ロストクロッカー1
夏が来た。
セミがかしましく鳴いている。
アヤは汗を拭いながら外に洗濯物を干していた。今日は水分がすべて持っていかれそうな暑い日。
「あっつい……」
手で仰ぎながら部屋の中に戻る。冷蔵庫からアイスキャンディを取り出し、水を入れたたらいを縁側に置いたことを思い出して縁側に向かう。靴下を脱いで庭に置いたたらいに足を浸し、アイスキャンディを頬張る。
「まあ、少しはマシかしら……。暑いけれど」
しかし、今まで自分が大量の洗濯物を干す羽目になるとは思えなかった。いままでずっと、ひとりで暮らしていたのだ。
アヤは両親に全く似ておらず、アヤのことで両親は仲が悪くなり、アヤを虐待していた。
アヤは早々に家を出て、ひとり暮らしだった。
それが……
アヤは庭に干した洗濯物を眺める。男物の服、サイズが合わない服まで様々に干してあった。
「……私はひとりじゃなくなった」
……夕飯を考えなくては。
リカはトマト料理……プラズマは菜食料理で栄次は特にない。
なんだか昔にこんなことをしていたような気がした。
ひとり暮らししか経験していないはずなのに、なぜかこの賑やかさを知っている。
旦那がいて、息子が……。
私の人間最後の記憶はなんだ?
「頭が痛い」
アヤは頭を抑えながら食べ終えたアイスキャンディの棒を縁側に置いた。
「アイス、食べすぎたかしら……」
……氷菓子とかどうかな?
甘いお菓子だよ?
誰かの声が遠くでする。
「……こばると……くん」
アヤは小さくつぶやいた。
「こばると君」
アヤの目から涙が溢れた。
……私が……殺した。
自分の息子、海碧丸の生まれ変わり……転生した現代神。
黒髪の男の子。
立花家の髪色で目元は私に似ていた。
最初の彼は人間で私の息子だった。彼は立花家を継ぎ、息子二人、娘二人の四人の子宝に恵まれた。
それから……どうなった?
時代を超えて同じ彼に何回も会って……。
彼は海碧丸の海碧をとり、こばるとと名乗っていた。
時神現代神は常に新しい。
現代の思考を持ち合わせ、適応する。
「いや……違う」
アヤはさらに頭を抑えた。
最初の彼は人間だった。
でも次からは「時神」だった。
そこからこばるとはずっと時神だ。
では、自分はなんなのか。
……あなたはバックアップです。
誰かにいわれた。
……あなたの方が現代神にふさわしい。
「……なんなのよ……」
頭が痛い。
橙の髪の少年トケイの顔が映った。
言い様のない恐怖にアヤは襲われた。
「誰か……助けて……怖い」
「アヤ? どうした? 大丈夫か?」
頭を抑え、震えているアヤに赤髪の青年、プラズマが駆け寄ってきた。
「プラズマ……怖い」
「……え?」
プラズマが眉を寄せていると、栄次とリカもやってきた。
「アヤ、大丈夫? ど、どうしたの?」
「アヤ……様子がおかしい。何があった?」
栄次がアヤに近づいた刹那、栄次、プラズマ、アヤの瞳が黄色に輝き、一斉に同じ言葉を発した。
「エラーが発生しました」
「え、何?」
リカのみ三人の変わりように戸惑っている。
「ちょっと! プラズマさん! アヤ! 栄次さん!」
リカは固まってしまった三人を揺すった。三人はすぐに意識を取り戻したが、何かおかしかった。
「あれはアヤのせいじゃない!」
「ああ……その通りだ」
プラズマと栄次はアヤに寄り添い、アヤを落ち着かせ始めた。
「ちょっと……なんですか?」
リカは困惑した顔で三人をただ見つめていた。