月夜は過去を映す2
そうめんを食べ終わったアヤとリカ、栄次とプラズマはゆっくりお風呂に入り、眠りにつく。
部屋がたくさんあるため、時神達はそれぞれの部屋で眠る。
皆が寝静まった深夜、栄次は布団から起き上がった。長い髪をひとまとめにし、静かにドアを開ける。廊下を渡り、玄関で草履を履き、扉に手をかけたとき、声がかかった。
「どこいくんだよ、こんな夜中に」
栄次が振り向くと、プラズマが壁に寄りかかり、こちらを見ていた。
「プラズマ……お前にはかなわないな。未来見をしたのか? ……季節外れた蛍を見に行く」
栄次は扉に向き直り、プラズマに言う。
「そうか。……なあ栄次、ちゃんと帰ってこいよ」
「……はい。朝になれば帰ります故」
栄次の返答を聞き、プラズマは軽く笑った。
「嘘つき」
「……では、行ってまいります」
栄次はプラズマに軽く頭を下げると、そのまま出ていった。
夜の空気がどこかひんやりとし始める。プラズマは去り行く栄次を止めることなく、ただ見守っていた。
翌朝、朝ごはんを準備していたアヤは栄次が食卓にいないことに気づく。
「プラズマ、リカ……。あの、栄次は?」
バターを塗ったトーストをかじりながらアヤがプラズマに尋ねた。
「あー、大丈夫なんじゃね?」
プラズマは茹でたブロッコリーを食べながらアヤにてきとうに答える。
「栄次さん、朝早くからいませんでしたよ? お散歩ですかね?」
リカは皿に大量に盛ったトマトをおいしそうに口に含みながら、首をかしげた。
「……なんか、嫌な予感がするのよ」
アヤがつぶやき、プラズマは顔から笑みを消す。
「……嫌な予感ね」
「プラズマ、あなた、何か知っているわよね? 栄次の未来……見たんじゃないの?」
アヤに問われ、プラズマは苦笑いをした。
……アヤは勘が鋭い。
そして頭が良い。
「ねぇ、プラズマ……」
「言いたくねぇが、桜と月が見えたんだ。銀髪の男……あいつは更夜だったか、ほら、サヨの先祖だ。あいつと、全身黒い女の子がいて……栄次と更夜が斬り合っていた」
プラズマは言いにくそうにアヤとリカに見たものを伝えた。
「それ……まずいんじゃないの? プラズマ、なんで知っていて栄次を止めなかったのよ!」
アヤは顔を曇らせ、プラズマにきつく言い放つ。
プラズマはトーストをかじりながら、無言のままだ。
「ねぇ、プラズマ? 聞いているの?」
「聞いてる。……栄次は、ずっと過去を見ていたんだ。更夜と黒い女の子は、昔になんか関係があった奴らなんだろ? 俺が止めてどうする。何にも知らない俺達があいつを止めてどうすんだよ。あれは決闘かもしれない。口出せねぇよ、俺は」
プラズマが静かに言い、アヤはあきれた。
「そんなことを言ったって、私にはわからないわ。斬り合いなんて……」
「俺もわからねぇよ。そういうの、避けてきたからな」
プラズマとアヤの会話を聞きながら、リカは怯えた顔で二人の言い合いを聞いていた。
「でも、待って……。どこに行ったのかしら。更夜っていう人は霊魂の世界弐にいるのよね?」
「そうだな。ああ、ごちそうさん」
プラズマは味噌汁を飲み干し、淡々と答える。
トーストにブロッコリー、味噌汁という、やや不思議な朝食を終え、プラズマは食器を片付けに流しへと向かった。
「弐の世界に時神が入ったら、ここ、壱の世界の過去がおかしくなるんじゃないかしら?」
アヤがプラズマの背に声をかける。プラズマはアヤとリカの食器も片付けながら、静かにつぶやいた。
「過去はたいして現世に影響はない。人の記憶の管理をしているのは別の神だ。過去は過ぎ去ったもの、思い出すのは思い出。思い出さえあれば過去はいらない」
「……そんな言い方……」
アヤがひどく悲しそうな顔をしたので、プラズマは頭をかくと、再び机に戻ってきた。
「なんかあったら、動こう。栄次は自分でなんかの決着をつけようとしている」
「……そう」
アヤはプラズマの言葉に頷いた後、小さくつぶやく。
「プラズマ、食器を運ぶだけじゃなくて、洗ってくれるかしら?」
アヤの一言でプラズマはあきれた顔を向け、リカは苦笑いをしていた。