竜宮戦5
カメに連れられて海の中を進む。不思議と呼吸ができ、何もしていなくても海底へ勝手に向かっていく。
海の中は澄んでいて、とてもきれいで、磯の香りはするものの、生き物が何もいなかった。
いるのは人型ではないウミガメだけだ。
「わあ、かわいい」
呑気なリカが横を泳ぎ去るウミガメに声を上げる。
「あー、そのカメは、イケメンなカメさね。人型になったらかっこいい方」
カメがどうでも良い情報を横から入れ、リカは苦笑いを浮かべた。
「お、男の人? ……だったんだ」
リカがぼんやりつぶやき、プラズマはため息をつく。
「いやあ、もうあんな痛いのは勘弁だな」
「プラズマさん、ごめんなさい。なんか戦えなくて」
「私も……ごめんなさい。怖くなってしまって」
リカとアヤが申し訳なさそうにあやまるので、プラズマは頭をかいて再び息を吐いた。
「あんたらがケガしなくて良かったってことにするさ。それより、アヤ、竜宮が近い。栄次の過去が見えたりするか? ここに来たかどうか。竜宮は対象の神の過去も映すから」
プラズマに問われたアヤは眉を寄せる。
「栄次がここに来たかどうかの過去は見えないわね」
「リカは見えるか?」
アヤの返答を聞いて、プラズマは今度、リカに尋ねた。
「なんにも見えませんね」
「……まさか、竜宮にいねぇってことあるか?」
プラズマはアヤを不安げに見る。
「……どうかしら。過去に戻れる方法は竜宮を使うしかできないはずでしょう?」
「ああ、そのはずだ。やっぱ行くしかないか。情報がなさすぎるんだ」
「……プラズマ……あんな痛い思いしたら、もう嫌よね……。あんなに血が……」
アヤが泣きそうになっているので、プラズマは苦笑いを浮かべた。
「ああ、怖いぜ、正直な。だが、俺がやるしかねぇから」
「……ごめんなさい」
アヤは手でプラズマの頬を軽く触った。プラズマはアヤに触られ、頬を赤くすると軽く笑う。
「そ、そんな顔すんじゃねーって。もう着くぞ」
気がつくとかなり深くまで潜っており、光が届かないところまできていた。辺りにはなぜか『ちょうちん』が浮かんでおり、あかりが灯っている。
大きな赤い鳥居がちょうちんの先に見え、その奥に大きな門があった。門の奥には天守閣が見える。
竜宮だ。
「結界を抜けるさね~」
カメがそう言うと、アヤ達は突然地面に足を着けていた。水の中の感じもなくなり、地上に出たかような状態で、天井にはなぜか青空が見える。
「不思議すぎる……」
リカは状況についていけず、いつまでも戸惑っていた。
カメに連れられ、門をくぐり、しばらく歩くと遊園地のような遊具があり、レジャーランドの雰囲気が出ていた。中にはどうやって乗るのかわからないような乗り物まであり、神の世界らしさを感じた。
カメは遊具を通りすぎ、竜宮本館、天守閣の前で立ち止まる。
「はいはい、この自動ドアから中に入ってくださいねぇ。ハードモード中なので、龍神は基本襲ってきますので、ご注意を」
カメはその一言だけ言うと、逃げるように去っていった。
「……オイオイ……受付、従業員、ツアーコンダクターすら同行しないのか……」
プラズマはあきれた声をあげ、アヤはため息をつく。
「もう、嫌な予感しかしないわね」
三人はとりあえず、自動ドアから竜宮ロビーへ入り込んだ。
ロビーは薄暗く、誰もいない。
レジャー施設なのか廃墟なのかわからない有り様だ。
受付には受付係はおらず、汚い字で行く方向の矢印が書かれていた。矢印を追うと、階段にたどり着き、どうやら階段をのぼれということらしい。
「天津がこんな酷い管理、しないと思うんだよな……。こりゃあ、勝手にやってんな」
プラズマがつぶやき、アヤ達は震えながら階段をのぼる。
のぼった先は廊下になっており、片方が全面ガラス張りで、竜宮の遊園地が見えた。
室内アトラクションもあるようだが、どこも稼働していない。
恐々先へ進むと、一つだけやっている場所があった。
その名は『ドラゴンクワトロ』。
「ドラゴン……」
なんだか危なそうな名前のアトラクションだ。
「ん!?」
ふと、プラズマの目に栄次が映った。
「プラズマ?」
アヤとリカが心配する中、プラズマは意識を集中させる。
「栄次……どこにいる」
……なんで、未来しか見えない俺に過去が映る……。
栄次は夕焼けの森を歩いていた。雰囲気は荒々しく、剣気が辺りに舞い、後ろから黒髪の少女が歩いている。
……過去……じゃないのか?
ひょっとすると……『未来』のことなのか?
プラズマは頭を抱え、つぶやく。
「俺に過去が見えるわけがない。俺は未来しか見えない。過去を映す竜宮にいても、それは同じだ。じゃあ、この栄次はなんだ? 栄次、どこにいる……」
「プラズマ……もしかして本当に栄次は竜宮から過去に入っていない?」
「わからない。いないかもしれない……」
プラズマが不安になってきた所で、麦わら帽子をかぶった、ピンクのシャツにオレンジのスカートを履いた、やや地味めの少女が、けん玉をやりながら階段をおりてきた。
「あ、お客さん? 三階へご案内しまーす」
「あ、ちょっと待って……」
アヤの制止もむなしく、三人は地味な龍神に背中を押され、階段をのぼらされてしまった。