新しい世界3
「うそ……なんでこれがこちらの世界に?」
リカは震える手で「TOKIの世界書」を手に取る。
「誰も知らなかったよね。こちらの世界の神……」
よく眺めてみると、作者名がなかった。
「……名前がない。マナさんの名前が書いてない」
「そちらが気になります?」
天記神が紅茶を入れながら、優しくこちらを見てきた。リカは震える手でカップを持ち、紅茶に口をつける。
「こ、この本、なんで作者名が……」
「歴史書ですからね。木々の記憶を本にしたものですから、作者はいません。まあ、私が編集したから、編集者は私かしら?」
天記神の発言でさらにわけがわからなくなった。
「TOKIの世界書」はマナが書いた「小説」であって、「歴史書」ではない。
「どういう……こと?」
リカは紅茶を飲んで少し落ちついた後、「TOKIの世界書」を開いた。
「……え?」
リカは眉を寄せた。内容が違う。いや、よく見ると内容は一緒だ。
ただ、こちらは起こったことが年表のように書かれていて、小説とは呼べない。
……内容が一緒なのに、「小説」じゃない。本当にあった事が書かれている「歴史書」だ。
パラパラめくったリカは最後部分を読んでみた。
……確か、マナさんの小説では、時神の持つデータと、イザナミ、イザナギの持つ矛を使って主人公がワールドシステムに入って、アマノミナカヌシに出会う。アマノミナカヌシはビックバン後、滅んだ「世界」の生き残りで、新しくできた今の世界が前のデータを参考にしやすいように、存在しないデータとして「存在」していると。
小説では主人公に名前はなく、アマノミナカヌシのデータの一部を持つ少女という設定しかなかった。
しかし、こちらの「歴史書」では……。
リカは汗を拭いながら歴史書を読み進めていく。
「……」
声が出なかった。頭は真っ白だ。
その「歴史書」には、主人公がいない。
しかし、ワールドシステムに入った少女の名前がすべて「現人神マナ」になっていた。
「……マナさん……どういうこと? 偶然?」
リカが動揺している時、プラズマがなぜかドアに向かって銃を構えていた。
「え?」
「なんだかわからねぇけど、殺気がする」
「……さっ……」
リカが唾を飲み込んだ刹那、ドアが開き、タケミカヅチ神が入ってきた。
「ひっ!」
リカは怯え、後退りをするが、タケミカヅチ神は容赦なく距離を詰め、誰も動かぬ内にリカを斬りつけた。
「ここにいたのかぁ。『ワイズ』も指示だけ飛ばさずに自分でやればいいのにー」
「どういうことだ? 剣王!」
プラズマの焦る声が響き、天記神の悲鳴がリカの耳に届く。
リカの身体からは血の代わりに沢山の電子数字が飛び散っていた。
「おいっ! しっかりしろ! ひでぇやつだ! なんでこんなことするんだっ!」
プラズマが怒り、剣王はため息をつく。
「何も知らない君達に言う必要はないなあー」
「この子が何したって言うんだっ! くそっ……死んじまうっ! おいっ!! 目を開けろっ!」
薄れる視界の中、本能的に最後まで会話に耳を傾けたリカはやがて、真っ暗闇に落とされた。