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こばると救出作戦2

 ワールドシステムに入ったリカ、栄次、栄優は静かな海辺の世界にいた。夕焼けの空が広がっているのに太陽がない。


 この世界は正確に言うとまだワールドシステム内ではない。


 メグはワールドシステムをつなぎ止め、後から来るナオをこちらに入れるべく、一緒には来なかった。


 「えーと、ここからどうやって黄泉を……」

 リカが眉を寄せていると、剣を楽しそうにまわしながらスサノオが歩いてきていた。


 「よお」

 「……スサノオさま……」

 リカが挨拶をしてきたスサノオを警戒する。


 「そろそろ自覚してきたか? 壱と伍を守ると騒いできたお前が壱を変えていっているのを。もう元の壱じゃねぇことを」

 スサノオはリカに会って早々、そう言った。


 「……はい。もうなんとなくわかります」

 「アマノミナカヌシ。お前が来てからずいぶんと、知らん時神が増えた。オモイカネは怒っているだろうな」

 スサノオは楽しそうに笑っている。


 「あの時とは状況が変わった。壱の神が伍を思い出してきている。壱と伍が繋がる! 戦がまた起きるのか見物だ」


 「戦争は嫌です。壱と伍を守る気持ちはありますが、無理に繋げる気持ちはありません」

 リカは冷や汗をかきながらスサノオを見た。


 「お前はどちらにしろ……、壱を壊したんだ。おもしれぇ。マナ、やはりこいつはお前の思い通りに動いているぞ! 思想は真逆だがね」

 スサノオはリカを見て笑っている。リカは眉を寄せ、冷や汗を拭った。


 「私はマナさんの思い通りには動いてません!」


 「あー、そう。くくく……お前、いままで自分がやったこと、わかってねぇな? 三直線にいた時神をひとつにまとめたことで、エラーが出たやつがいっぱい出た。得たいの知れない時神が増え、穏やかに過ごすはずだった現代神の記憶を呼び覚ますきっかけを作り、想像だったやつに感情を戻した。


 世界平和にしたはずのアマテラスを裏切り、未来神の統合時代の記憶を黄泉から引っ張り出している。さあ、次は何をしてくれる? 壱から壊すなんてやるじゃないか。やはり伍の時神が壱を統べるようになるのか? マナのシナリオ通りだな。あいつはすごい」


 「……」

 スサノオの言葉にリカは黙り込んでしまった。時神や壱を守ろうと動いたはずのリカはスサノオにそう言われ、自分がやったことが正しかったのか考えさせられた。


 マナのシナリオ通り……。

 その言葉が引っ掛かる。


 「……」

 リカは拳を握りしめ、下を向いた。わからなかった。リカは良いと思ったことをした。壱を壊すつもりなどない。

 不思議と苦しい気持ちになった。


 「リカ、迷うな。お前が抱えているものはとても大きい」

 横から栄次が口を開いた。


 「私……あってたんですよね?」

 リカは心を乱され、心配そうに栄次を見上げた。


 「……何が正しいか、俺はわからぬ。ただ、お前の選択は今のところ、マナという神と真逆に沢山の神を救っている。時神はお前の選択で不幸になってはいない。ひとりで戦わなければならなかった俺達をひとつにしたことは皆、感謝をしていると思うぞ」


 栄次は個人的な気持ちを話した。リカは少しだけ気持ちが救われた。


 「スサノオさま、私達はもう一柱の現代神を助けなければなりません。黄泉を開かないといけないんです」


 「あー、わかるわかる。黄泉を開いたら壱と伍はまた近くなる。お前、こういう考えはできないのか? 壱と伍は思想から違う。もし再び繋がったら両方のデータで打ち消しあって世界が滅ぶと。


