戦いはまだ3
「うーん……ワイズ、何考えてんだか……」
プラズマは苦笑いでリカを見た。
「俺はな、俺達をリカと共にこの世界から脱出させるのはおかしいと思うのだ。狙われているのはリカ。なぜ、俺達をここに閉じ込めた?」
栄次は腕を組み、ため息をつく。
「……つまり、もう狙う気はないのよ。さっさと出ましょう。あの神は何を考えているのかわからないけれど、無駄なことはしないの。私達をここに閉じ込めたのも理由があるはずだけれど、今はわからないわ」
アヤは冷静に分析し、世界からの脱出方法を考え始める。
その横で栄次はため息まじりに口を開いた。
「おそらく、ここは弐の世界だ。時神全員がこの世界にとらわれてるということは、壱の世界の時間がどうなっているかわからぬ」
「それだな。ワイズはこのタイミングでなんか裏でやってんじゃねぇか……」
「なにかって何をしてるんですか?」
栄次とプラズマの会話にリカが入り込み、尋ねた。
「んー、わからねーが、アイツ、『K』だよな」
「そうね……」
プラズマの言葉にアヤが答える。
「で、剣王と同じく、壱の世界を守ってる。んで、異物データのあるリカを排除しに来ないで、俺達皆合わせてここに閉じ込めた……つまり……どういうこと?」
プラズマは良いところで首を傾げた。
「時間関係がなくなった所で、壱と伍を完全に切り離そうとしているのではないか? 時間という厄介な部分がないのだ。比較的自由にいじれるのではと」
栄次が頭を抱えつつ、答えを導きだす。
「そうね。リカはこちらの世界で適応したのよ。排除をする必要はない。そうすると、どうするか……壱を守るために今後、伍からの情報を遮断し、二度と争いを生まないようにする」
アヤが頷きつつ、リカの背中を撫でた。
「じゃあ、私……元の世界には帰れないの?」
リカが不安そうにアヤに尋ねた。
「……帰りたい? たぶん、帰っても誰もあなたを覚えてないわ。壱に入った段階で、伍にいた時とはデータが書き換えられて違うんだもの。人間に認識はされないと思うわ」
アヤは言いにくそうにリカに言う。神はデータでできている。
壱で適応可能なデータに書き換えられたのなら、伍にいた時のデータとは違う。
伍は想像物が乏しい世界。
壱は神々や『K』など、人間が想像したものが実際に「存在」している世界。
リカは伍の世界での神だった。
それが壱の世界に入ったのだから、もう壱の神でもある。
「……お母さんとお父さんも偽りで私の家族じゃなかったんだ……。向こうに帰っても私、ひとりぼっちか……」
リカはうつむく。
「リカ、私達は側にいるわ」
アヤが優しくリカを抱きしめた。
「そうだ。あんたが新しく存在を始めたから、俺と栄次も元の世界に帰らなくてよくなったらしいじゃねぇか。だから、一緒にいるよ」
「ああ、そうだな。共に歩もう」
プラズマと栄次はリカの頭を撫でる。リカは十代の風貌だが、産まれてまだ一年だ。
わけのわからないことばかりが襲い、泣いてばかりだった。
少なくとも壱の世界にいれば、味方がいる。
リカは壱に残る決意をした。
「私は……全然世界のことがわからない。……だから、皆がいるこっちの世界にいることにするよ」
リカは元の世界に帰らない判断をした。それは世界の判断か、リカの判断かはわからない。
リカはまだ、生まれて一年。
そんなことすら知りもしない。
「リカ……泣くな。お前は泣かないで戦ったのだろう? よく頑張ったではないか。だが、まだ終わっておらぬ……。まずは立て、リカ。お前はまだ強くあろうとしなくともよいが、お前が戦うべき相手は思ったよりも大きいのだ」
栄次がリカの目にたまった涙を拭き、プラズマとアヤを見る。
「とりあえず、出るぞ」
「で? どうやって出るかだよな……」
「ここは浮島しかないわね、さあ、どうしましょうか」
プラズマとアヤはリカを気にかけながら、出る方法を考え始めた。