戦うべき相手1
アヤ達が目を開けると、プラズマと来たあの森に立っていた。
やたらと静かで霧が深い、涼しい森。少し不気味だ。
「あ、ああ、ここですね」
こばるとが慌てて栄次に言い、アヤがプラズマを探す。
「よう、帰ってきたか?」
森の奥から江戸時代のプラズマが現れた。
「紅雷王様、お久しぶりでございます」
「ああ、堅苦しいな、栄次は変わらんねぇ」
頭を下げた栄次にプラズマは苦笑いを向けた。
「世界が違うのに知り合いなわけ?」
アヤが思い出したように尋ねる。
「ああ、栄次の時神発生時期に時空が歪んでね、一度会ってるんだ」
「時空が歪む……。私達のはなんなのかしら?」
「さあ、わからんが……俺達の情報操作できる神は限られている」
アヤの質問にプラズマは目星がついているような話し方をした。
「ところで立花こばると、あんた、栄次に叱られただろ? ぶん殴られたか?」
「ええ……はい」
プラズマが尋ね、こばるとは冷や汗をかきながら頷いた。
「なにやった?」
プラズマの視線が鋭くなる。
「えーと……その」
「こばるとは天明の大火をこの時代に持ってきたのです。たとえ神でも歴史を丸々動かすことは禁忌であり、犯罪です」
栄次が代わりに答え、プラズマは眉を寄せ、はにかんだ。
「なるほどねぇ。俺は思い出したよ、時神は『起こった歴史を動かせる能力はない』とな。あんたが劣化異種で人間の力と神の力が混ざったことでそれができたとしたら、俺や栄次も人から神になった時にできるはずなんだが、俺達はそんなことできると感じたこたぁ、ない」
「……で、ですが」
「ああ、そうだ。あんたはできたわけだ。嘘をついてるなんて言ってねぇよ? そういう風に操作したやつがいんだよ。こういうことが起こるなんて考えてなかったんだろうがな」
プラズマは眉を寄せたまま、腕を組んだ。
「栄次、黒幕はこの時代を動いてない。どうする」
「……それがしは、紅雷王様のような未来を見る能力がありませぬ。それがしができることは情報操作した神を今から見つけ、記録をとっておくことでしょうか」
栄次も困った顔をしつつ答えた。
「俺達は毎日会おう。ここでなら会えるからな。あんたらは時代に帰れ」
「どうやって帰ったらいいのかしら?」
アヤが尋ねた時、こばるとが現代の腕時計を林の中から拾ってきた。
「え、なんで?」
「ああ、えーと、僕は今まで腕時計をしていてさ、ちゃんと元の世界に帰るように調節していたっていうか……さっきは江戸から江戸に飛びたかったからこっそりここに腕時計を外して置いといたんだよ」
「……わかってやっていたのね」
アヤの言葉にこばるとは苦笑いを向けた。
「それより……僕はその、歴史神の……」
「人間の歴史神管理をしている流史記姫神の父上に狙われてるんだろ? 龍神だったな」
プラズマに言われ、こばるとは頷いた。そう、現代ではこばるとは何度も銀髪の青年に襲われている。人間の歴史管理をしているヒメに負担をかけさせないように、こばるとを消したいらしい。
「襲われそうになる前に、元の時代に帰ったら、ここを目指せ。なんか本が置いてあるところ、未来にもあんだろ? そこに白い紙など目印があるはずだ。そこから飛べ。時代が近くなったら警戒する。ちなみに、何年後だ?」
プラズマは聞いたが、人間ならば途方もない年数だ。
「二百年あたりです。この感覚はまだないかと思われますが、平成の時代、二千一年あたりです。この時代はおそらく千七百年代ですかね」
「ほー、よくわからんが、おぼえておこう」
プラズマはアヤからボールペンを借りるとメモに時代と何年後かを記録した。もう戸惑いがない。
未来神は時代に馴染むのが早いのがわかる。
後に彼は紙を落としてしまったため、なんかの予言かと騒がれることとなる。紙の劣化は江戸、文字はボールペンのようなもの、書いてあるのは古語だ。大予言として都市伝説で騒がれ、江戸博物館に飾られているそうだ。
「じゃあ、私達は帰りましょう」
「うん」
アヤとこばるとは顔を引き締め、腕時計に手をかざした。二人は白い光に包まれて消えた。
「しかし……」
プラズマは唸る。
「あのふたりの神力……同じに見えるんだよ」
「……ええ」
プラズマの言葉に栄次が答えた。プラズマは疑問を口にする。
「天秤が下がることもなく、同じものが同じに乗っているというか、神力まで同じなんだよ、不思議だよな」
「向上異種の方が神力が増えていくはずです。劣化異種は徐々に人に近づいていき、神力がなくなるはずです。話をまとめるとですが」
「……まるで、一柱の神が二つに分かれたかのような……。あんた、どちらかの現代神に会ったことあるか? 時空の歪みで」
プラズマの質問に栄次は首を振った。
「いえ、ありません」
「あんたと俺はあんたの発生時期に時空が歪んで会っている。じゃあ、現代神発生時期には時空が歪まなかったのか?」
「発生していなかった可能性もございます」
「と、なると現代神はまだ覚醒してないことになるだろ? あの二人がこれから現代神として自覚するのかもしれない。現代神は……特殊な方法でいままで存在していた可能性もあり、俺達と同じにする方針が、こばるとが言った二千年代で起こるということなのかもしれない」
「とりあえず……」
栄次がプラズマを見、プラズマは先を続けた。
「俺達は待機だ。『歴史神』の他に世界の仕組みを調べよう」