 一回、お前、消えかけたろ? 自分を想像物にすることで消えずにこちらに存在できたこと、忘れたか」


 「……でも、黄泉にはこばるとさんが……」

 リカはスサノオの言葉を理解できたが、目の前の神を救わないとと思っていた。壱と伍を守るという抽象的な部分は後回しにしてしまった。


 これで良いのか。

 マナがどこかで言っていた。

 結局は同じ結末になると。

 リカとマナは真逆に動いているはずだが、結末は同じになるのか。


 「正義だけで動いていたら痛い目を見るぜ、アマノミナカヌシ、リカ」

 スサノオはリカを射貫き、リカは体を震わせた。どうすれば良いかわからなくなった。


 「私がやったことは……正しいんですよね? ね?」

 リカは先程より不安定に栄次に尋ねた。


 「少なくとも、今の俺達にとっては正しいと思うぞ」

 栄次はそう言ったがリカは心にモヤがかかっていた。


 ……黄泉を開いていいのか。

 リカに迷いが出る。


 「お嬢さん、何してんだぁね? 黄泉を開いて時神を助けるんだろ?」

 栄優にもそう言われ、リカは混乱した。


 「待ってください。黄泉は開かない方がいいかもしれません……」

 「なんでだぁね?」

 「あ、あの……それは……」

 リカは急に板挟みになってしまった。


 「立花こばるとを助けるんだよなぁ?」

 「助けたいです……が……」

 「あっははは! 勢いがなくなっちまったな! お前のデータでも迷えるのか」

 スサノオは何がおかしいのか狂ったように笑っている。


 「ちょっと遊んでやろうか? また運命でカケをしよう」

 「……?」


 「世界が何を考えてるのか知りたいだろ? 破壊と破壊。違う方向性でも同じに進む矛盾。壱を直接破壊する俺と壱を間接的に破壊するお前、どっちが生き残ると思う? たまらなく楽しくなってきただろ?」


 「……」

 リカは何も言えずに下を向いた。壱を間接的に壊している……そう言われてしまうとそうだ。


 マナの言いなりに動いたこともあったが、それは自分の意思だった。意思だと思っていた……。


 ……意思なんだろうか?

 それは本当に自分が考えた行動だったのか?


 自分の気持ちはどこにあるのだろうか。


 「リカ!」

 ぼうっとしていたリカを栄次が引っ張った。リカの鼻先に剣先がかすった。


 「ひっ!」

 リカは我に返ると震えた。スサノオがリカめがけて剣を抜いたのだ。栄次が反応しなければ斬られていたかもしれない。


 「避けた避けた。お前を野放しにしても問題はなかったが、俺は振れるんだ。そういう神だからな。試したくなった」


 スサノオは剣で栄次に斬りかかった。栄次と栄優は霊的武器、刀をそれぞれ構えた。


 「お前はこれで……」

 スサノオは前回栄次を一撃で気絶させた神力を飛ばす。間に栄優が入り、結界を張った。


 「何やってんだね? 結界くらい張れないのかい?」

 結界はもろく崩れ去ったが無傷で抜けた。


 「……結界を俺は張れないのです……兄者」

 「あー、そうかい。じゃあ自力で神力を避けな」


 栄優はすぐにその場からいなくなり、スサノオの後ろに現れた。刀を横に凪ぐ。しかし、スサノオは軽く避け、砂浜に着地した。


 「いい速度だな」

 「ありゃ? 避けられたか」

 栄優が不思議そうにスサノオを眺めた刹那、スサノオの後ろを再び取ったのは栄次だった。


 「おっと」

 スサノオは栄次の鋭い斬撃を軽くかわして砂浜を蹴った。


 「兄者!」

 栄次が叫び、栄優は突っ込んでくるスサノオを飛んでかわした。


 飛んだ先に神力のかまいたちが勢いよく滑り込み、栄優は刀を構えて受け止めた。

 かまいたちは栄優を抜けて海の彼方へ飛んでいった。


 「なんじゃ、あれはっ! すごいもんが飛んできた」

 「兄者、上です」

 栄次が栄優の上から叩きつけようとしたスサノオを飛び上がって斬りつけた。栄次にも神力のかまいたちが渦巻き、スサノオを襲う。


 「お前もできたか」

 スサノオはなんだか楽しそうに剣で栄次のかまいたちを斬った。


 「あれは斬れるのか……」

 「なんだ、それは。ワシにもできるかいな?」

 栄次が頭を抱え、栄優は栄次のかまいたちを目で見て学んでいた。


 リカはそんな人外な戦闘を眺めながらアマノミナカヌシの槍を手に持ち、動けずにいた。


 ……私がひとりだったら初撃でやられていたのだろうか。世界は私に味方せず、データが間違いだったと思われていたのだろうか?


