夢の世界に戦火の日1
ある少年が笑っている。
元気の出る注射をしてもらったと。
もうひとりの青年は照れていた。
好きな彼女から「チョコレイト」をもらったと。
彼女は泣いていたが、自分は嬉しかったと言った。
それから時間が経たずに男達は狂っていった。軍の幹部ですらも笑いながら刀を振り回していた。
親は「国のために頑張りなさい」と泣きながら息子を送り出した。
息子は「さようなら」と言って消えた。
敵にやられた。
仲間が沢山やられた。
復讐してやる。
あの憎いやつらを全員殺してやる。
この俺が。
仲間のかたきをとってやる。
お前ら、安心していけ。
安心して……死ね。
沢山のヒコウキが敵戦艦に墜落した。
敵に落とされたわけではない。
自分から……戦艦に当たりに行ったのである。
命中! 命中!
「ー……隊命中。……隊も命中。……隊、引き続きいけ!」
「アハハハハ! アーヒャハハハ! 敵戦艦発見ー!」
「お母さん、お母さん……お守りください、お守りください……死にたくないィ!」
狂って笑いながら死ぬ者、泣きながら死ぬ者……人はそれぞれの想いを抱くがその後は何も残らない。
何も残らない。
残るものは残された者……。
「……元気の出る注射、泣き崩れた彼女からもらうチョコレイト……全部、与えられた方は知らない。それに何が入っていたかなんて……。皆、恐怖をなくして笑って死ねる」
夏が終わる。
暑い夏が。
赤い髪の青年、プラズマはうちわで扇ぎながら落ちていく夕日を眺めていた。
「日は明日ものぼる……。でも明日には今日話した人はいない」
プラズマはぼんやりしながら雲が流れる様を見ていた。
「なんでこんなこと、思い出しているんだろう。俺は」
いつの間にかうちわで扇ぐほど暑くはなくなっていた。それなのにプラズマはまだうちわで扇いでいる。
呆然と沈む太陽を眺めている。
「プラズマ……? お風呂」
茶色の短い髪の少女アヤが障子扉から顔を出し、プラズマを呼んだ。しかしプラズマは振り向かなかった。
「プラズマ……、お風呂沸いたわよ……。どうぞ……」
アヤはさらに控えめに声をかけた。
「プラズマさん、なんかぼうっとしてるね」
アヤの横から三つ編みの少女リカが顔を出した。
「……リカ、最近、プラズマ、変なのよね」
「ちょっと声あげます! プラズマさん! お風呂です!」
リカの声でプラズマが振り向いた。
「あ、ああ……リカとアヤ」
「どうしたんですか? ずっとぼうっとしてて……」
リカに尋ねられ、プラズマは頭を抱えた。
「ずいぶん冷えてきたなあって……」
「もう、うちわで扇ぐほど暑くないですよ」
「ああ……まあ……」
プラズマは苦笑いを浮かべつつ、立ち上がった。
「お風呂、先に入っていいの? いつも、俺を一番先にしてくれるけど、そういう気遣い、しなくていいのに。お風呂、汚れちゃうよ」
「……あなたはいつもきれいじゃないの。きれいにしてからお風呂に入ってくれてる。今日はこばるとをお風呂に入れてくれるかしら? 栄次が珍しくうたた寝してるのよ」
アヤの下から黒髪の少年が顔を出した。
「ああ、わかったよ。こばると、風呂入ろ!」
「やった! お風呂だ! お風呂用クレヨン持ってくる!」
黒髪のかわいらしい少年、こばるとは楽しそうに走っていった。
「ちょっと! こばると!」
アヤは落ち着きのないこばるとに頭を抱えた。
「あー、いいよ。子供なんて皆こんなもんだ。お風呂で遊んで、歯磨きして、絵本読んで寝かせておくよ。アヤとリカは映画でも観て、女子会してなよ」
「プラズマさん、大丈夫ですか? こばると君、素っ裸で走り出したりしますけど。お風呂の後……」
リカにそう言われたプラズマは笑ってしまった。
「大丈夫だよ。あれだろ? いつも栄次に怒られてるだろ、こばると」
「まあ……ええ、そうですね」
リカが苦笑いを浮かべたところで男の声が響く。
「こばると! 脱いだ物をそのままにするのではなく、ちゃんと一ヵ所に! って待て! 裸でうろつくな。風邪を引くぞ!」
「栄次……起きちゃったわ」
「いいよ、俺が入れるから」
アヤがあきれていたので、プラズマはそのまま廊下を歩き、こばるとの元へと向かった。