最終戦3
ほら、だから言ったじゃないの。
どこからか声がする。
リカはぼんやり、その声を聞いていた。一気に神力を放出し、ワイズどころか、システムまで巻き戻したリカにもう動く気力はなく、電子数字世界でぼんやり浮いていた。
「この……声……」
リカは働かない頭で声の主を思い出す。
「あなた、私と同じ判断をしたね」
嬉々とした女の声。
「マナさん……?」
「オモイカネが改変したシステムをあなたが巻き戻したことで、私は通常より早く戻ってこれたわ」
リカの目の前にツインテールの少女がぼんやりと浮かび上がる。
「時神の威力はやはりすばらしい。システムを巻き戻す力があるとは。そして私の子は私の思想を受け継ぐ」
「……違うよ。私は私だよ。マナさんのためにやったわけじゃない」
「結論は同じ。今回はオモイカネ、タケミカヅチの行動で相殺されて、変わらず今のまま。壱と伍が完全に認識するほどは繋がらなかったから、私はまた動くわ」
マナはリカを見据え、軽く微笑んだ。
「……私は私の行動を信じていく。それでマナさんと戦わなくちゃいけないなら……私は戦うよ。私はマナさんじゃない。リカだ」
「……そう。まあ、それでもいいわ。とりあえず、今回はこれでおしまい」
マナはリカの言葉を軽く流し、手をゆっくり上げる。
リカは警戒し、構えたが、マナは何もやって来なかった。
「出してあげる……。あなたがいれば、壱と伍はいつでも繋がる。私はあなたを産み出せて良かった」
マナはリカに微笑むと、リカを白い光で包み、ワールドシステムから外に出してやった。
「マナさん! ひとつ言うね、私はあなたの操り人形にはならない。絶対に、あなたの思い通りには動かない!」
リカは視界が白くなる中、マナに言い放つ。マナはリカを嘲笑しながら、最後につぶやいた。
「やってみたら?」
「やってみるよ!」
リカはマナに叫び、白い光に包まれ、強制的に消えていった。
※※
アヤはプラズマと栄次にすがりずっと泣いていた。リカをひとりで行かせてしまったことを深く後悔しているのだ。
「私のせいで、リカが消えてしまったらどうしよう……。私のせいで……」
「アヤ、自分を責めるな。まずは落ち着くのだ。お前は勇敢だった。よく、戦った」
栄次に言われ、アヤは口を閉ざすが涙は止まらない。アヤは元々、戦える神ではなく、武器を見るだけで怯えてしまう優しい女神である。怖かったから逃げたという自責の念も持っていた。
「リカはワールドシステムに入ったのか? ここは壱だぞ? どうやったんだ?」
プラズマが問いかけ、アヤはプラズマの胸に顔を埋めながら小さくつぶやいた。
「……ワイズがハッキングしていたの。彼女は『K』……だから弐を開いてハッキングしているんじゃないかと思ったのよ。
ワイズのサングラスが落ちて、私の血が垂れたら、ワールドシステムが開いたの。
それで、怪我をしたリカに『巻き戻しの鎖』を巻いてから、ワールドシステムにワイズと共に入れてしまった。ワイズの神力を防ぐ力がなかった私は、そのまま……。ごめんなさい……私……」
「アヤ、ワイズの神力を結界を張らずに受けたんなら、体の中から痛いはずだ……。あまり動くな。俺は神力が今、ないから……えーと、栄次」
「ああ、神力で損傷した部分に、俺が神力をわけて入れて、修復を助けよう」
プラズマがアヤの背を撫で、栄次がアヤの足から怪我部分に神力をわけていく。
「アヤ、すまぬ。腹を……」
栄次は頬をわずかに赤くすると、服の下に手を入れた。
「あっ……うう……」
アヤも顔を赤くした後、痛みに顔をしかめる。
「アヤ、動くなって。……栄次、あんた、八百年くらい生きてて、その反応かよ。かわいいぞ」
「返す言葉もない……」
栄次が神力をわけたことで、アヤは少し回復した。
「ありがとう……栄次……」
「ああ」
「アヤ、気づいたら落ち着いているな。大丈夫か?」
「だっ、大丈夫。ありがとう……」
頬を赤く染めていたアヤはプラズマの言葉に慌てて答えた。
「顔真っ赤だ。なに? 恥ずかしかったの? かわいいなあ」
「や、やめて……」
アヤはプラズマの腕に抱かれている事に気がつき、さらに頬を赤くする。
「とりあえず、落ち着いたよな? リカを助けにいかないと」
プラズマがため息混じりにつぶやき、アヤ、栄次は頷いた。
「ただ、私達だけではワールドシステムに入れないわ」
アヤが控えめに言った時、目の前の空間が歪んだ。栄次は刀の鯉口を切り、アヤとプラズマの前に立つ。
歪んだ空間からみつあみが覗き、トマトっぽい服を着た少女がぼんやりした顔で現れた。
「リ……リカ!」
アヤ、プラズマ、栄次はそれぞれ叫ぶとリカに向かい走り出す。
プラズマとアヤは驚いていたが、栄次は優しげな笑みを向けていた。
「皆! 帰ってこれた! 全部終わったよ! ただいま!」
リカは時神達を見て安心したように微笑んでいた。
「ごめんなさい、リカ。ひとりで行かせてしまって……」
「無事で良かった」
時神達はリカにそれぞれ抱きつき、無事を心から喜んだ。