ワールドシステム1
リカが呼吸を整え、サヨが顔を引き締めた。
「じゃあ、いくよ、『イツノオハバリ』!」
サヨが叫び、十拳剣を手に出現させる。
「アヤさん、ごめん」
「ええ……」
リカは再び、霊的武器ナイフを出すと、震える手でアヤの指を薄く切った。
アヤの血が下に落ち、五芒星が広がる。
すぐに無機質な音声が響いた。
……ワールドシステムを開きました。
……ワダツミの矛、もしくは……
「ていっ!」
無機質な音声が最後まで言い終わる前にサヨがイツノオハバリを五芒星に刺した。
……ワールドシステムを展開中。
「……いよいよか」
リカがつぶやき、五芒星の光が強くなる。電子数字が飛び交い、時神達に巻き付いていく。
しかし、サヨだけは何もなかった。
「あー、あたしは入れないっぽい」
サヨが苦笑いをした刹那、無機質な音声が再び響いた。
……『K』はアマノミナカヌシによりブロックされました。
「ごめそん~、そっちでやって!」
サヨの声を最後にリカ達は電子数字に引っ張られ、五芒星に吸い込まれていった。
※※
雪の降る公園のベンチに座っていた男女が立ち上がる。
「スサノオ様、来たわよ」
「あー、じゃ、ちょっくら行くかね」
スサノオは不気味に笑うと、電子数字に紛れて消えていった。
「さあ、始まった。……この世界を破壊してやるわ」
マナは狂気的な笑みを浮かべると、スサノオと同じく、電子数字に紛れて消えた。
※※
リカと時神達は宇宙空間を浮遊していたが、気がつくと夕闇になっていく海原にたどり着いていた。
海のさざ波のみが聞こえ、美しく静寂な世界。
「どこだ?」
「ワールドシステムなのか?」
栄次がすぐに刀の鯉口を切り、プラズマは警戒する。
「……きれいな世界ね」
海の真ん中に社があった。
「ここは、ワールドシステムじゃねぇぜ」
ふと、刺々しい男の声が響いた。
「ん?」
プラズマが声の方を向き、リカが怯える。
「誰だ?」
「俺を知らねーとは、まあまあ……いいや。俺はスサノオだ」
「スサノオ? スサノオ、アマテラス、ツクヨミはいないはずだぞ! 伝承に残っているだけの幻のはず」
プラズマは冷や汗をかきながら、スサノオを睨み付けた。
「はあ? あー、そうだなァ。こっち(壱)の神は『世界改変』時にそういう風になったんだっけなァ。俺達は伍にいんだよ。信仰がなくなった世界で無駄な活動してんだよ。壱(現世)にも出ていけねーしな。
俺達は伍に行ったから、壱で消滅したんだ。
俺らはな、第二次世界大戦後の『世界改変』で、アマテラスの『信仰心がない世界も救う』っていう、難解なデータのせいで伍に閉じ込められたんだ。……しかし、時神はすげぇな、あんたら三人、この世界の鍵なんだぜ」
「……? どういうことかわからねぇんだけど。第二次世界大戦時に『世界改変』?」
プラズマは眉を寄せるが、スサノオは豪快に笑った。
「あっははは! だよなあ、だよなあ、そういう反応になるよなあ!
記憶が書き換えられてんだからよ。第二次世界大戦は象徴の神々を掲げ、人間同士が醜い争いをした戦争。
ニホンは『アマテラス』を背負って人が死んでいった。アマテラスはたいそう心を痛めていたなァ。『世界』のシステムが世界を保たせるために、信仰がない世界伍と、信仰が続く世界壱にわけて、うまくいくデータを取り始めた。
それが今も続いている。
おっと、こんな話をしても、あんたらにはわからねぇよなァ。どーせ、あんたらはこちらのシステムによりまた、記憶を消される。……ただ、ワールドシステムを混乱させられるかもしれないと情報を開示した。ささやかな抵抗だ」
スサノオが不気味に笑った刹那、頭に警告が響いた。
……エラーが発生しました。
……エラーが発生しました。
「ははは! エラーだ! 知らない『情報』を無理やり入れたからなあ! 知らないんじゃない。消去されてるだけだ! 後は……鍵となる壱の時神を消滅させて、時間をなくし、伍の時神で世界を繋ぐ」
「よ、よくわかんねーが、襲ってくるみたいだぞ!」
「『アマノムラクモ』……」
スサノオが剣を出現させた。
「リカ! ここはまだ、ワールドシステムじゃないらしい! 自分でワールドシステムに入れ!」
プラズマが銃を構え、栄次が刀を抜く。アヤはプラズマと栄次の後ろで時間の鎖を出現させた。
「異様な気配だ……。あの剣はなんだ……」
栄次はアマノムラクモの剣を警戒していた。
「勝てるかしら……。私達を消そうとしているみたいね……」
アヤは息を吐きながらスサノオを睨み付ける。
「アヤ、無理するな」
「あいつはやべーぞ……」
「あなた達だって無理してるじゃないの……。リカ、私達はなんとかする。あなたは……ワールドシステムに……」
アヤはリカに鋭く言ったが、リカは動揺していた。
「ここがワールドシステムじゃなかったんだったら、どうすればいいの?」
「なんとかして、ワールドシステムに入るのよ! いいわね? あの、社の中に霊的空間があるかもしれないわ。社はね、存在している意味があるのよ」
「社……」
「早く行きなさい! 今回、あなたは対象じゃない! スサノオは私達を消そうとしている」
アヤが叫んだので、リカは涙目で走り出した。
「皆、死なないで……」
「リカ……」
ふと、栄次がリカを呼んだ。
「ひとりで戦わねばならなくなった時……泣いていてはいかぬ。まわりが見えぬぞ。まわりが見えぬとせっかくの好機を逃してしまう。……泣くな。リカ。振り返らず、進め」
「……栄次さん……わかりました」
リカは栄次の言葉を受け、涙を拭うと海に向かい走り出した。
あの社へ向かう。