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ルナが思うこと3

 「ルナ!」

 スズは真っ白な空間を泳ぎながらルナを探していた。ルナに会いたいと願ったら、このよくわからない真っ白な空間にいたのである。


 どこかはわからないがルナがいると確信を持っていた。


 「ルナ!」

 スズはルナを呼ぶ。

 この不思議な空間は時間の感覚がおかしい気がする。


 なんというか過去、現代、未来がない世界のように感じた。


 時間がない世界は何もなく、真っ白。世界全体がこうなってしまったら、時神がいなくなってしまったら、世界は本当になくなってしまうのだとスズは実感した。


 しばらく前に進んでいるのかどうかもわからない状態が続いたが、目の前にルナの姿が見えた。

 ルナは二人いた。


 「ルナ!」

 スズはとりあえず、両方のルナを呼ぶ。

 「スズ!」

 ルナが嬉しそうに声を上げ、微笑んだ。その顔には涙が光っていた。


 「泣いてたの?」

 「泣いてないよ」

 ルナはそっぽを向いた。


 「私も呼んでほしかったよ。呼んでくれなかったから自分から来たの」

 スズの言葉にルナは再び微笑む。


 「スズ、呼びたかったけど、一瞬だけやめようって思ったんだ。ルナ、強くなりたかったんだよ」

 「……そっか。あたしはあんたのオネエチャンみたいなもんだから、呼んでくれてもよかったんだよ」

 「うん、呼べば良かったよ」

 ルナが頭をかくと、横にいたルーちゃんが不思議そうに首を傾げた。


 「ねぇ、そういえば、この子はルナのお友達……なの?」


 「そうだよ! 初めてのお友達! ルーちゃんにもお友達、できるよ! スズはユーレイだからルーちゃんとはお友達になれないけどさ、すごい広い世界を生きる中でさ、お友達って絶対できるんだ。ルナはそう思ってる」


 ルナの言葉にルーちゃんは目を伏せた。現実は仲間がいないかもしれない。ルーちゃんはまだまだ信じられなかった。


 「あのさ、あたしもね、死ぬ前はずっと一人だったんだよ。ひとりで寂しくて、殻に閉じこもってた。でもさ、閉じこもっても何にも変わらないの。行動しないと、君の気持ちは外にはわからない」


 スズはルーちゃんの肩に優しく手を置き、強い光を瞳に宿して言葉を口にした。霊は生きた者を導く役割がある。


 「……でもルナは……今、誰も話を聞いてくれないかもしれないの」

 ルーちゃんはスズに助けを求めるように言ってきた。


 「誰もってことはないって。気づいてないんだよ、あんた。あたしもそうだけど助けてくれる人が見つからなかったんだ。でね、敵だと思っていた身近な人が実はあたしを助けてくれる人だった。ひとりだと気づかないことがある。思い込んで視野が狭くなるんだ」


