戦いはまだ5
「……おかしいですね……。出せない。ああ、ムスビとも繋がってしまっているようです。元々、私達は二人でひとりの神でしたので、夢の世界もつながっているのかと思われます。あ、暦結神のことです」
ナオの言葉にプラズマが頭を抱えた。
「マジかよ……ワイズ、二段構えにしやがったな……」
「その神って……栄次さんが神力が高いって言っていた神ですよね?」
リカが栄次に尋ねるが、栄次は首を傾げた。リカは今の時間軸の栄次ではないことに気がつき、なかったことにしようとしたが、栄次は納得したように頷く。
「ああ、そうだな。過去見で見た俺が言っていたな。そうだ。神力はかなり高い」
「……ムスビにも気づいてもらうために、もう一度やるわよ。なんなら、今度は私が……」
アヤが言った刹那、プラズマがアヤを見た。アヤは一瞬で口をつぐみ、冷や汗をかいていた。
「ああ、悪い。神力落とせねぇからさ。怖い?」
「……気絶しそうだわ……。無理ね」
「栄次、前に入れ」
アヤを心配したプラズマは栄次を間に挟ませた。
「……はい」
「栄次、あんたが俺に敬語使うの、違和感しかないなあ。わらっちゃうんだけど」
プラズマが複雑な顔で栄次を見る。
「……神力がぶれております、紅雷王様」
「その名で呼ぶんじゃねーよ……」
「それよりも、早急にお願いします。あなた様の神力はわたくしには強すぎます故」
栄次は神力を高め、プラズマの神力に耐えていた。
「ああ、わかった。やるか」
「では、もう一度、お願いいたします」
栄次が平伏しようとしたが、プラズマが止めた。
「平伏は命じていない。そのままで良い。栄次」
「はい」
栄次はそのままでプラズマを見据えた。
「では、お名前をお聞かせくださいませ」
「……私は時の神未来神、湯瀬紅雷王である」
「この世界の持ち主の神にも、神力の提示をお願いいたします。紅雷王様」
栄次は丁寧にプラズマに頭を下げる。
「了解した。私は時の神未来神、湯瀬紅雷王である。領域に踏み込んでしまったこと、まことに申し訳ない。すみやかに出ていく故、見逃してはもらえないだろうか?」
プラズマは空に向かって声をかけた。すぐに男の声がプラズマに答えた。
「時神……よくアクセスを思いついたね」
男の声はリカが以前会ったムスビのものだった。
「……暦結神、出してはくれぬか?」
プラズマはさらに声をかける。
「俺達の上司、剣王に出すなと言われているんだ。ナオさんは言われてないけどね。残念、交渉失敗だね」
ムスビはそっけなく言い放った。
「……夢をみているのでは? こちらは弐の世界にある、あなたの心の世界であり、夢の世界なはずだが」
「ああ、たぶん、俺は寝ている。夢(弐)の俺は壱にいる時とは違うのかもしれない」
「……もうよい。早く出せ」
プラズマは神力をさらに高め、空を睨む。
「出せないと言っている」
空から強力な神力が降ってきた。プラズマは結界を張って神力を弾く。
「ここから出せと言っている!」
プラズマが今度は強い神力を天に向かい放出する。
「神力は同じくらいね。……いや、プラズマのが上かしら?」
「これで、出られるの?」
アヤとリカは遠くで静かに見守っていた。
「出さない。君達を守るためでもあるから。壱と伍を完全に切り離せれば誰も消えないだろう?」
「……では、強行突破といくが、よいか?」
「乱暴だね、俺は戦える神ではないんだ。ご容赦願う」
ムスビは態度を変えない。
挑発にも乗らない。
頭が良く、冷静な男だ。
「……栄次、どうする……? ムスビは夢の中にいる。起きている状態とはだいぶん、違うぞ」
