最終戦2
プラズマは雪が残る道路にうつ伏せに寝ていた。
一瞬だけ花畑を走ったが、すぐに幻だと気づき、地面がやたらと冷たいことで、雪の上に倒れた事を思い出す。
「あー……頭いてぇ」
プラズマは意識を無理やり戻し、起き上がると、栄次がこちらに背を向けて、血まみれで座り込んでいた。
「え、栄次……大丈夫か?」
「……ああ」
プラズマが心配し、声をかけたが、栄次は短く返事をしただけだった。
「栄次、意識ある?」
「……俺は負けたのだ、プラズマ。お前との約束は守れていない。俺は負けた」
栄次はプラズマを振り返らずに静かに言う。プラズマは栄次の様子を見つつ、近づかずに口を開いた。
「あんたは強い。剣王が退いたんだろ? あんたの勝ちじゃねーか」
「情けをかけられただけだ。……ああ、惨めな気分だ」
「アヤとリカを守れたのはあんたのおかげだよ。怪我は……痛むか?」
プラズマはそこまで言って、口を閉ざした。栄次が何かを必死で堪えていたからだ。
「ああ、わかった。栄次、ここにはアヤもリカもいないし、俺もあんたを見なかった事にする。だが……一つだけ言わせろ。『男は泣くな』っていう時代は終わってんだ。悔しいなら、泣けよ……栄次」
プラズマはしばらく嗚咽を漏らす栄次に背を向けていた。冷たい風が通り過ぎていき、静かな住宅街に日が射してきた時、栄次が深く息をつく。
「……もういいか? 栄次」
プラズマが尋ねてから、少しして栄次が静かに立ち上がり、プラズマをようやく振り返った。
「ああ、プラズマ……すまぬ。……こんなことをしている場合ではないと言うのに……。それから……ありがとうございます」
「ああ、かまわない。怪我は平気か? 肩を貸す。アヤとリカのいる場所へ行こう。たぶん、ワイズとぶつかっているはずだ」
「……ああ、そうだな」
栄次は元に戻り、プラズマに肩を貸してもらい、歩きだした。
プラズマはナオとムスビがいた歴史書店にワイズがいると予測し、歴史書店に向かう。
イタリアンレストランの横にあるコンクリート壁の中の霊的空間を覗き、気配を探る。
「ワイズの気配はしない。アヤの弱い気配がする」
栄次が眉を寄せてつぶやいた。
「……アヤ……」
プラズマは唾を飲み込み、階段を栄次と共に降りていく。
警戒しながら扉を開くと、血にまみれたアヤが力なく歴史書店の真ん中で倒れていた。
「アヤっ!」
プラズマと栄次は慌ててアヤの元へ行く。
「アヤ! ひでぇな……。ワイズにやられたのか?」
「怪我が酷い……。かわいそうだ。……女相手にむごいことをする」
プラズマが怒り、栄次は困惑した顔でアヤの顔の血を着物で拭う。プラズマと栄次の声にアヤが反応し、意識を取り戻した。
「栄次……プラズマ……」
アヤが目に涙を浮かべ、怯えながら二人の名を呼ぶ。
「アヤ、よく頑張ったな。お前はよく頑張った」
栄次はアヤの涙を拭き、頭を撫でた。プラズマがアヤを優しく抱き起こす。
「ワイズにやられたのか? 酷すぎるぜ、信じらんねぇ」
「……私……、リカをひとりで行かせちゃった……!」
アヤは二人の姿をみて安心したのか、プラズマにすがり、泣き叫んだ。
「リカを……ひとりにしちゃったの! ひとりで行かせちゃった。守れなかった……怖かったの……。どうしよう……プラズマ、栄次……どうしよう……」
混乱と動揺で怯えているアヤをプラズマが落ち着かせる。
「アヤ、まずは落ち着け。あんたは頭が良いから、たぶん最適な道を選んだはずだ。まずは落ち着け。俺でも栄次でもどっちでもいいから、すがって泣けよ」
「う……うう」
プラズマはアヤが落ち着くように胸を貸し、栄次はアヤの止血をした。