子供は知っている6
栄次が見ていた過去は悲しいものだった。
こんな過去は見たことがない。
藤原栄優。
兄だ。
栄次と栄優は双子として産まれた。栄優の方が先に産まれ、栄次が産まれた時は祝福の声がなくなっていた。
忌み子であった。
どこかの天皇が碓に向かって叫んだというが、まさにそれであり、家はざわついた。
ヤマトタケルの伝説にそっくりなことがおこり、後から産まれた息子をどうするかの話が始まった。
「殺してなかったことに……」
「名家から呪われた子が産まれたことをまわりに知られたら……」
兄の方は栄優と名付けられた。
弟はどうするか、名前は決めなくて良い。どうせ死ぬ。
弟は誰からも愛されなかった。
ただ、ひとりだけ弟を愛する者が現れる。
姉だった。
姉は常に弟を抱っこし、こっそり乳母から乳をもらって育てていた。
姉はまだ幼かった。
だが、弟を必死で育てた。
しばらく経ち、乳離れをした弟は元気に育っていた。
反対に兄栄優は体を壊すことも多く、大変だったという。
このままでは兄栄優が殺され、弟が栄優にされる……そこまで考えた姉はまだ、九つになったばかりで弟を連れて近くの村へ逃げた。
いつの間にか弟が栄優の次、栄次と呼ばれるようになっていたからだった。
隠れて村で生活を始めた姉と栄次は優しい村人達に感謝しながら成長した。
しかし……
村は一揆を企んでいるのではとありもしない噂をされ、武士と戦いを始めるのであった。
年貢は故意に年々きつくなり、納められないと武士にたてつくようになった。
栄次は姉が死んだ理由が戦の通り道だったと勘違いしていたことに気づいた。
実際は……
逃げた姉と栄次が藤原だと知れ渡るのが嫌だったから、藤原が、武士と協力し、村ごとなくすことを決めたのだ。
反発していると言いがかりをつけ、それにより年貢をきつくし、村人が一揆を起こすのを待っていたのである。
「……わかった、もう良い……」
栄次は目をつむり、つぶやいた。
ありもしない一揆が始まり、まわりへの見せしめもかねて、村人は殺された。
首を見せしめに飾られ、赤ん坊はまとめて捨てられ、酷い有り様だった。子供と若い女を狙って殺しているようにも見えた。
なぜか。
「やめてくれ……」
栄次はその場でうずくまった。
村へ隠れた栄次と、姉を確実に始末するためだろうか。
しかし、栄次は死ななかった。
ヤマトタケルが乗り移ったかのように強かった。
生き残った村人を助け、武士を何人も撃退した。
襲ってくる男達は男の子を狙って殺しているようだったから栄次は何人も守った。
村人は散り散りに逃げ、降伏し、姉の死亡が確認された段階で藤原は栄次も死んだとした。
万が一生き残っていたら、栄優が死んでから藤原に迎え入れると決めた。
姉だけは事情を知っているため、殺さねばならなかったようだ。
そして生き残った栄次は
「……はあはあ……」
無意識に呼吸が荒くなる。
知りたくなかった事実が栄優により明るみになる。
栄優が見せる過去が栄次の最後の人間時代の過去だった。
「俺は……村を襲って皆殺しをした武家に、姉を殺した武家に拾われたと言うのか! 一所懸命に生きろと、跡取りになれと、そう言われたのか! 自分は無知だった……文字も書けない童だった。姉者にどんな顔をすれば……」
栄次は泣きながら拳を畳に押し付けた。知らない方が良かったかもしれない。
「あー、栄次だったか? 辛かったな。ちょっくら話がある。成長したお前さんなら話ができそうだ」
栄優が栄次にそう言った。
「……兄者」
「ワシを恨んどるか?」
「いえ……忌み子となった自分の『運命』を恨んでおります」
栄次はゆっくり立ち上がった。
「……そうかい。じゃ、ちょいと一緒に来てくれや。まだ残ってる姉上の世界へ行こうぞ」
「……!」
栄優は優しく微笑み、栄次の肩を抱いた。
「……で? あたしなわけ? 送迎係じゃないんですけどー!」
サヨがため息混じりに尋ねる。
「サヨのお嬢さん、お願い!」
栄優が軽く頼み、サヨは頭を抱えつつも頷いた。
「じゃ、プラズマくん、リカ、スズ、アヤがまだ目覚めてないけど、よろ! おじいちゃん達はお墓作ってて、ルナ達はうちの妹のルナとお別れして帰ってくると思うからー」
「わかった。サヨさん」
「……?」
スズは真剣な顔で頷き、プラズマとリカは首を傾げつつ、とりあえず、サヨ達を見送った。