弐の世界へ!3
更夜は栄次の怪我を治療すると、何も言わずに部屋を出ていった。お礼を言うのを忘れた事にリカは後から気づいたが、もう遅い。
とりあえず、リカはサヨに目を向ける。
「ん? なーに?」
サヨは満面の笑みを向けてこちらを見てきた。
「ワールドシステムに入るために……さっきの剣がいるんですが……持ってます?」
リカはサヨが何も持っていないことに気づき、冷や汗をかいた。
「ん? ああ、これ?」
サヨは右手をかざして剣を出現させた。
「あ、それです……。も、持っていたんですね……。い、今、手から突然出てませんでしたか?」
「ん? そりゃあ、霊的武器だから、当たり前じゃん」
「……その当たり前がわからない……」
不思議そうな顔をしているサヨを横目に見つつ、リカは頭を抱えた。
「で? あんた、ワールドシステムとかいうの出してどーするわけよ?」
「……逃げようと思って出そうとしていたから、よくわからんです」
リカは震える身体を抑えるべく、自身の身体を抱く。
プラズマがリカの背中を撫でながらサヨを仰いだ。
「俺の未来見でワールドシステムについて見てみようとも思ったが、リカのループ未来が強すぎて見えないんだ」
「ふーん……じゃあ、開いてみるしかないってこと? 打開策として」
「そういうことだ。ワールドシステムならリカのループを終わらせられる何かがあるかもしれないだろ?」
「まあ、そうかもしれないけどー、あたしも知らないからね?」
サヨはプラズマに苦笑いを向けた。
「う……」
うめき声と共に栄次が目覚めた。
「栄次さん!」
リカが慌てて栄次の元へ行く。
「リカ……無事か……」
「栄次さんっ。ごめんなさい……怪我をさせてしまい……」
「……泣くな。あやまらなくて良い。ここは?」
栄次は辺りを見回してから首を傾げる。
「ここは、あたしの心の中で、弐の世界だよーん」
リカの頭に飛び付いたサヨが愉快に栄次を覗き込み、言った。
「……弐?」
「まあ、いいの、いいの。それよか、弐の世界からワールドシステムを開きたいんじゃなかった? ね、リカだっけ? あんた」
サヨが面倒な会話をすべて省き、リカに微笑む。
「あ、はい。リカです……」
「かたっくるしいなあ! たぶん、そんなに年齢変わらないからタメ口でいいって」
「う、うん……じゃあ、遠慮なく……。ワールドシステムは弐からじゃないと開けなかった。だから……ここから……」
サヨにおされつつ、リカは栄次に細々と語った。
「そんな話だったのか?」
「だったらしいぜ」
栄次の横にプラズマが座り、お茶を差し出す。
「あ、まだ飲んでねーから、飲む?」
「……すまぬ……」
「しかし、アヤが起きねーな……。剣王のやつ、アヤまで……。起こしてみるか? ……リカかサヨ、やってみろよ」
プラズマが戸惑いつつ、リカとサヨを見る。
「……アヤさん……」
「リカ、泣くなよ。死んでねーから……」
「ずっとわけわからないまま、頑張ってきたけどっ……こんなに親切にされたことなかったから……心が痛いんです」
リカは我慢できなくなり、嗚咽を漏らしながら涙を流し、目を何度もこする。
「リカ、同じ時神じゃねーか、助け合おうぜー」
プラズマがリカを慰める横でサヨがいたずらっ子のような笑みを浮かべ、立ち上がった。
「じゃ、あたしが起こすわ。アーヤー! へいへい! ツンツンしちゃうよーん!」
「最強に頭悪い起こし方を始めたな……」
アヤの脇腹を突っついてるサヨを眺め、プラズマは頭を抱えた。
「うう……」
そのうち、アヤの呻く声がし、不機嫌そうなアヤが身体を起こした。
「……なんなの?」
あまりにしつこい起こし方だったので、アヤの第一声はこんな感じだった。
「と、いうか、ここは……?」
「あたしの世界で弐の世界! 四回目なんですけどー?」
アヤの言葉にサヨがうんざりしたように答える。
「弐の……」
「アヤ! 良かった! 無事だったんだ! 死んじゃったかと思った!」
アヤの頭が回転する前にリカがアヤに飛び付いた。
「……剣王は?」
「とりあえず、まいた!」
アヤの言葉にすぐさま答えるサヨ。
「そう……。よくわからないけれど……無事ってことね」
「そうそう」
サヨは笑った。
「皆、起きたからワールドシステムに入ってみるか? アヤはまだ休む? お茶飲む?」
プラズマが口をつけていなかったサヨのお茶をアヤに差し出す。
「あ、ありがとう……」
「お茶係じゃん、おにーさん」
サヨの声を聞き流しつつ、アヤはお茶を口に含み、落ち着いた。
「……落ち着いたわ。プラズマ、ありがとう」
「ああ、無理すんなよ。平気か? けっこうきただろ?」
「ま、まあね……。私は大丈夫よ。あなたと栄次のおかげね」
「照れるな~、な? 栄次」
アヤの言葉を聞いたプラズマは軽く笑いながら栄次を見る。
「感謝されることは何もしておらぬ。負けたしな」
栄次はため息をつくと、腰に刀を差し、立ち上がった。
「落ち込むなよ、あんたはよく頑張ったって」
「プラズマ、手当てをしてくれたのか? すまない」
栄次は身体に包帯がまかれているのに気がつき、プラズマにお礼を言ったが、プラズマは首をかしげた。
「俺じゃねーよ、サヨの先祖のおかげだよ」
「その娘の……?」
「まー、いいから、どうすんの? ワールドシステム」
プラズマと栄次の会話を切り、サヨが入り込む。
「ああ、皆が大丈夫ならやってみるか?」
プラズマがリカに目を向けた。
「あ……はい」
リカは震える声を頭を振って散らし、息を吐く。
「はい」
もう一度、今回はハッキリと言葉を口にした。