言いかけた刹那、リカは唐突に意識を失った。暗い闇の中、電子数字が回る。


 その暗闇は、シャットダウンしたスマートフォンの画面に似ていた。

 ……今度は……なん……なの……?

 

※※


  「おい、マナ、これからどうすんだよ?」

 「まあ、待って、スサノオ様。これで十回目。まだ、様子を見るよ」

 声は風に流れて消えた。

 


挿絵(By みてみん)

白金(はくきん) 栄次(えいじ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 次々とたらい回しにされる様子に、この異世界転移の話の重大性を感じます。異世界転移なんて巨大なトラブルの中で、その問題や異常に対処しようとする小説がなかなかありませんから、その点の描写がとて…
2021/08/16 21:25 退会済み
管理
[良い点] 次々と出てくる神様! 今度はナオのところへ行かなきゃだけど、混乱するリカちゃん、気を失っちゃって……(>_<) リカちゃんが持ってるかもしれないデータとは、なんだろう。 続き、楽しみに待っ…
2020/06/06 01:29 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