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「TOKIの世界譚 」宇宙の神秘と日本神話な物語  作者: ごぼうかえる
最終話

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暑い夏の終わり2

 プラズマとアヤが帰ってきた。

 時神達は何も聞かずにふたりを迎え、笑顔がなくなっていたプラズマに優しい言葉をかけた。


 プラズマは栄次の肩を軽く叩いて口を開く。


 「栄次、ありがとう。それと、ごめん」

 「お前は大丈夫なのか?」

 「大丈夫。もう終わったから」

 子供達の笑い声がする。

 ナオの件は前向きに考えて、今の現実を見た方が良さそうだ。


 ふと、プラズマがアヤの方を見ると、アヤはいつの間にか冷林をだっこしていた。


 「っ! 冷林!? 会議後にわかれたよな? ああ、心配でついてきたのか? 大丈夫だよ」

 プラズマの表情がやわらかくなった。


 「ああ、そうだ。プラズマ」

 更夜が思い出したように声を上げた。


 「ん? なに?」

 「俺達、弐の世界組はここで居酒屋をやることにした」

 「お、いいね」

 プラズマは気持ちが前を向いている更夜に救われつつ、微笑んだ。


 「え! 居酒屋! 私、店員さんやる!」

 話を横で聞いていたスズが目を輝かせて話に入ってきた。


 「居酒屋ってなに? ルナもやるー!」

 「おなかすいたー」

 ルナとこばるともそれぞれ声をあげ、場の雰囲気が和らいだ。


 冷林はふよふよと浮きながらスズの腕の中におさまった。


 「なーに? あ、遊びたいのかな? 遊ぶ?」

 スズの声掛けで冷林は頷いた。


 「チャンバラやろ!」

 ルナが新聞で作った棒を冷林に渡し、冷林は楽しそうに遊び始めた。


 「天通のリサイクル紙版新聞で遊ぶな! それ、返さないとならないんだからな!」

 更夜に言われるも子供らは関係なく遊んでいる。歴史神の主、天記神から先ほどの事件の新聞が届いたと言われ、トケイを走らせて取りに行った。


 読むまもなく、チビッ子達の工作や武器へと変身した。


 「あーあ、まだ読んでもねぇのに」

 「なんかもういいな。新聞までこうなったら、白紙にするから先に進もうって言われているような」

 プラズマがつぶやき、更夜もため息をついた。


 「い、居酒屋の試食の甘いものを作ってみたんだ……。ぷ、プラズマも食べる?」

 気がつくとトケイがプリンを人数分乗せたお盆を持ってきていた。ルナとこばるとはもう食べている。


 「なにこれ! うまっ!」

 「もう一個、ちょ~だい!」

 「ええ……いつの間に食べたの……」

 先程まで遊んでいたふたりはいつ食べたのか空のデザートカップをトケイに返した。


 「あー、おいっしい! たまごのコクと甘味とカラメルの苦味とミルキーさがたまらん!」

 いつの間にか食べていたといえばサヨもだ。


 「さ、サヨちゃんもっ! あ、ありがとう!」

 「トケイちゃん、これからもよろしくね!」

 サヨがウィンクをし、トケイは顔を真っ赤にして口をパクパクと動かしていた。


 「あら、おいしい。……ずっと食べていたような……懐かしい味」

 アヤはなんだか涙があふれた。


 トケイが作ったものは初めて食べた味のはずだった。だが、懐かしく、自分がこだわっていた部分のクリーミーさやコクまで再現されていることにこばるととの違いを感じた。


 ……彼は私が作ったこばると君。

 私が産んだ神。

 私はきっと都合の良い時だけ、彼に救いを求めていたに違いない。彼の気持ちなど考えずに。


 「……トケイ、ごめんね……。私は勝手に産み出して……勝手に役割を与えて……都合の良いように動かして……孤独だったでしょう?」


 「……ま、まあ……ね」

 トケイは眉を下げたまま微笑んだ。その笑顔が夢の中でよく出てきていたことをアヤは思い出した。何も覚えていない。


 ただ、彼のこの顔だけ思い出した。


 ……いつも、彼女はなんにも覚えていないんだ。おいしい? よかった。

 僕は明日も待ってるね……。


 次はなんの甘いものを作ろうかな。


 そうか。今日はこないんだ。

 これ、おいしいな。

 明日は来るかな。


 今日はケーキを作ってみたよ。

 はじめて食べた?

 おいしい?


 よかった……初めて……食べたんだね。え、僕? 僕はトケイって言うんだ。初めまして……。


 「いつも」せつなそうに笑う少年。

 アヤは何も覚えていなかった。

 アヤの心の拠り所として産まれた彼はアヤの精神を安定させると姿を消す。


 ……いや、私が……気づかなくなっただけ。思い出さなくなっただけ。名前も何もかもわからない。


 これはただの夢だ。


 「……ごめんね……このプリン……きっと食べたこと、あるわよね……」

 アヤは涙をこぼしながら、甘いプリンを食べる。


 「本当に……おいしい」

 「……おいしい? よかった」

 トケイは微笑んだ。


 正夢のような同じ会話を今している。アヤはトケイの気持ちを思い、苦しくなった。

 この会話はもう、すごく前にしているはず。


 「アヤ……」

 プリンを受け取ったリカが優しく背中をさする。


 「……リカ、あなたも私達が思い出さなかった時、辛かったでしょう」

 「うん。でももう、終わったことだし、今は幸せな方だと思うよ」

 リカはプリンを食べながらトケイに「トマトのプリンを作れないか」と聞いている。


 「……そうよね、終わってしまったことだもの……。どうしようもできない。今から……変わればいいんだわ」

 アヤはプリンをおいしそうにすくって食べた。


 「皆、なにかを抱えてしまっているが……」

 栄次が緑茶を飲みながらアヤに言う。


 「そのままその気持ちのまま進むことだ。戻ってしまうこともあるだろう。だが、前に進まねば、そのままだ」

 「ええ、そうね」

 アヤは涙をハンカチで拭った。


 「ああ、今夜、試食会をする。まあ、ささやかなおもてなしだ。一度、壱に戻り休め」

 更夜が壱の時神達にそう言い、台所へと去っていった。

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