子供は知っている3
サヨ達はルナを心配しつつ、サヨの世界へ帰った。
サヨの世界は朝焼けが美しい明け方になっていた。
「ルナ、大丈夫かな……」
スズはすごく心配した顔をした。
「スズ、ルナは大丈夫だよ。あたしが向こうのルナもこちらもちゃんと見ていく」
サヨが答え、スズはため息まじりに頷いた。
「サヨさん、わたし、役に立ったかな」
「役に立つか立たないかじゃないよ、ルナの友達でルナを想ってくれるだけでルナは救われてるんだよ。あの子は幸せよ」
「……ルナが帰ってきたらまた、一緒に遊べるかな」
スズはサヨに不安そうに尋ねる。
「あの子はけっこう単純だから、寂しくなってスズに突撃すると思う。これは予想だけど、ほぼ百パー」
サヨの言葉がおもしろかったのか、スズは微笑んだ。
「さあ、半分死んでるだろうリカを見に行こ!」
サヨは扉を音をたたせながら開けると古民家に入っていった。
「さ、サヨ……そんな楽しい雰囲気じゃないんだって……」
すぐに目にひどいクマを作ったリカが文字通り死にそうに顔を出した。
「リカ、プラズマと栄次、イイコだったでしょ? あ、アヤで?」
「アヤは定期的に泣くし、寝ないし……プラズマさんは絵本いっぱい持ってくるし、栄次さんは暗いところが不安みたいで泣くし」
リカは涙目になっている。
「あ~あ」
「栄次さんが怖がるから電気つけてたら、プラズマさんが『なんだ、夜まで明るくできるのか、ではこの絵巻を読むのだ』っていっぱい……アヤは泣くし……」
「ぷっくく……」
サヨはなんだかおもしろくなり笑ってしまった。
「笑い事じゃないんだって! マジで!」
「お疲れ!」
「軽い!」
サヨはリカの肩に手を置くと中に入り、更夜達に目を向ける。
「おじいちゃん達は、憐夜さんのお墓、作ったら? こっちはなんとかするから」
サヨに言われ、更夜は目を伏せた。
「ありがとう、サヨ」
更夜は少し遠くで待機している千夜と逢夜の方を向いた。
「……先に憐夜の墓を作りましょう。お姉様、お兄様」
「いいのか? 時神が大変なのでは……」
千夜が尋ね、更夜はサヨを見た。
「サヨが、なんとかすると。リカもいるし、何かあれば来るはずですから」
「……なんでも自分で抱え込まない、とても良いと思う」
「ああ、本当に」
千夜と逢夜はせつなげに朝日を仰いだ。
「……まぶしいな。私達はようやく、日の元を歩けるようだ」
「そうですね。更夜、行こう。この白い花畑のどこかに、墓を作ってもいいか?」
逢夜に聞かれ、更夜は頷いた。
「ええ。サヨもいいと」
「行こう」
きょうだい達は朝日に向かい歩き出した。憐夜に対する最後の優しさのために。
※※
場所は変わり、すこし前……。
「よく顔を出せたな、冷林」
金色の天守閣の最上階、ワイズの居城に現れた冷林。
ワイズは半笑いで冷林を見ていたが顔からはそこそこの怒りを感じた。
冷林はワイズに呼び出されたので、当然怯えている。たよりのプラズマに連絡がつかないのだ。
「何があったか、わかるかYO?」
ワイズの問いに冷林は首を振った。
「はあー、部下の把握ができてねぇなァ……てめえ……本気で言ってんのか? ああ?」
冷林は怯え、渦巻きの下の方から涙を溢れさせる。
冷林は人型クッキーのような見た目に顔に渦巻きが描いてある人形のようだが、中身は幼い男の子である。
安徳帝。
かつてはそう呼ばれていた、天皇家だ。
「望月ルナ。アイツは世界の均衡を崩し、不安定な破壊神……。お前にはあれを扱うのは無理だYO。私が管理しようと決めた」
ワイズに言われ、冷林は首を横に振った。
「第一、お前は望月ルナが起こしたことを何もわかっていない。現在、時神は問題だらけだ。今回は時空神まで動いたと我が軍、天記神が証言したZE。おまけにおかしくなった時神を元に戻しているのは天記神率いる歴史神。当然西の剣王も知っている。あそこにいる流史記姫神は剣王軍だ」
冷林は下を向いた。
「この件は高天原南、天界通信本部にてすべての神へ通達されるだろうYO。高天原南の天界通信本部には神の歴史を書き記す歴史神、稗田阿礼と太安万侶がいる」
冷林はワイズに這いつくばった。
「私にあやまってどうする? そういえば、お前の所には一柱いたな。『白金栄次とそっくりな歴史神』が」
ワイズは軽く笑った。
「ま、そんなことはどうでもいいが、お前は高天原会議で裁かれる。公平にいこうじゃあないか、クソガキ」
ワイズは冷林の頭を力ずくで掴んだ。冷林が泣きながら暴れている。
「ついでに、リカの件も話そうか、冷林。お前、リカを北に入れたな?」
冷林は頭を掴まれ、泣きながら頷いた。
「なぜ、管理もできねぇくせに勝手なことをすんだよ、てめえ。リカは高天原会議にて無所属にすることを決めただろうが! アイツの力は強大なんだ。お前はアマテラスの何を知ってる? すべて忘れてしまったくせに」
ワイズは冷林を床に叩きつけ、足で踏みつけた。
「お前はどうせ、罪神なんだ。高天原会議のルールまで破っている。今回の件は覚悟しておけ」
ワイズが踏みつける足の力を強めた刹那、突然に肩先が刃物で斬られたかのように斬れた。
「アァ、そうだったな。コイツもアマテラスの『子孫』か。『制約』とは厄介なものよ。紅雷王の時と言い、いなくなっても機能すんのか。誰もオマエらの顔なんて覚えてねぇのになっ!」
ワイズは冷林の顔を蹴り飛ばした。冷林は涙を流しながらひれ伏している。
ワイズの顔から切り傷が突然に現れ、血が吹き出した。
「もう、オマエの賢者じゃねぇんだよ、アマテラス……。お前の子孫は、誰一人お前を覚えてねぇじゃねぇか……」
ワイズは冷林を再び蹴ると、神の使い、鶴を呼んだ。
「さっさと集めろ。今から高天原会議を開く。今回は面倒な話だZE……」