 自分に意思はあるのか?


 世界が決めたデータを世界のシナリオ通りにやっているだけなのか?


 ……私はマナなのか?

 相手のスサノオに意思はないのか?


 スサノオは反対勢力のデータとして今回は私達の前に立ったのか?


 リカは眉を寄せた。

 「わからない」


 ……私達はマリオネットなのか?


 「わからない」


 ……いっそのこと、戦うのをやめたらどうなる?


 ……斬られて死ぬ?

 ……世界から見て私の方のデータが間違ってたということになるのか?

 斬られて死ぬことを想定しているのも世界のシナリオ通りなのか?


 「わからない。どうしたらいい?」

 リカは動けずにスサノオと栄次、栄優の戦いを見据えている。


 「負けてみて……試す……か?」

 リカは震えながら槍を握りしめた。

 「やめときなよ、アマノミナカヌシ、リカ」

 ふと少年の声が聞こえた。


 「だ、誰?」

 リカは怯えながら辺りを見回した。下から黒い髪が見えたので、慌てて下を向いた。


 ネクタイにワイシャツの黒い髪の男の子がリカを見上げていた。

 ルナと同じくらいか下か。

 それくらいの少年だ。


 「えーと……」


 「僕はアマノミナカヌシ、ミナト。君は君の通りに動けばいい。僕も僕の通りに動いた。今回はナオが世界のシステムを変えようとした結果だ。


 スサノオは怒っているだろう。高天原西、剣王もスサノオの神力を宿しているため、ナオに容赦はしないと思われる。時神にそれを思い出させた君に罪があるのかないのかはわからない。でも、今回はこばるとを救ってほしい」


 ミナトはかわいらしい瞳でリカを見ていた。リカは眉を寄せる。


 「アマノミナカヌシ、ミナト……。あの手紙の……」

 「そう。僕は……観測が仕事なんだ。だから君のように世界を変える力はない」

 ミナトを見てリカは思った。


 この子のデータはなんだと。

 この子の存在は世界にとってどこの位置付けなのかと。


 アマノミナカヌシはマナやリカの他にもいるようだ。


 世界はリカの一存では決められないようになっているようだが、ミナトは世界が考えるシナリオにそって現れたのではないかと。


 ……なら、殺してみたらどうなる?


 リカは知らずに危険な思考になっていた。


 ……彼を殺してみたらどうなる?

 世界は傾くのか?


 「リカ! 大丈夫?」

 ミナトに声をかけられ、リカは我に返った。


 ……なに、考えてたんだろう。


 そんな怖いことを考えてはダメだ。彼は善意で私に話しかけている。私を頼っている。

 神をデータで考えて、消去だ、同調だとどうして言えるのか。神には個々に感情があって個々に動いているじゃないか。


 「大丈夫。ごめんね。こばるとさんを助けたいのは何故なの?」

 リカはとりあえず聞いてみた。


 「僕は初めからナオさんを止めたんだ。僕はこばるとさんを見ていた。ずっと見ていた。ナオさんを止めるために発した助言を使われて、僕は焦ったよ。こばるとさんにはかわいそうなことをしてしまった。ずっと観測していたのに、彼に干渉してしまった」


 「同情みたいな感じか」


 「そうかもしれない……。僕は誰かが助けてくれるはずとせめて記憶などをこちらの世界に留めてバックアップをとった。人間の歴史管理をしている歴史神ヒメさんがそれをやっていたようだから、僕のやったことは無意味かもしれなかったけど」


