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エピローグ

 時神達はそれぞれの時間を過ごした後、更夜がいる屋敷に向かう。サヨの迎えで屋敷に入ると、ルナやこばると、スズが騒いでいた。冷林もいた。


 「子供は元気でいいなあ……。あ、冷林いたんだったな。忘れていたぜ……」

 プラズマがつぶやき、更夜に挨拶をした。


 「……色々と作ってしまい……品数は多いが腹は減っているだろう?」

 更夜が時神達を部屋に案内し、トケイが食事を運びながら手を振っていた。


 「おじいちゃんの煮しめ、おいしいからオススメー!」

 サヨが楽しそうにグラスなどを持ってきて言った。


 「つまんだのか? 全く、行儀が悪い」

 更夜のあきれた声を聞きながら時神達は座敷に座った。


 「僕は甘いものを作ったんだ! デザートに出すから楽しみにね」

 トケイが忙しなく更夜のお手伝いをしながらアヤを見る。


 「ええ、あなたの甘いもの、おいしいもの。楽しみよ」

 アヤは笑顔でトケイにそう言い、トケイは幸せそうに台所へ引っ込んで行った。


 机には煮しめや魚、味噌汁、卵焼き、漬け物などが置かれ、なかなか豪華だった。居酒屋らしいメニューといえばそうだが、どちらかと言えば定食だ。


 「そろそろ秋だからな。キノコの炊き込みにしてみたぞ」

 更夜がキノコご飯のお茶碗を配る。


 「……更夜、あの二時間足らずで大変な煮しめを作ったの?」

 アヤに問われ、更夜は得意気に頷いた。


 「手際はいい方だ。料理は得意だからな。キノコ飯に煮しめに使ったダシを混ぜた。なかなかイイ味だ。冷林、お前は……えー、リンゴジュースでいいか?」

 更夜の声かけに冷林は自分のお茶碗を運びながら頷いた。どことなく嬉しそうだ。


 「ちーっす! ウケモチ便でーす!」

 ふと、毎回食事の時に現れる百合組地区の稲荷達が現れた。


 「もー、毎回、配達便よそおわなくていいよ……。詐欺だし。食べに来ただけじゃん」

 「ま、そんなとこー」

 キツネ耳のミノさん率いる稲荷達をお部屋に入れながらサヨがあきれた声をあげた。


 「わあ、おなかすいた!」

 ピエロ帽子をかぶった謎の稲荷少女がちゃっかり座っており、キノコご飯を求めていた。


 「いっぱい食べる!」

 ミノさんと共に時神のおうちの庭の社に住む、幼女の稲荷イナも当たり前のように煮しめを小皿に盛っていた。


 残り二柱の男稲荷は肩身狭そうだったが堂々と料理を待ち始めた。


 「なんか……人数増えたな?」

 更夜があきれた声をあげるが、まあ、お客さんだ。招くことにした。


 おそらく冷林が呼んだのだろう。

 稲荷はアマテラス神力関係。

 プラズマや冷林に惹かれるようだ。


 「はいはーい! 居酒屋と言えば! お、さ、け!」

 スズが満面の笑みでお酒を持ってきた。


 「更夜……女児に酒盛りをさせるな……」

 栄次が頭を抱える。


 「飲ませてはいない。手伝ってもらっただけだ」

 「更夜の役に立てた! あたし、イケイケ!」

 台所から更夜の声が聞こえ、スズが喜んだ。


 「はあ……まあ、更夜のことだ。スズに危険が振りかかることはないだろう」

 栄次はため息をつきながら、走り回るルナとこばるとを見据える。


 「食事の時間だ。座りなさい」

 「はーい」

 「はーい」

 「栄次さんが注意した……」

 栄次が声をかけると、二人は素直に席についた。席についてからも脇腹のつつきあいをして笑っているが気にしない。


 リカは栄次を見て驚いた。


 「なんだ? 俺は……」

 「いいと思います!」

 「ああ……。リカ、先ほど沢山のトマトを食べていたが、まだトマトを食べるのか?」

 栄次はリカの皿に沢山乗った冷やしトマトを見てあきれていた。


 「栄次さん、玉ねぎのソースが乗っています。きっとトマトの酸味と甘味とコクを出すためのものです。早く食べてみたい……」

 「そ、そうか」

 栄次がなんとか返事をしたところで、更夜が話してきた。


 「すごい人数になったが、居酒屋の試食会にきてくれてありがとう。おかわりはある。いっぱい食え。ああ、酒は『時神殺し』だ。存分に死んでくれ」


 「と、ときがみごろし……時神の宴会の席に出すもんじゃねぇだろ……」

 プラズマが苦笑いを浮かべ、宴会が始まった。

 

 アヤは時神殺しを飲みながら料理を摘まむ。

 「おいしい……」

 自分も昔に作っていたような味。更夜の料理は懐かしい気がする。


 ふと、冷林がアヤの肩を優しく叩いていた。


 「……冷林? どうしたの?」

 冷林は何かを言いたそうにしていた。

 励ましているようにも見えた。


 「ああ、ありがとう。気遣ってくれているのね? 冷林も高天原会議おつかれさま」

 アヤは冷林の頭を優しく撫で、冷林は何度も頷いた。


 夏の夜。

 楽しい時間を皆で共有した。

 アヤは知らない自分がいることに気がついたが、こうやって楽しむ自分がいることにも気がついた。


 ……ナオが刑期を終えたら優しく迎えてちゃんと話そう。もう一度手を取り合って前へ進もう。


 それがプラズマへの示しとナオへの許しに繋がる。


 今もナオは封印刑に苦しんでいるだろう。ひとりで苦痛に耐えなければならない。壊れずに出てきてほしい……。


 「おいしい。このシャーベット、お酒にも良く合うし、子供も好きだわね。そして、甘い」

 アヤは後でトケイになんて言おうかと感想を考えるのだった。


 少しのせつなさを胸にしまいこんで。

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― 新着の感想 ―
どうなることかと思いましたけど、一段落してよかった! リカの背景は複雑でまだまだ油断できない感じですけど、今は少し休んで心新たにしてほしいですね。 みんなお疲れ様!
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