竜宮戦4
『入城券』を持った三人が一息ついたところで、海の中から龍神の使い、カメが現れた。
まいこさんのような格好をしている黒髪の女なため、カメだとは気づきにくいが、緑の甲羅をもっているから、よく見れば気がつく。
「入城券を確認するさね!」
「あ、ああ、これだ」
カメに問われ、プラズマは慌てて券を見せた。
「はーい、じゃあいくさね~」
気の抜けた声を出したカメは海へ飛び込んだ。
「え? ちょっとまって、竜宮は?」
リカが戸惑いの声を上げ、アヤは首を傾げる。
「まさか、海の中にあるなんて言わないわよね」
「海の中にあんだよ、竜宮は。カメかツアーコンダクターがいないと溺れるようにできてるんだ」
プラズマが答え、アヤは納得したが、リカはまだまだ慣れていないのか、頭を抱えていた。
「一体、どうなってるんだろ……」
リカの不安そうな顔を横目で見たリュウはため息をつく。
「てめぇと、おめぇは高天原に入れる神格がねーんじゃねーのか? オーナー天津から怒られるぞ」
リュウはアヤとリカを指差し、睨み付けながら言った。
「ま、まあ、俺の連れということで、入ったからセーフだ。たぶん」
「セーフかねぇ? 俺様は知らねーぞ。少女ら、怪我すんなよ」
なんだか優しい言葉を言ってきたリュウは、手を振りながら去っていった。
しばらく、リュウの背中を眺めていた時神達は、カメの声で我に返る。
「とりあえず、早くするさね! 海に飛び込む!」
海からちらりと顔を出したカメに叱られ、時神達は慌てて何も考えずに海に飛び込んだ。
※※
栄次は霧の中を歩いていた。
辺りは真っ白、前は見えない。
だが、スズの声が聞こえるため、前に進めた。
進んで行くと、森の中へ出た。
森はどこか懐かしい雰囲気がし、夕日が栄次を照らす。
「ここは……」
栄次は少し開けた場所に木の棒が刺さっているのを見つけた。
木の棒の前に白い花が供えられている。
「……墓……」
「そう、私の墓かな?」
栄次がつぶやいた刹那、目の前に忍装束を着た黒髪の幼い少女が現れた。
「す……スズ」
栄次は何百年ぶりに彼女に会ったため、体を震わせる。
「紅色のくちなわ、久しぶり。蒼眼のタカに会いたい? もう一度、『殺しあいたい』?」
スズは子供らしい顔で笑うと、栄次を見上げた。
「……いや、助けたい。助けてやりたい。あの男の過去は壮絶だった。……そして、お前も救ってやりたい。苦しかっただろう? 痛かっただろう?」
栄次はスズの頬に触れる。
「そうだ。あんたはそういうやつだ。私にいつも優しいんだ」
「ああ……更夜を止めねばな」
栄次は墓を通りすぎ、夕焼けの森を歩き出した。
「……ふふ。心が『過去に戻っている』。あんた、今は『令和』なんでしょ? くくく」
スズはおかしそうに笑うと、栄次の後ろを、距離をとり、歩き始める。ちょうど三尺。
九十センチほど。
女は男の三尺後ろを歩く。
本来なら刀が当たらない、女を守るための距離。
敵から女を逃がすための距離。
しかし、彼女はそのために離れたわけではない。
「いつ、殺されるか、わからないからね……。もう、疲れたよ、栄次様」
スズは、今度、悲しそうに目を伏せた。