ロストクロッカー3
アヤは自分の親戚だという子供を保護した。名前は立花こばるとと言うらしい。
確かに、前々から知っているような気もする。
彼は時計博物館に行きたがっていた。
「じゃあ、変だけど窓から出よう」
「窓? 玄関から出ましょうよ、ここ三階で……」
「大丈夫。この時計を借りていい?」
こばるとと名乗る少年はアヤの目覚まし時計を手に持った。
「え、なんで……」
アヤが疑問に思ったところでドアチャイムが鳴った。
「はーい……」
アヤが返事をして玄関へ行こうとしたのでこばるとは必死に止めた。
「待って! 僕は逃げているんだよ、きっとあのチャイムは僕を捕まえにきたやつらだ! だから窓から……」
「時計博物館に行く前に警察に……」
「ああっ! もう、いちかばちかで!」
こばるとはアヤの手を引き、窓から飛び降りた。手に持った時計を手放してから落ちていく時計に手をかざす。
「明日に」
時計から白い光が溢れ、アヤも包まれた。
「きゃああっ!」
アヤは突然に窓から落ちたため、悲鳴を上げていた。ここは三階だ。死ぬかもしれない。
しかし、アヤは地面に足をつけていた。
恐る恐る目を開ける。
「あ、あれ……?」
「うまくいった。明日に来れた」
地面に落ちて壊れた時計は砂埃がついていた。
「時計は昨日落ちて壊れたことになってるはずで、今日は明日。今から博物館に……」
こばるとは突然にアヤを連れて走り出した。
「ま、待って! なんなの? 待って!」
アヤはよくわからないまま、こばるとに手を引かれ走る。
「時計博物館ってどこ?」
「え、えー、この道を右に……」
スーパーやファミリー層が住むマンションがある小道をこばるとは右に曲がった。
自然と共存している町並みを駆けて、山の近くまで来ると古めかしい看板に「時計の博物館」と書いてあった。目の前に大きめの屋敷があり、たぶんこれが博物館なのだろう。博物館は外装工事をしたらしく、屋敷は当時のものらしいが今時に変わっている。
「ここ?」
こばるとに尋ねられ、アヤは頷いた。
刹那、風が吹き抜け、こばるとが呻いた。
「もう……来たのか」
こばるとは白い光りに包まれて消え、アヤは腰を抜かして悲鳴を上げた。
こばるとが消えた位置に銀髪の着物の青年がせつなそうに立っていた。
なんで彼は誰かに連れ戻されそうになっていると発言しているのに、博物館に行きたがるのだろう。
アヤはこばるとに手を引かれて走っていた。
なんで、こんなに急いでいるんだろうか。博物館前に来て、アヤは疑問に思っていた。
「ねぇ、警察に……」
「ついた! 入場はいくら?」
「え、えーと……」
「もういいや! 江戸の時計はっ……」
こばるとは最後まで言い終わる前に白い光に包まれて消えた。
晴れているのに不自然な稲妻が辺りに落ちている。彼が消えたところには銀髪の着物の青年がなんとも言えない顔で立っていた。
「江戸の時計はどれ?」
こばるとと言う名前の親戚だと名乗る少年と時計博物館に来たアヤは入場料を支払っているところだった。
彼はなぜか誰かに追われていて、博物館の時計が見たいと言う。親御さんから捜索願がでているのだろうか?
家出してきたのだろうか?
なにもわからないまま、アヤは江戸時代の時計がある場所まで案内する。
「えーと……長年紛失したと思われていた時計の一つが見つかったみたいで……子丑寅卯……ってかいてあるのが……」
アヤは説明するがこばるとは聞いておらず、アヤの手を握り、反対の手を時計にかざした。
「江戸に逃げるっ!」
後ろから稲妻が飛んできたが、こばるとに当たることはなく、稲妻を置き去りにするように白い光が二人を包んでいった。
「やりそこねましたね……」
銀髪の青年が頭を抱えながら立っているのが見えた。