こばると救出作戦4
一方、リカと栄次は何かを引っ張っていた。リカには見えない。
「栄次さん、そこに何かあるんですか?」
「……こばるとの数字の塊が見えるが……これを引っ張ることで良いのかわからぬ。ナオが近くにこばるとを引き寄せたのだろう。かなり近くでこれを見つけた」
「そうですか。私には何も……」
「それより、兄者が大変だ。さっさと黄泉を出るぞ」
栄次は楽しそうにしている栄優を心配した。スサノオに会ってから戦いたい欲望から抜け出せていない。かつて栄次も更夜と戦闘になった際、この気持ちを抱えた。
戦いは好きではなかった栄次が戦闘を楽しんでしまっていた。
「栄次さん、この世界、下に落ちませんね」
リカは不思議だった。島が浮遊している世界で地面がないのだが、なぜか浮けるのだ。
「……この世界は不思議だ。俺もよくわからない」
「連れ去るなァ! 黄泉のものを持ち去るなァ!」
イザナミがこちらに気がつき、血相を変えて襲ってきた。
栄優がイザナミが出す雷を簡単に斬っていき、炎を結界で防いだ。
「慣れてきたよォ。これならなんとかなるぞ」
栄優はなぜか挑発をし、イザナミを怒らせる。栄次とリカは目の前に立った栄優を冷や汗を流しながら見つめる。
「兄者、刺激はしないでください! あの神は黄泉の女王イザナミだ……」
そこまで言った栄次の瞳が再び黄色に輝き、エラーを告げた。
「栄次さん?」
リカに揺すられ、再び意識を戻した栄次は先程の発言を忘れてしまっていた。
「あ、ああ、兄者、刺激はいけません! そのまま黄泉から……」
栄次が栄優に声をかけながら目を見開いた。栄次の足が霞んで消えていた。
「なんだ……」
「栄次さん! 足っ!」
リカも異変に気づき、叫んだ。
「なんじゃあ? これは」
栄優も体が消えていた。
「あっはは! ここは黄泉だもの当たり前でしょ? おバカさん」
イザナミの高笑いが聞こえる。
ふと、神力電話が響いた。
「ヤクサノイカヅチが壱の神を侵食し始めました! 黄泉は桃、タケノコ、ぶどうのデータがないと消滅してしまいます! リカさんだけが持っていて、リカさんがふたりを上部だけ守っていたのですが、時間切れになりました! 早く、黄泉から出てください!」
「ありゃ……」
栄優の霊的武器、刀が急に溶けてなくなった。
おそらく、ヤクサノイカヅチを斬ったことでデータを取り込んでしまったのだろう。
「兄者、早く出ましょう」
栄次が栄優と逃げ始め、リカはとりあえず結界を張った。
「意味があるかわかりませんけど、結界を張ります!」
イザナミは雷を飛ばし、炎を渦巻かせて三柱を追う。
「黄泉のものを持っていくなァ!」
怒っているのかなんなのかよくわからない神だ。話は通じなさそうなので、雷や炎を避けながらひたすらに走る。
黄泉を開いているミナトとナオが見えた。
「はやくっ!」
ミナトが叫んでいる。黄泉の裂け目はだんだんと小さくなっていた。
「こばると……助けるぞ」
栄次はつぶやき、なにもない何かを握りしめた。
「間に合わないか!」
「だ、大丈夫です! 私がなんとか!」
リカは炎と雷が渦巻く中、手を前にかざして神力を上げる。頭に電子機器の電源マークが浮かび、霊的着物に変わったリカは叫ぶ。
「アマノミナカヌシが命じる! 黄泉を『開け』!」
リカが叫んだ刹那、何かが弾ける音が響き、辺りが真っ白になった。
パァン! とガラスが割れたかのような音が響いたと共に、リカ達は砂浜に叩きつけられていた。
「ま、間に合ったね!」
すぐにミナトの声がし、ナオがその場に腰を落とした。
「はあはあ……皆無事です?」
リカはすぐに起き上がると栄次と栄優に目を向けた。
「あ~、ワシは問題ないねぇ」
「俺も大丈夫だ……」
リカに答えてから栄次は前を向く。リカも栄次の方を向いた。
「あ……あの子は?」
リカが不安げにつぶやいた先で幼い黒髪の男の子が裸で倒れていた。意識がない。
「こばると……やっぱり、だいぶん破壊されてる……」
ミナトが半泣きで少年に駆け寄った。少年は所々、存在が確認できず、体が消えたり現れたりしていた。
「……こばると……なのか」
栄次は胸を痛めながらゆっくり近づき、顔を見た。
幼年すぎる。
栄次はそう思った。
こばるとは十二歳だったが、この少年はまだ六歳にもなっていなさそうだった。
「生きているのか」
栄次がミナトに尋ねた。
「……存在はできているけど、元のこばるとかはわからない」
ミナトの発言に栄次は目を伏せた。
「……こばるとさん……ごめんなさい……」
遠くでナオが泣きながら顔を覆っていた。
「どうすれば良いのだ?」
栄次は栄優から羽織を受け取り、少年にかけた。
「メグを呼んで彼を連れ帰ってほしい。……存在ができなかったらあきらめて……」
ミナトはそう寂しそうに言うと、世界から消えていった。
「ミナトくん……君がいないと私達はどうしたら?」
リカの不安そうな声を残し、海の世界は静寂に包まれた。
「連れて帰ろう。アヤとプラズマにも彼を見てもらう」
栄次は少年を抱き抱えるとリカを見た。
「そう……ですね」
リカもそう言わざるを得なかった。
「ナオのお嬢さん、自分の罪の重さを感じて償うんだな」
栄優は泣いているナオに手を伸ばし、優しく立たせてやった。