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エピローグ

 「ん……」

 周りがやたらと賑やかでアヤは目を覚ました。よくわからないが、更夜の屋敷で布団を敷いて寝ていたようだ。


 「なんか……長い夢を見ていたような……私、なんで更夜の屋敷で寝てたのかしら?」

 「アヤ、起きた?」

 リカが心配そうにやってきた。

 なぜかエプロンをしている。


 「えっと……リカ?」

 「そう、子供に戻っていた記憶はあるかな?」

 リカに唐突にそう言われ、アヤはなんのことかわからず戸惑った。


 「わからないよね? 実はアヤ、赤ちゃんになってたんだよ、かわいかったけど、なんか怖い現象だった……」

 「赤ちゃん?」

 「歴史神が元に戻したんだって」

 「……どういう……」

 「説明が難しい……というか、アヤが赤ちゃんになった理由は実はよくわからなくて……」

 リカは眉を寄せたまま頬をかいた。なぜか左手にお玉を持っている。


 「あの……何か作っていたのかしら?」

 「うん、まあ……トマトスープだけど、皆の口にあうかはわからない。スズがちょっと……」

 リカが濁した刹那、更夜の怒った声が聞こえた。リカは首をすくめる。


 「お前はなんで毎回、火薬で火をつけようとするんだっ!」

 「だって、ドーンってやった方が一発で煮えるでしょ!」

 スズの声も聞こえる。


 「煮えるか! 炭になるだけだっ!」

 更夜が叫び、反対側ではルナがなにやら騒いでいた。


 「プラズマー! どうやって冷林と神力交換するのー! 早く北に入りたい!」

 「わかったから、落ち着けよ。冷林、ルナに合わせて神力を……」

 隣の部屋ではルナとプラズマと冷林がいるらしい。


 「ああ、アヤ、目覚めたか」

 騒がしい中、栄次が障子扉から顔を出した。栄次はどこかスッキリしているように見えた。


 「栄次……」

 「アヤ、記憶でおかしなところはあるか?」

 「おかしなところ……」

 アヤは少し考えた。

 なんか忘れていたものを思い出している気がする。


 「なんか……忘れていたことを思い出したような……」

 「……そうか」

 栄次はしっくりこない顔で頷いた。

 「栄次も?」

 アヤに聞き返され、栄次は眉を寄せた。


 「……ああ、少し気になる」

 「そう……」

 違和感が残る。


 「……あの」

 障子扉からトケイが顔を出した。その瞬間、アヤは言い様のない違和感に襲われた。


 以前、栄次を襲った神が平然とこの場にいる、無害なのかといった話ではなく、違う違和感だ。

 昔から隣にいたような……。


 「かいへきまる……」

 「……アヤ、あのね……僕を」

 トケイは何かを期待した顔をした。


 「かいへきまる? 何? えーと……名前は……? 今は普通に会話ができるの? 時……神?」

 アヤにそう返されたトケイは落胆した顔をした。


 「あの、ごめんなさい。何か聞いてはいけないことがあったかしら」

 「ううん、ないよ。僕はトケイ。寂しくなってここにきた時神だよ。更夜が受け入れてくれたんだ。よろしくね」

 「ええ……よろしくね」

 トケイはアヤと握手をした。


 「海碧丸、ママだよ、良かったね」

 「え? 何?」

 「いや、なんでもない」

 トケイは意味深な発言をすると、せつなげに微笑んだ。


 「ま、まあ、とりあえず、ご飯作ってみたんだけど食べる? トマト料理しかないけど」

 リカが声をかけ、アヤは頷いた。


 「ええ、あなた、トマト愛してるものね。いただくわ」


 「リカの手料理、ありがたくいただく。そろそろ、赤茄子の季節か」

 栄次が優しげに言い、

 「ぼ、僕は甘いもの、作ったんだ! 昔から得意で」

 トケイは照れくさそうに笑った。


 「甘いもの……私も大好き。あの子はよく甘いものを作って私に食べさせてくれた」

 アヤはなんだか穏やかな顔をしていた。


 あの子って誰だろう……。


 黒い髪の男の子だった気がする。


 「私は……あの子が作った甘いものが好き……」

 アヤはどこか遠い目でトケイを見ていた。


 ……あの子はどうなったのかしら。私の息子、海碧丸(かいへきまる)……いや、立花こばると。


 ……私達は転生していた。

 あなたは今、どこに?


※※


 夏はきていないはずだが、暑い。梅雨入りをしたかしないかのくらいだ。今年はなんだが蒸し暑い。

 望月ルナは姉のサヨと学校への道を歩いていた。朝から小雨であまり天気は良くないが、ルナはどこか楽しそうだ。


 「お姉ちゃん、あのね!」

 ルナがお気にいりの傘を差しながら笑顔を向けた。


 「ん?」

 「ルナ、明日からお友達と一緒に学校行っていい?」

 「……お友達……いいよ!」

 サヨはルナの笑顔を見て、嘘ではないと感じた。そこからルナはサヨに色々と話してくれた。


 梅雨があけたら友達とプールに行くだの、キャンプに参加するだの、ゲーム大会するだの、今後の予定を嬉々と語るルナ。


 「ルナが楽しそうだ」

 サヨは笑顔で話を聞いてやった。


 「あと……」

 ルナはランドセルを背負い直して言う。


 「お墓参りしなくちゃ。お姉ちゃんが言ってたもうひとりの『ルナ』がお墓にいるんでしょ?」

 ルナの言葉に一瞬驚いたサヨは「そうだね」と優しく微笑んだ。


 「お姉ちゃん! 虹!」

 ルナが急に空を指差して叫ぶ。

 子供は会話がすぐに変わり、慌ただしい。

 いつの間にか雨が止んでおり、朝露が滴るなか空にうっすらと虹が浮かんでいた。


 「わあ、きれい」

 サヨも目を向ける。

 二人は虹を見ながら歩いた。


 「お姉ちゃん、ありがとう、行ってきます」

 学校の前に来てルナが嬉しそうに言ってきた。


 「いってら!」

 サヨが手を振ってからしばらくして、何人ものお友達が自然とルナに集まり、ルナはこちらを振り返ることもなく学校の中へと消えて行った。


 サヨは校舎を仰いでからもう一度、「いってらっしゃい」とつぶやく。


 空は一瞬だけ晴れて光が射し、濡れた校庭を輝かせていた。


 「ルナ、こっちのルナは元気に学校行ったよ。あんたのおかげかな。後でそっち行くわ。お土産なにがいい? えー、じゃがいも? おじいちゃんに料理してもらいなよ……もー」


 サヨは傘を閉じると手で仰ぎながら蒸し暑い中、道を歩いていった。


 もうすぐ夏が来る。

 ルナの楽しい夏休みにどう付き合うか、サヨは考えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルナちゃん、ずいぶん学校、楽しくなったみたいですね。 でもこばると、あまり大丈夫じゃないですよね…。 時神周りで面倒なことにならなければいいのですけど…。
2024/03/18 22:49 退会済み
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