月夜は過去を映す3
時間はさかのぼり、深夜。
プラズマから見逃してもらった栄次は家の近くにある山道を登っていた。
……この山、見たことがあったのだ。何度も何度も夢に見る。
俺の過去が流れるのだ。
銀髪の男と黒い女童。
今回は酷い。
あの男の過去ばかり見える。
「なにか……あるのか」
栄次は暗闇の中で、地に落ち、暴れているセミを横目に見つつ、舗装されていない山道へと向かう。
「そうか。お前は三回もカラスに食べられそうになったのか、人間の子供にも捕まえられた。ああ、子をなせて良かったな。良く頑張った、安らかに眠れ」
栄次に言葉をかけられたセミは動くのをやめ、安心したように死んだ。
栄次は山の中腹にたどり着く。
草が乱雑に伸びていて、よくわからないが、開けていて草を刈れば広場になりそうな場所だ。
栄次は墓を探した。
あの男が少女に向けて作った墓だ。
さすがに見つからなかった。
「当たり前か。戦国の世の話だ。……ん?」
栄次は乱雑に生えた雑草の中から、白い小さな花を見つける。
「この花……」
「栄次、こっちにきてよ~」
ふと、かわいらしい少女の声が聞こえた。
「……この声は……」
「栄次、こっちにおいで~」
頭に響くように聞こえる少女の声に栄次は目を見開く。
「スズだ……。霧隠……スズだ」
「はーやく来てよ~」
栄次は少女の声に導かれるように歩きだす。
……ちっと通して 下しゃんせ
さあ、一緒に行くよ。
帰さないけど。
※※
平和を願う種族「K」の少女、サヨは、銀髪のカール髪をいじりながら、霊魂、夢、精神の世界である弐の、「自分の夢の世界」にいた。ここにはサヨの先祖、更夜が住んでいる。
「更夜さま~遊びにきたよ~ん!」
サヨは大きな日本家屋のドアベルを鳴らす。
サヨが作り上げた世界は白い花が沢山咲いている日本家屋の世界。広い日本家屋には暇なサヨがよく遊びに来る。
弐(夢、霊魂、精神)の世界は人間や動物、神など、想像する生き物がそれぞれの世界を作り上げているため、沢山の世界があるのだ。
「更夜さま~なにしてんの~?」
サヨは何度もベルを鳴らす。
「さまさま~、更夜ちゃん~、さまさま~ちゃんちゃんかわいいねー」
サヨはてきとうに大きな声を上げるが返答がない。
「……いない?」
サヨは首を傾げ、つぶやいた。
「先祖があたしの世界にいない……不気味だ。あのひとは『弐の世界の時神』なのに」
サヨは誰もいない日本家屋を見上げる。ぬけるような青空が家をまぶしく照らしていた。