プラズマは栄次をちらりと見た。
「……戦いを拒否する神に乱暴はできませぬ。そうしましたら、暦結神を『起こして』みるのはいかがでしょうか」
「夢から覚めさせるか」
「はい」
栄次の言葉にプラズマはしばらく考える。彼に似合わない真面目な顔だ。
「……アヤ」
プラズマはふと、アヤを呼んだ。アヤはプラズマがいつもと違う雰囲気なので怯え、小さく返事をした。
「……はい」
「ごめんな、怯えさせるつもりはないんだ。神力をこのまま一定にしていた事がすげぇ昔の話だったから、すぐぶれちまうんだよ。こんな話をしたいわけではなく、アヤ、頼みがある」
「はい」
プラズマはアヤとは目を合わさずに言う。目を合わせるとアヤが倒れてしまうからだ。
「この世界の主であるムスビの時間を寝る前に戻せるか?」
「……そ、それはできません。暦結神の神力は私よりも上でございます。自分よりも上の神に時間の鎖は巻けません」
「……そうだった。なんで、アヤまで丁寧語なんだよ……。ちくしょう、ワイズめ、めんどくさいことをしやがって」
アヤの返答を聞き、プラズマは苛立ちを見せた。
「紅雷王様、アヤとリカに危害は加えませぬよう……」
栄次の言葉にプラズマは慌てて神力を安定させる。
「栄次、まだやれるか?」
「……はい」
「じゃあ、ナオをこの世界に呼び寄せ、拘束しろ」
「……はい」
栄次が少しだけ動揺を見せたので、プラズマは慌てて栄次に耳打ちした。
「いや、拘束しろってのは演技な。ナオとムスビは相思相愛らしいから、ナオに協力してもらえばムスビとの交渉もうまくいくだろ? 卑怯だけど」
「わかりました」
栄次はさらに神力を高め、ナオをムスビが展開している夢の世界へ呼んだ。
「霊史直神、ナオ……こちらに出現を命ず」
栄次が言葉を神力に乗せて空へ飛ばす。するとすぐにナオが現れた。
「はい……応じました」
赤髪の少女ナオは栄次の荒々しい神力に怯え、震えながらこちらを見ていた。
「なにもせん。安心しろ。突然の強い神力、まことに申し訳ない。力を貸してほしい」
栄次は神力を抑え、なるべく優しく話しかける。それにより、ナオの表情がいくらか明るくなった。
「ムスビを焦らせ、俺達をこの世界から出させるのだ。ナオ、悪いが捕まったふりをしてくれ」
「……は、はい」
「怯えなくて良い。酷いことはせん」
栄次は軽くナオの体を後ろから抱くと、首に腕を回し、締め付けるふりをした。
「痛くないか? 苦しければ言ってくれ」
「だ、大丈夫です……」
栄次とナオの会話を聞き、プラズマが苦笑しつつ、ムスビに話しかける。
「見ろ、ナオはこちらにいるぞ。どうする?」
プラズマは我ながら卑怯だなと思いつつ、相手の反応をうかがった。
「ナオさんに触るな!」
ムスビはすぐに世界に現れた。
「お、おう……本神が直々にくるとは……」
プラズマは慌てつつ、神力がぶれないよう調整した。
「ナオさんを離せ……。栄次、ナオさんが好きなのはお前じゃなく、俺だ!」
栄次の拘束の仕方が甘すぎたのか、ムスビはナオを抱きしめていると思ったようだ。方向性真逆に怒っていた。
「あ、あれ……? 何言ってんの? こいつ」
プラズマははにかみ、栄次はため息をつく。
「申し訳ありません。紅雷王様、違う方面に伝わったようでございます」
ムスビは怒りながら栄次に襲いかかっていた。
「まいったな……。人質にして、ナオを離せーってなってから、ムスビが慌てて俺達を外に出すっていう方向だったのに、本神登場で襲いかかってくるとは……どうしよう」
プラズマは冷や汗が止まらなかった。