戦いはまだ4
アヤは出る方法を考える。
「この世界でワイズがハッキングし、私達を閉じ込めた。閉じ込められたけれど、弐の世界なはず。つまり、誰かの心の世界。ワイズが私達を人間の心に閉じ込めるわけがないので、おそらく、どっかの神の心の世界」
アヤはリカの背中を撫でながら、栄次とプラズマを仰いだ。
「なるほど、そう考えると、神力の提示をして『命令』すれば出られるかもなあ」
「神力の高い神なら、負けるがな」
プラズマは眉を寄せ、栄次がつぶやく。
その後、プラズマは眉を寄せたまま、再び、静かに言った。
「この中で一番神力が高いのが俺か。俺より神力が高い神……ワイズの世界とかならヤバいな」
「それはないんじゃないかしら。ワイズはハッキングしているのよ。ハッキングしてまでこの世界に私達を割り込ませたのなら、ワイズの世界とは考えにくいんじゃないかしら。ただ、プラズマより神力が高い可能性もあるけれど」
アヤが答え、栄次が頷く。
「とりあえず、やってみるとしよう。プラズマ、神力を最大まで上げろ」
「はあー、あれ疲れるんだよなあ。口上は任せたぞ、栄次。女の子にはやらせたくないからな」
「ああ」
「……何をするの?」
リカはプラズマと栄次の会話を怯えながら聞いていた。
それを見たアヤがリカの背中を撫でながら答える。
「プラズマが神力の提示をするの。対象の神に気づいてもらうため、儀式をするのよ」
「どういう……」
「まあ、見ていて」
アヤがプラズマを見るよう促したので、リカは口を閉じた。
「いくぞ、神力解放」
プラズマが神力を解放し、最大まで上げる。手を横に広げると、プラズマの服は一瞬で水干袴のようなものに変わり、赤い髪が腰辺りまで突然に伸びた。
「あれが本来のプラズマよ。リカ。神は必ず、霊的着物っていう礼服を一着持ってるの。存在を始めた時の姿になるから、プラズマは奈良後期から平安初期。千年ほど前かしら」
「千年……」
リカは呆然とつぶやいた。プラズマは千年も生きているのか。
「髪の長さは神にとっての神力の強さ。プラズマは神力をある程度にしているから、普段は短いの」
「へ、へぇ……調節とかもできるんだ……」
リカは神聖なものをプラズマから感じた。やはり、彼は神なのだ。人間離れした雰囲気を今は纏っている。
「栄次、平伏し口上を」
プラズマが普段の陽気な雰囲気を消し、栄次を静かに見た。
「……はい」
栄次は膝をつき、プラズマに平伏する。
「え、栄次さん……」
リカは以前、スサノオから平伏させられたことを思い出した。
あれとは違う雰囲気だが、元は同じな気がする。
「わたくしは、時の神、過去神、白金栄次でございます。神力の解放、まことに感謝いたします」
栄次は平伏しつつ、言葉を発する。
「お名前をお聞かせくださいませ」
「私は時の神、未来神、湯瀬紅雷王である。……あー、本名言いたくねぇ……ダセェし……」
「……名乗ってくださり、感謝いたします。この世界の持ち主の神にも、神力の提示をお願いいたします。紅雷王様」
プラズマを無視し、丁寧にことを進める栄次。プラズマはため息をつきながら、空を仰いだ。
「神力が下という設定でいくぞ。……この世界を守る神よ、私は時の神、未来神、湯瀬紅雷王である。こちらの世界から出していただきたい。勝手に入り込んでしまい、まことにすまない」
プラズマが空に語りかけると、すぐに女の声がした。
リカの知っている声だ。
誰だったか……。
「な、なんで私の世界(夢)に時神がいるのですか!?」
「この声、ナオか」
栄次がつぶやき、リカは思い出した。あの神々の歴史を管理しているという、歴史神ナオだ。
「ああ、ナオだったか。なら、俺より下だ。と、いうか知り合いだし、出してくれるよなあ……」
プラズマはいつもの雰囲気に戻ると、陽気に笑った。
「出しますよ」
「その前に、寝る前にワイズに会ったか?」
プラズマが尋ね、ナオは素直に答える。
「はい。会いました。壱と伍の切り離しをするとか……剣王と話しておりましたが……」
「時間関係はおかしくなっているか?」
今度は栄次が尋ねた。
「ええ、時計が止まって、調査に行こうとしたら、突然に眠気が……」
「そうか、ワイズだな……」
プラズマが頭を抱え、ナオが控えめに再び声を発する。
「とりあえず、出しますね……」