戦うべき相手2
アヤとこばるとは無事に現代に戻ってこれた。安堵の息をもらすも、場所は歴史博物館の前。
あの銀髪の青年に襲われた場所だ。
「ここまできて、死ぬわけには……。アヤ、貸本屋……えー、図書館に走らないと!」
こばるとが慌てて言い、アヤは頷いた。
「この辺の図書館は駅前! 案内するわ」
アヤはこばるとを連れて走り出す。気がつくと地面が濡れていた。
「雨……?」
まるで雹のような雨がこばるとを狙って降ってきた。地面がえぐれている。
「きた、アイツだ」
目の前に銀髪の青年がおりてきて、地面に足をつけた。
「当たらなかったですか」
青年はため息をつくと水の槍を構えた。
「すみませんね、娘のためで……。娘は関係ないですが、なんか負担がいってるらしく……」
青年は苦笑いをしつつ、こばるとを消しにきていた。
「なんとか図書館に逃げましょう」
アヤはこばるとの手を引き、走り始める。しかし、青年が逃がしてくれることはなかった。
彼が銀髪の龍神、イドさんなのだろう。イドさんは水の槍を振り抜き、こばるとに攻撃を始めた。
「そうはさせないわ!」
アヤがこばるとをかばうように前に立った。
「アヤ、危ないよっ!」
こばるとの悲鳴に近い声が響いたが、イドさんが襲ってくることはなかった。と、いうよりもイドさんが止まっている。
「え……」
アヤは驚き、水の槍を振り抜いているイドさんを見据えた。
まばたきもせず、ピクリとも動かない。不安定な格好のまま固まっている。異様だ。
「時が止まってる? 彼だけ?」
「時間停止だ。アヤにも時神の力が覚醒し始めたんだ」
こばるとが言い、アヤは呆然としたが、すぐにこばるとを連れて走り出した。
「よくわからないけれど、逃げないと!」
二人は町並みを駆けた。自然と共存しているこの辺は整備された坂も多い。坂を降りて駅を目指す。
「人が多い歩道に入るわよ。そっちの方が見つかりにくいから」
「う、うん」
アヤは駅前の人が多い道を選んで走る。賑やかに携帯電話で待ち合わせの話をしている人や電車に乗る人達で忙しい主要駅。
もう少し経つとできるシアターやお店も今はないのだが、この駅前はいつも混んでいる。
追加でいうと、あと十年くらいでクリニックビルが近くにできたりする。
まだ発展途上の駅前だ。
アヤは駅前近くの大きな図書館に入った。ここは役所の中にあるらしく、図書館が大きく見えた。
「白い紙って図書館にあると思う?」
「あの世界に行く仕組みはよくわからないから、どうだろ……」
こばるとが迷っていると、女性が近づいてきた。女性は機械音声で「右の歴史書の棚を左です」と言い、静かに去って行った。
「え、なに?」
アヤが眉を寄せていると、こばるとが声を上げた。
「ああ、彼女、人に見えてない! もしかすると、誰か神が作った霊的な……」
こばるとが最後まで言う前にイドさんが水の槍を持って現れた。
「いやあ、びっくりしましたねぇ。時間停止をかけられるとは」
「……ここには人が沢山いるのよ、暴れたら大変なんじゃないかしら?」
アヤはこばるとをかばいながらイドさんを睨み付けた。
「はい、ですので、最小限に」
イドさんは鋭い突きをこばるとめがけてしてきた。こばるとが貫かれる寸前にアヤが入り込み、こばるとを押した。
「うっ……」
アヤは呻いた。アヤに槍がかすめ、血を滴らせたが、アヤはその後すぐに時間を巻き戻した。
怪我はきれいになくなった。
なぜできたのかはわからないが、頭の中でやり方が勝手に流れ、それを理解した感じだ。
「あなたじゃないんですよ……。大丈夫ですか?」
イドさんは心配した声を上げた。
「こばるとくん、行くわよ」
アヤは無意識に神力を放出し、こばるとを引っ張り、歴史書の棚を左に曲がった。
空の棚が並ぶ行き止まりにたどり着いた。明らかに空気が違う。
冷たくて、どこか澄んでいる。
「……白い本が」
棚には一冊だけ白い本が置いてあった。タイトルは『天記神』。
イドさんが入り込み、槍で再び突いてきた。彼は龍神らしい。
龍に人間のような神が叶うはずはない。アヤは槍が到達する寸前にこばるとの手を引き、白い本を手にとった。
「アヤ、たぶん、開くんだ!」
こばるとが叫び、アヤは慌てて本を開いた。白い光が二人を包んだ。