戦いはまだ6
ムスビは神力を言葉に乗せて威圧的に言い放つ。
「ナオさんを、返せ」
立っていられない重圧がアヤやリカをも襲い、プラズマは慌てて結界を張った。
「栄次、ナオは渡すなよ。あいつは武器を持たない神だ。こちらは武器を向けてはいけないし、世界を壊すこともいけない。一般的な神の世界でワールドシステムなんて開けない。世界を壊すことになるからな」
プラズマは横でアマノミナカヌシの槍を出していたリカに小さく言った。
「あ……ごめんなさい。だから、やらなかったんですね……」
「やると自分から言った場合はいいのだが、サヨのような状態になることはほとんどないんだ。な? ワイズの怖さがわかったか? 八方塞がりにしてくんだよ。こうやって」
ワイズはムスビの神力の高さを知っていて、なおかつ、武器を持たない神ということも当然知っている。おまけに神力対話になったとしても、邪魔ができるよう、ナオを前に置いていた。
「今回は参りました。この神には刀を抜けませぬ。紅雷王様が神力勝負を行うことになります。相手の武器は神力故。相手方の神力がなくなった時、アヤよりも神力が下がった時、アヤは巻き戻しができるのではないでしょうか?」
栄次がナオを抱えたまま、ムスビが飛びかかるのを軽く避けつつ、プラズマに言った。
「やっぱ、そうなるか」
プラズマはため息混じりに言うと、栄次の前に結界を張る。
「時神同士なら、時間をある程度はいじれるんだけれど……」
アヤが控えめにつぶやいた。
「アヤ、先程の戦いで神力をかなり削っただろう? 今、プラズマがムスビを抑える間で回復させてくれ」
栄次は華麗に避けつつ、アヤに小声で言う。
「わかったわ……」
アヤは不安そうな顔のまま、神力を上げ始めた。
「ナオを返せよ!」
ムスビが再び、神力を解放し、言葉に乗せる。凶器に近い鋭い神力がプラズマを突き刺すが、プラズマは未来見で未来予知をし、素早く結界を張り、防いだ。
ムスビは神力を最大まで上げ、プラズマと同じく霊的着物水干袴になると、髪も腰辺りまで伸ばした。
「本気かよ」
プラズマがうんざりした顔をしつつ、ムスビの神力を結界で防いでいく。
「ナオさんは俺が好きなんだよ!」
「ああ、あんたが好きなんだろうよ……めんどくせーなァ……」
ムスビは自身の心の世界にいるため、栄次への嫉妬心が強く表に出ているらしい。
ムスビからの強烈な神力を再び弾くプラズマ。お互い神力を消耗していく。
「栄次、刀は抜くなよ」
「……そのつもりです」
栄次が冷静に答えたので、プラズマはムスビに向き直り、槍のような神力を再び弾いた。
「オイ、ムスビ、そんなに神力一気に出したらぶっ倒れんぞ!」
「お前がナオさんを離せば良いんだよ!」
ムスビは全力で神力を放つので、プラズマも全力で防ぐしかなかった。
お互いは徐々に神力を減らしていく。
「……はあはあ」
そのうち、ムスビが肩で息を始め、霊的着物が剥がれかかってきた。
「そろそろ、神力切れか?」
「ちくしょう!」
ムスビは焦りからか、プラズマに殴りかかる。必死な男の拳は、鋭くプラズマを貫くが、プラズマはムスビの拳を受け流し、余裕なく構えた。
そして一言。
「俺の勝ちだっ! ……すまん! ムスビ、後で酒飲もう!」
プラズマは呼吸を整えると、拳を握り、ムスビの顔面を振り抜いた。
ムスビは空を舞い、地面に力なく、だが派手に落ちる。
「飯もおごる! 許せ!」
「……おい、何をやっている……。暴力はいかぬとお前自分で……」
栄次が頭を抱え、ナオが半泣きでムスビを見ていた。
「ナオ、すまぬ。泣かないでくれ。ムスビは大丈夫だ」
「うう……ムスビ……」
栄次がナオを慰めつつ、プラズマを睨み付ける。
「どうするつもりだ」
「い、いやあ、ごめん……。向こうが殴りかかってきたからよ。男同士の戦いでなんか、気分が変になってきちまって、俺もけっこうギリギリだったんだよ……、ムスビは夢の中だから大丈夫だ。それに、アヤが今から巻き戻してくれるはず。そう、そのはず!」
プラズマは言い訳を並べ、アヤを見た。
「わ、わかったわ……。一回くらいならできそうだから」
アヤは手を前にかざすと、巻き戻しの鎖を意識を失っているムスビに巻く。ムスビは光に包まれ、すぐにその場から消えていった。
ムスビが消えたら、ナオも消え、世界が崩壊を始めた。主の神が夢から覚めたことで、この世界はなくなる。
おまけに巻き戻しで寝る前に戻されているため、毎回変わる夢の世界では存在が危うくなったのだろう。
「……ムスビが夢から覚めて、世界が崩壊を始めたが……どうやって逃げればいいのか」
栄次はアヤとリカのそばに寄ると、困惑した顔をしていた。
青い空はガラスが割れたように崩れていき、宇宙空間が見えてきた。
「やほー! こんなとこでなにしてんの? ワールドシステムは?」
呆然とする時神達の元へ、やたらと陽気な少女の声が響く。
上を見上げると、にこやかに笑っているサヨがふよふよと浮いていた。
「あれ? そんな雰囲気じゃない感じ?」
「サヨだ!」
「助けて!」
「サヨ! 助けてー!」
プラズマ、アヤ、リカはサヨだとわかると必死に助けを求め始めた。