 「……そっか」

 ルーちゃんはまだまだ気持ちが固まらず、不安な顔をしていた。友達はほしいが話しかけた子が友達になってくれるかわからない。


 また、いじめられるかもしれない。いじめにあきらかに加担していない子もいることにルーちゃんは更夜に言われて気づいていた。


 だが、ルーちゃんの心は簡単には修復できない。


 「迷ってるね」

 「うん、勇気が出ないの」

 「わかるよ」

 スズは優しくルーちゃんに微笑んだ。


 「でも、やってみるしか先に進めないの」

 スズは隣にいたルナにも目を向ける。


 「でしょ? ルナ」

 「うん。ルナもそう思うよ」

 ルナは自分のあやまちを心にしまいつつ、苦笑いをした。

 三人はまだまだ何かを話そうとしていたが、突然スズがルナ二人を突き飛ばした。


 「え!? なに?」

 「ごめん。やばい気配が……」

 スズは咄嗟にルナ達がいたところに目を向けた。

 先程ルナ達がいた場所に足で踏みつけるように立っていた橙の髪の少年が感情なくこちらを見ていた。


 「……っ! えっと……トケイ!」

 スズに名前を呼ばれたがトケイは答えず、こちらに飛んできた。

 顔に表情はなく、ロボットのようだ。


 「逃げて!」

 スズが叫び、ルナは動揺しながらルーちゃんを引っ張った。

 しかし、狙われていたのはルナの方だった。

 ルーちゃんは目に入っていない。


 「……狙われてるの、ルナか。トケイ、こんなにロボットみたいだったっけ……。なんでルナが狙われてるの?」

 ルナは尋ねるがトケイは答えない。ルナはひとり走り出した。


 狙われていたのはルナ。

 スズとルーちゃんは関係がない。逃げるしかなかった。

 体すれすれに拳が通りすぎた。

 当たっていないのに服が一部破ける。


 「えっ……」

 ルナは目を見開いたが、考える暇はなく走る。

 遠くでスズが叫ぶ声が聞こえた。気にしている余裕もなく、走るしかない。


 「こんなの……避けられない……。ねぇ、なんでルナを攻撃してくるの!」

 ルナはトケイに話しかけるが、トケイは何も答えなかった。


 「……っ!」

 ルナの真横を拳が通りすぎる。

 ルナはじぐざぐに走ることにした。真っ直ぐ走っていたらいずれ、当たってしまう。

 真っ白な空間をひたすら走るしかない。


 「トケイ! なんで? ルナが何したって言うの?」

 ルナは時空をおかしくしてしまったことに気づいておらず、トケイが無感情に自分を襲う理由がわからなかった。


 「なんとかしないと……」

 迷っていたら急に誰かに手を掴まれた。そのまま上に引っ張られる。


 「え?」

 ルナは驚いた声をあげ、トケイの攻撃をかわしてくれた誰かを見た。緑の髪をひとまとめにしたメガネの青年だった。傘を手に持ち、ウエスタンハットのような帽子に橙の着物と不思議な格好をしていた。

挿絵(By みてみん)

 「だ、だれ?」

 「拙者は天光御柱屋 (てんこうみはしらや)幻ノ(げんのしん)。時空神でござる! 時空をおかしくしてはいかぬぞぉ!」


 なんだかやや抜けた話し方でルナに声をかけた青年はルナを抱えると傘を使ってトケイの蹴りを受け止めた。


 「傘は拙者の霊的武器! そうそう壊されん! 幼い時神よ、弐の世界の時空をおかしくしてしまったことに気づいておる? 拙者が出てきたのもこれが原因でござる」


 「えっと……アヤとか子供にしちゃったりしたよ」


 「そっちもであるが、先程でござる。アマノミナカヌシと少女の戦いを止めようとしたでござろう」

 緑の髪の青年、ゲンさんにそう言われ、ルナは先程神力を出してしまったことを思い出す。


 「あ、あれで時空が歪んだの?」

 「そう。それで、歴史神ではどうにもできないということで拙者が出てきたわけでござーる!」

 ゲンさんはトケイの攻撃をうまく避けながら得意気に笑った。


 「えーと、何さんだっけ?」

 「天光御柱屋 (てんこうみはしらや)幻ノ進! ゲンさんでござる!」

 「ゲンさん、ルナを助けてくれるの?」

 ルナはトケイの攻撃に怯えつつ、ゲンさんを仰ぐ。


 「なんとかはするでござる! このままでは弐が壊れるのでな」

 「トケイはなんでルナを襲うの?」

 ルナは右へ左へ振られながらゲンさんに尋ねた。


 「弐を壊す悪者だと思われてるのでござる」

 ゲンさんはトケイの攻撃をうまく避けつつ、ルナにわかりやすく言った。


 「トケイは元に戻る?」

 「戻さんとお嬢さんが消されてしまうぞ?」

 ゲンさんは傘を開き、パラシュートのようにユラユラと飛びながらトケイの攻撃を避けた。


 「どうするの?」

 「まず、この真っ白空間を排除する!」

 ゲンさんはメガネを光らせ、電子数字をたくさん流し始めた。

 何をしているかわからないが、空間の計算をしているようだ。


 「空間把握、魂を二つ感知。魂をうまく外に出しつつ、空間を排除します」

 ゲンさんはそう言うと、トケイの攻撃を避けつつ、五芒星を描いた。


 感知した二つの魂とはこの空間に入り込んだスズと壱の世界のルナだろうか。


 ゲンさんはトケイを避けつつ、白い空間を少しずつ消していった。

 その過程でルナは意味深な映像を見てしまった。


 アヤが世界を壊している映像だ。

 時計の針のような槍を持ち、栄次を襲っているアヤ。


 プラズマがなにかを叫んでいる。


 「アヤ! 過去を消すな!」

 アヤは泣きながら栄次を槍で刺そうとし、栄次は困惑した顔をアヤに向け、必死にプラズマをかばった。


 「未来は消されてはいかぬ! プラズマ……逃げろ!」

 栄次がプラズマを庇うが、プラズマは栄次を守った。


 世界が歪んでいる。


 どこかの崖で栄次が今にも落ちそうなプラズマの手を握っていた。

 プラズマの胸には時計の針のような槍が突き刺さっている。


 「栄次……手を離せ。もうダメだ。あんたは生きるんだ」

 「プラズマ!」

 「や、やっぱり最初に俺を狙ってきたか。栄次、アヤを守れ……アヤを殺すな」

 プラズマは血を流しながら弱々しく栄次に言った。


 栄次はすぐにルナの方を向いた。ルナは肩を震わせる。


 後ろからアヤが槍を持ちながら歩いてきていた。不気味に笑っている。

 崖は逃げ場がない。

 プラズマは何があったか崖に落ち、栄次に手を握られているのだ。


 「ルナ! 巻き戻せ! 未来神が死ねば世界は終わる……」

 栄次がルナに突然そう言い、ルナはよくわからないまま涙を流し立ち尽くしていた。


 プラズマが叫んでいる。


 「早く手を離せ! お前が死ぬぞ!」

 それに対し栄次は最後にこう言った。


 「プラズマ、『次』は俺が盾になる」

挿絵(By みてみん)