 ミナトは悲しそうに目を伏せた。リカは世界が「神は感情で動くもの」と伝えてきているのかと疑った。

 リカは頭を振った。


 「違うよね……」

 リカは思い直して、前を向いた。栄次、栄優がスサノオと戦っている。


 「ねぇ、スサノオさまが運命を試そうとしてきたんだけど、どうしたらいいと思う?」


 「……ちょっと退場してもらおうかな。壱と伍がどうせ近くなる運命なら、試す必要なんてないさ。過去神栄次さん、歴史神栄優さん、あのふたりは強い。スサノオさんの隙をついて僕が彼をこの世界から出そう。


 そもそも彼らは伍の世界の神。ここはツクヨミさんが守る世界だけど管轄しているのはワダツミのメグさんだ。どうやって入り込んだのか」


 ミナトはかわいらしい顔で眉を寄せ考えると、三柱の戦闘を眺めた。


 「ワシにもできたぞ! かまいたちだぁ」

 栄優が神力を纏わせた刃をスサノオにぶつける。スサノオは軽く避けたが視界外から飛んできた栄次に気づかず、鼻先に刀がかすった。


 「いいなァ! 歯応えがある」

 スサノオはすぐに飛び上がった。楽しそうな栄優が上からスサノオを袈裟に斬ろうとしたからだ。スサノオはうまく避け、砂が勢いよく舞った。


 「まーた、避けたんかい」

 栄優はスサノオが着地する部分に向かいかまいたちを放った。


 砂を巻き上げて飛ぶ斬撃にスサノオは初めて結界を張って防御した。派手な音を立てて斬撃は海の彼方へ消えていく。


 「へぇ」

 「初めて結界を使ったな?」

 「さすが武神を宿した藤原家。時神過去神共になかなかだ」

 スサノオは栄次と栄優に鋭い攻撃を繰り返しながら言う。


 「なんか偉そうだねぇ」

 「藤原は鎌足の時代からタケミカヅチの神力を宿しているよな」


 「……?」

 栄次と栄優は眉を寄せながらスサノオの剣、アマノムラクモを危なげにかわしながらそれぞれ神力をぶつけていく。


 「気がついてはなかったんだな? 愉快愉快。お前らはタケミカヅチの神力を持っているんだよ。なあ、過去神聞け、お前の兄が受け継ぎが濃厚のようだ。似ているだろ? アイツに」


 「……」

 スサノオは剣で栄次、栄優の神力を斬り、結界を張ることなく抜けた。


 「なーに言ってんだかねー? それよかもうちょい楽しませて……」

挿絵(By みてみん)

 「兄者」

 栄優が楽しそうにしているのを栄次が止めた。


 「なんだね?」

 「高揚しすぎです」

 栄次に言われ、栄優は慌てて神力を落とした。


 「いけない、いけない。すぐに神力が制御できなくなっちまいましてね」

 「さあて、そのタケミカヅチの神力の元は誰だ?」

 スサノオは口角を上げた。


 突如、栄次と栄優は固まり、瞳が黄色に輝くと『エラーが発生しました』とつぶやいた。


 「アッハハハ! またエラー!」

 「そう、あれはどういうことなの?」

 リカはアマノミナカヌシ、ミナトに気味悪そうに尋ねた。


 「あれは……アマテラス、ツクヨミ、スサノオを思い出さないためのロックだよ。もうそろそろ、意味をなくしそうだけど」

 「君がやったの?」

 リカの問いにミナトは首を振った。


 「いや、僕じゃない。ナオだ。でもこちらは罪にならない」


 「どういうことなの?」

 「そのうち、わかるよ」

 ミナトははぐらかすと前に進み出た。戦闘が中断し、スサノオが隙を見せている。


 「アマノミナカヌシが干渉。弐の世界、管理者権限システムにアクセス『排除』」


 ミナトが神力を放出し、スサノオに向けて放った。スサノオは驚きの表情を見せた後、海の世界から消えていった。

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[一言] リカがちょいちょい不安定でハラハラする……! ひとまず、こばると君を助けるのが先決な感じですねぇ。
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