竜宮戦1
まぶしい光の中、アヤとリカは我に返った。青空が広がり、やや蒸し暑く、どこかリゾート地を思い出すような気持ちになる。
なぜか坂道の上にアヤ達は立っており、太陽の日差しが直に当たってくる。下の方には和風民家が連なり、坂道の遥か下には海が広がっていた。
海辺にある町……といった感じである。
おそらく、ここは、『高天原南』なのだろう。
「着いたな。さて……まずは……」
プラズマは頭をかきながら歩き出す。
「あの……プラズマさん、ここは……」
リカが恐る恐る尋ねてきたので、プラズマは思い出したかのように振り返った。
「ああ、忘れてた。説明してなかったな。ここは高天原南、リゾート地、竜宮城の城下町だ」
「か、観光地みたいですね」
リカの言葉にプラズマは軽く笑った。
「観光地だよ。本来はな」
プラズマは再び、歩き出す。
「ど、どこに……」
リカはさらに怯えながらプラズマに尋ねた。リカはとにかく、何もかもが初めてなのである。
「ツアーコンダクターに竜宮城のツアーを組んでもらう」
「ねぇ、プラズマ……」
アヤの視線が鋭くなり、プラズマは慌てて言い直す。
「あ、遊びにいくわけじゃねーよ! ツアーコンダクターと使いの亀以外、一般神が竜宮に入ることはできないんだよ」
「ああ、そういうことね」
プラズマはアヤが納得したところで歩き出す。しばらく坂をくだり、プラズマは木材でできている、古そうな小屋の前で立ち止まる。
「ここだな」
プラズマは引き戸を開けた。
アヤとリカも恐々ついていく。
中は薄暗く、やや不気味。
奥の方に汚い字で『ツアーコンダクター』と書いてある看板が雑に上から吊り下げられている。
そして、奥の机にいた荒々しそうな男がこちらを見てきた。
黄緑色の短髪はパイナップルの葉のように尖り、なぜかシュノーケルゴーグルをつけて、黒地に金の竜が描かれている着物を半分だけ着ている。
「あー? 時神かよー。どーもー。俺様、ツアーコンダクターの流河龍神だぜ。なんだ? 竜宮のツアーっすかね?」
なんだか男はだるそうに話しかけてきた。
「なんか……いつにも増してやる気がないな、あんた……」
プラズマがあきれつつ、後ろに隠れていたアヤとリカを前に出す。ふたりは怯えながら、怖そうな龍神を仰いだ。
「なんだよ、三柱でいいのかよ? 女ふたりも連れていいなあ、俺様も女の子とデートしてぇー。つーか、女の子の友達ほしいー。しかし……今の竜宮はハードモード竜宮祭り中だから、そんな弱っちいそうな女の子で大丈夫かよ? あ、そこの少女ら、俺様をリュウ様って呼べ。リュウ様だ!」
怖そうな龍神、リュウ様は腰に手を当てると偉そうに胸を張った。彼は客に対して、いつもこうなのだろうか。
「えっと……リュウ様……」
リカがとりあえず、リュウをそう呼んでみた。
「あ、ああ……やめだ、やめ! 恥ずかしいっ! お前、恥ずかしくねぇのか! 初めて会ったやつに『様』付けしてんだぞ!」
リュウが、ひとりで顔を真っ赤にして悶えているので、リカは戸惑う。
「だ、だって……そう呼べって、リュウ様が言ったんですよ……」
「……も、もういいっ! リュウでいいっ! リュウでいいんだよっ!」
「は、はあ……」
リカが気の抜けた返事をしても、リュウはまだ、何かに悶えている。
「リカ、リュウは……なんというか、シャイなんだ」
プラズマに言われ、リカはさらに困惑していた。
「さあて、とにかく! ハードモードなんで入るのに適正か試すぜ! オラ、いくぜ。竜宮前の海に行くぞ」
ツアーコンダクター失格とも言える荒い口調で、ほとんど説明のない言葉を話す。
「なんか、嫌な予感……というレベルじゃない気がするのだけれど」
アヤは怯え、プラズマの後ろに隠れていた。
「リュウ、バイオレンスな感じなのか? 適正か試すっていうのは……」
リュウについて行き、城下町を歩き始めたプラズマはアヤが怯えているので、とりあえず聞いてみた。
「あー、戦って俺様に勝てねーと入れねーんだ。基本、女の子はボコしたくはねーんだが……『DP』……ドラゴンポイントをゼロにしたら勝ちなんでな……。ま、まあ、ゲームだからよ、ケガしても治るし……」
「まさか、三人ともに『HP』……じゃなかった、『DP』があんのか? 三人で一つのDPじゃなく……」
青い顔のアヤとリカを横目に見つつ、プラズマはリュウにさらに尋ねた。
「三人で一つでいいぜ。俺様、女の子は殴りたくないんでね。ただ、俺様が手加減して負けたら、お前らは中に入れるが、竜宮内にいるヤベェ龍神に文字通り瞬殺されて、一生のトラウマと心のキズをおっちまうだろ?」
リュウはため息をつきながら坂道をくだる。
「レジャー施設だよな? 殺しに来るのかよ?」
プラズマはあきれた顔をリュウに向けた。
「だから、イベント、ハードモード中なんだって言ってんだろ! 頭おかしい戦闘狂しか来ない期間なの! あんたらみたいなのはこないの! ふつーは! 何しに行くんだよ?」
リュウは眉を寄せ、威圧的に睨み付けてくる。
「……ああ、白金栄次を探しているんだ。……だがまあ、あんたは言わないだろ?」
プラズマの言葉にリュウは軽く笑った。
「お客様の守秘義務だからなあ」
「だろ? だから入って確認するしかねぇじゃねーか」
「そういうことねー。んじゃ、しかたねーよなァ」
リュウは坂道をくだり、城下町を抜け、静かな海辺に足をつけた。
美しく輝く青い海と白い砂浜、まさにリゾート地の海辺だ。
ただ、ハードモードとかいうシステムのせいか、客がほとんどいない。
「んじゃ、やるぜェい!」
リュウは神力を高め、龍神の荒々しい力を引き出す。
気がつくとプラズマ、リカ、アヤの頭の上に緑色のバーが浮いていた。横にはDPと書いてある。
「残念だが、チュートリアルはねェ! 入るには俺様を倒した後に手に入る『入城券』が必要だ!」
リュウは挑発的にこちらを見てきた。