 そしてアヤの口が小さく動く。


 「『こばると』君は悪くなかった。時神のシステムなんて消えればいい」


 白いモヤがかかり、ゲンさんが空間を消していた。


 「……な、なに?」

 「あー、見てしまったか」

 「え?」

 ルナはゲンさんの言葉に首を傾げた。


 「今のは『過去』であり、『存在してない未来』の記憶でもある。同じようなことが起こっているが、時空を戻したことであの三人の『過去』が、お嬢さんが介入した『ありえない過去』になった。


 お嬢さんが例えば過去戻りをしていたら、栄次殿と紅雷王殿はお嬢さんを使い、巻き戻しを選択していたという『もし』の記憶。


 つまり、今後、お嬢さんが『過去戻り』をしたら、今見た記憶のような過去に変わるということでござるな」


 「ルナが過去戻りをしたらの記憶? 今、同じようなことが起こったって言ってたけど、昔にアヤがあんなことした記憶があるの? 似たような過去があったんでしょ?」


 ルナは眉を寄せ、ゲンさんに尋ねた。時間を動かすと基本、厄介らしい。


 「あったといえばあった、なかったといえばなかった……でござるかな。お嬢さんが見たのは最悪の『過去』。アマノミナカヌシ、マナが『考えた』バッドエンドでござる。世界滅亡ルートってとこでござるかな?」


 「マナ……」

 ルナは幼いリカが言っていた事を思い出す。

 幼いリカはマナだった。

 彼女はシナリオを考えたらその通りになったと言っていた。


 「未来も過去も、存在しなかったものは山ほどある。ただ、どっか別の時空でこの記憶は存在し、時神はすでに滅んだのかもしれない。


 そういう世界線はあったが、今、時神が存在している世界線に統合され、あったかもしれない『過去』がなかったことにされた可能性もある。


 時空神の拙者にはすべての『過去』、『未来』、『現代』が見えるが、実際にその世界線があったかはわからぬ」


 「……それはお話や予想も含まれるってこと?」

 ルナはそう尋ねた。

 ゲンさんは驚いていた。


 幼いルナが理解できていることに驚いたのだ。アマノミナカヌシ、マナは伍(異世界)の世界で小説を書いている。あちらの世界には神がいないが、信じられ始めているという。


 その理由がリカが好んで読んでいたという『TOKIの世界書』というマナが書いた小説だ。

 この小説に影響され、再び『存在しないもの』が注目されている。


 ルナはこちら(弐の世界)の住人であるため、伍に存在する小説は知らない。


 この『TOKIの世界書』には時神アヤが狂う過去も記載されている。ある時神、『立花こばると』の暴走によりアヤは深く傷つくことになるのだ。


 こちらの世界にはこの『過去』は存在していない。


 「どこかの次元にはあるかもしれないという空想の『過去』や『未来』も拙者は見えるのでござる。お嬢さんはこちらよりの神なのかもしれん。まあ、立花こばるととの過去は存在していたといえば存在していたが……時神は覚えておらんかな」


 ゲンさんはそんなことを言いながら、トケイに向かって五芒星を描いた。


 「……空間は消え、弐への脅威は消えました。『破壊システム』は『時神アヤの心』を沈め、元に戻りましょう」

 ルナが不安げな顔をしている横でゲンさんはトケイに優しく話しかけた。白い空間は消え、元の宇宙空間に戻っていた。


 「拙者は滅多に対応しませんが……時神に様々な状態が出ているとのことで対応いたしました。アマノミナカヌシと少女に関して、解決は拙者ではありません故、傍観させていただきます」


 ゲンさんはさらに、トケイではない誰かにそう声をかけた。


 「誰に話してるの?」

 ルナが尋ね、ゲンさんは悩んでから答えた。


 「世界でござるかな」

 「世界……」

 「では、拙者は失礼するでござる。アマノミナカヌシと少女はそちらで止めてくだされ」

 ゲンさんはルナの手を離すと、蜃気楼のように実体なく揺れて消えていった。


 「あれ、僕は……?」

 トケイが急に元に戻り、呆然と立ち尽くすルナに首を傾げていた。

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[一言]  「誰もってことはないって。気づいてないんだよ、あんた。あたしもそうだけど助けてくれる人が見つからなかったんだ。でね、敵だと思っていた身近な人が実はあたしを助けてくれる人だった。ひとりだと気…
2024/01/29 10:54 退会済み
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