表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「TOKIの世界譚 」宇宙の神秘と日本神話な物語  作者: ごぼうかえる
六話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

283/318

データを壊された神1

 プラズマはアヤの世界で栄次の報告を聞いていた。栄次は気をつかってアヤには通信しなかった。


 プラズマはアヤを刺激しないように黙ったまま聞いていた。


 「わかった。そちらに向かえたらまた、電話するよ。それまで……誰も迎えに来なくていい」

 プラズマはアヤの肩を優しく抱きながら気分の悪い報告に返答した。


 「……この世界から……出られるか」

 プラズマはいまだ泣き止まないアヤの背中を撫で続ける。


 「……こんな状態だからな。俺はアヤの空白を埋められない」

 「立たなきゃ……」

 アヤから小さな声が漏れる。


 「立たなきゃ……」

 「……無理すんなよ」

 プラズマはアヤの顔を見ずに答えた。


 「トケイを元に戻さなきゃ……」

 アヤは動かなくなってしまったトケイを優しく触った。トケイは意識を取り戻し、不安そうに辺りを見回していた。


 「アヤ、プラズマ……? 僕はどうなっていたの? ここは?」

 「トケイ、なんか不調はあるか? アヤがお前を戻したんだ」

 「ないね……。ごめん! 僕、またなんか破壊システムになってた?」


 「いや、破壊システムになるのはあんたのせいじゃない」

 プラズマは不安定なアヤを見た。


 「なあ、アヤ、あんたのこばるとに対する人間最後の感情はなんだった?」

 プラズマに尋ねられたアヤは拳を握りしめる。


 「……まだ死ねない」

 アヤが小さくつぶやいた。


 「まだ死ねない。あの子を置いていけない。私は、まだ、死ねない。私が守らないと。あの子のために生きないと」

 「それが最後か」

 「ええ、そうよ」


 「じゃあ、あんた、ここにいちゃダメだろ。子供のために生きようとしてたんじゃないか。生きて彼を助けるんだろ。彼は救出されたようだ。あんたはいいお母さんだったんだな。あんたの息子はまた、あんたの愛を求めているはず」


 プラズマに言われ、アヤは涙を浮かべながら上を向いた。


 「そうかしら……」


 「愛を求めているのはそうかもしれないよ。初めてアヤに会った時、僕すら皆忘れてて、悲しくなった。だから忘れられたり、気にかけてもらえてないと、きっとこばるとは悲しいと思う」


 トケイは自分の気持ちを素直にアヤに伝えた。


 「……そうよね」


 「こばるとに会うなら僕が連れていくから、そろそろアヤはこの殻から出よう。ひとりでいることも、なぐさめてもらうことも大事だけどね、助けてほしいと願うこばるとをほったらかしにするのはダメだよ」


 トケイはアヤに語りかけるように静かに言葉を発した。

 アヤの気持ちの代弁でもあった。


 「僕も、君から産まれた息子と同じようなものだから、僕の気持ちはたぶん、こばるとと同じだ」


 「わかったわ。あなたは私が立ち上がるツバサを与えた。あなたは私の希望。あなたは私にもツバサをくれるのね。こばると君に……会いに行くわ」


 アヤはトケイの肩を優しく撫でると立ち上がった。


 「大丈夫か、アヤ」


 「……わからない。また、ダメになってしまうかもしれない。でも……進んだり戻ったりするのが人だもの。私は人として歩んだ人生を大事にしたい。だから……こばると君に会ってみる」


 アヤは胸の前で手を組み、静かに答えた。


 「立派だよ、アヤ」

 プラズマがせつなげに微笑み、トケイは力強く頷いた。


 「こばるとは更夜の所に移動させているらしい。行こうか」

 「うん」

 不安げなアヤの手をプラズマが強く握った。

 

※※


 銀髪の青年更夜は栄次が連れてきた少年を見て眉を寄せた。


 「そいつがこばるとか」

 「ああ、そうだ。意識どころか存在まで危ういのだ」

 栄次が抱えている少年は消えたり現れたりを繰り返し、虫の息だった。


 「生きているのか」

 更夜は険しい顔のまま、とりあえず布団を敷いた。


 「わからぬ」

 栄次はこばるとを布団に寝かせた。


 「歴史神達はどうした?」

 「彼らは天記神に報告に行った。これからどうするか、天記神の意見を待つ。ワダツミが送迎をしてくれた」

 「そうか」

 更夜は机に座っているリカに目を向けた。


 サヨがなんとも言えない顔でリカに昆布茶を出す。


 「まぁ、複雑だよね~……。アヤの気持ちを思うとさ、今のこの子見て、どう思うんだろうね?」

 サヨは自分の昆布茶も用意すると、食卓についた。


 「うん、それが心配だよ、サヨ。私は彼を黄泉から連れ出すことしかできなかった。もしかしたら、黄泉に彼の欠片を残して来ちゃったかもしれない」


 「それを考えたらきりないよ、リカ。どうしたら意識が回復するかなぁ?」

 隣の部屋で聞き耳を立てているらしいスズとルナはなんだか静かだ。


 「ルナと同じくらいだね、あの子」

 「いや、本当は十二歳らしいんだけど、助けた時に五歳くらいになってたんだ」

 リカの言葉にサヨは唸る。


 「うーん……神力の低下が原因なのかな?」

 「それもよくわかんないんだけど、神力がギリギリなのはそうだね」

 「神力……渡してみる?」

 サヨが手から水色の時神神力を炎のように出す。


 「渡してみようか……」

 リカは考えた。


 これは正解なのか?

 彼を戻す行為は善なのか?

 そもそも元に戻るのか?

 これによりエラーは出ないのか?


 リカには世界を変えてしまう力がある。決断しないと先に進めない。


 「渡してみよう」

 リカは神力を渡すことにした。

 倒れているこばるとの前にリカとサヨは立った。


 「神力を渡してみるのか?」

 更夜に尋ねられ、サヨが頷いた。


 「皆で少しずつ渡してみない?」

 サヨがそう言った刹那、歴史神の天記神から連絡が入った。


 「こばるとさん救出、ありがとうございます。情報の解析をしたところ、神時代の時神に戻すことはできませんでしたが、


 人間部分の破壊はされていなかったため、神力を持ち始めた五歳あたりに戻っています。


神力をそのまま与えて様子を見てください」


 「やっぱり、それで良かったんだ」

 サヨが微笑み、リカも頷いた。

 「アヤが来るまでに意識の回復を目指そう」

 「ただ、彼は……元の彼にはならないかもしれません」

 天記神の言葉に一同は顔を引き締めたが、それでも時神はこばるとを救うことにした。

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