ワールドシステム4
「嫌だよぅ……」
リカは泣きながら手からナイフを出現させた。
ふと、栄次の言葉が頭に浮かぶ。
ひとりで戦わないといけない時、泣いていてはいけない。
周りが見えなくなる。
「私がここで死んだら、時神さん達が死んでしまうかもしれない。彼らを助けないと……」
涙で滲んだ視界は何も映さない。マナの槍も見えず、リカは身体を傷つけられる。
ナイフはあっけなく、遠くに飛ばされ、消えた。
「……痛い……」
今回は電子数字ではなく、血が流れていた。
泣くな……。
泣いたら何も見えないよ。
「勝たないと……死ぬなら……戦わないと……」
リカは震える手でナイフを握り、マナに攻撃を仕掛け始めるが、マナにはまるで当たらない。
「当たらない……人を傷つけたことなんて……ないんだよ……」
マナの槍が腹をかすめ、リカは血を撒き散らす。
「痛いよ……助けて……」
リカの声はどこにも届かない。
泣かないで、周りを見ないと……。
何も見えない……。
マナはリカの頬を斬り上げる。
リカはわずかに後退してかわし、かすり傷で済んだ。
「痛い……どうすればいいのかわからないよ……」
……私が時神なら、アヤみたいな力があるのかな。
アヤはどうやってあんなことをしているんだろう。
リカは涙と血を拭いながら必死に考える。
……私はアマノミナカヌシの一部からできたと言っていた。
つまり、マナと同じことができる能力があるのかもしれない。
時神達も他の神も神力を高めていた。
リカは乱暴に涙を拭くとマナに視線を移し、息を深く吐いた。
「神力を高める」
マナが槍を多数出現させ、リカに向けて放つ。
「やり方わからないけど、手に力を込めてみる」
手に力を集中してみたら、結界らしきものが手から小さく出現していた。
「……これだ」
リカは何も考えずに手を前に出し、力を集中させる。
透明な板のような結界が現れ、マナの無形状な槍をすべて弾いた。
「……できた」
気がつくと目の前でマナが槍を振り抜いてきていた。リカは慌てて後ろに後退する。
首すれすれを槍が通りすぎ、リカは冷や汗をかいた。
「よく避けたねぇ。今のは運命かな?」
「……泣くな、負けるな! 負けたら死ぬんだ。死にたくないんだよ!」
リカは手に力を集中させる。
ナイフを再び出そうとしたが、出たのはマナと同じ無形状の槍のような光だった。
「槍だ……」
「私と同じ槍。私の力を持っているから当然か」
マナが愉快そうに笑うが、すぐに笑顔は消えた。
「ん? ……これは、鎖?」
気がつけば、時間の鎖が巻き付き、マナの動きを封じていた。
リカはマナに槍を向け、恐ろしい速さで突っ込む。
「強力な時間停止……そして、リカ自身に早送りの鎖ね。……ふふ。やはり、負けか」
マナが苦笑いをした刹那、リカの必死な顔が目に映った。
「うわああ!」
リカは叫びながら、マナを貫く。槍はマナを貫通し、リカはそのまま勢い余って電子数字の海へ放り投げ出された。
「世界はやはり……繋がりたくはないようだ。『世界』よ、もう、二つの世界のデータを取るのはやめてもよい。平和に世界がまわる最適な道などないのだから。無意味な行為だぞ」
マナは電子数字を撒き散らしながら消えていく。
「ま、マナさん……」
リカはマナに手を伸ばすが、マナは手を取らず、リカに笑いかけた。
「君の勝ちだね。私は死なない。私はアマノミナカヌシの一部。だから、何度でも現れる。また、会いましょう? 次は敵か味方か。どちらにしろ、世界は繋がる。伍の世界の時神、あなたが『存在』していれば、伍は矛盾だらけだ。とりあえず、世界の方向性はわかったから満足よ。じゃあ、また」
マナはゆっくりと電子数字に分解されながら笑顔で消えていった。
「マナさん……」
リカはせつない顔でその場に佇む。
……伍の時神リカ……。
しばらくして無機質な音声が空間に響いた。
……壱に適応。
バックアップ世界、陸にも今後、出現予定。
矛盾の修正をおこないます。
世界の修復をおこないます。
修正、世界を繋ぐ時神として今後はすべての世界を繋ぎます。
伍にも出現可能です。
アマノミナカヌシのデータ保有のため、すべての世界へ介入可能です。それにより、壱(現世)、参(過去)、肆(未来)の時神は、リカにより壱にまとめられます。
時神のデータ改変をおこなっています。
アップデート完了しました。
「この頭に響く音声はなんなんだろう……。誰が話しているのか」
リカは力が抜けてしまい、膝をついて、この声を聞いていた。
「とりあえず、勝てた……マナさんは死なないって言っていたから、だ、大丈夫だよね……」
ひとりで自問自答し、次はワールドシステムから出る方法を考え始める。
「そういえば、どうやって出るのかな……」
マナが消えても相変わらず電子数字が舞う、宇宙空間だった。