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「望月 憐夜は私を消したいのか」
ふと、ルナとライの後ろからツインテールの少女が現れた。
「……!?」
二人は恐怖が表に出た顔で振り向く。
「え……っと……」
「私はアマノミナカヌシ、マナ。私になんか用? 私に何かしてほしいの?」
ツインテールの少女、マナは微笑みながらルナ達を見ていた。
「……アマノミナカヌシ……」
ライはなんとか言葉を絞りだし、マナを見つめる。
「なるほど、望月更夜の関係か。この家系は本当に困るね」
マナは憐夜の黒い雷を簡単にはね除け、憐夜に鋭い神力をぶつけ始めた。
「世界を破壊するなんて、何を考えているんだか」
マナは憐夜を攻撃し、憐夜は標的をマナに変えた。
「アマノミナカヌシ……お前のせいで不幸な者達が産まれる……。運命から周りと違う、どうしようもない者達が産まれてしまうんだ!」
憐夜の怒りはまっすぐマナに向かう。マナはため息をついた。
「憐夜、私には何もできないね。私は世界を変えようとしているが世界はプログラムされていて、なかなか動かせない。それが現実。
『私達』、アマノミナカヌシは元々、この地球が形成される前にいた存在。前の世界を記録として残すため、我々アマノミナカヌシは『存在』している。私達は『前の世界』の生き残りで、『存在しない世界を知っている』。
我々が古事記で『世界を作った』とされているのは、前の世界の生き残りとしてバックアップされた存在であり、最初に世界で存在したと誤解されているからだ。
日本での名称はアマノミナカヌシ。世界ではそれぞれ我々の名前が違うけど、皆同じ私達。つまり、我々が世界を作り上げたわけじゃないの。恨まれるのはお門違い」
マナは憐夜を真っ直ぐに見据えたが、憐夜はいらつきを全面に出した顔でマナを攻撃した。
憐夜の雷を神力で弾きながらマナは続ける。
「私ですら、世界の運命を変えられていないのに、世界を壊して新しくしようとするなんて笑える。
私達が、地球ができる前の世界にいたという事実さえ、今は『存在してない』のだから、私達だって人間が考えたただの空想かもしれない。あなたは迷惑。消えてもらっていいかな?」
マナは憐夜に槍のような神力を多数飛ばし、憐夜を消滅させようと動き始めた。
「……ちょっと……何これ」
ライは憐夜とマナが攻撃をし掛け合い始めたため、戸惑いながら立ち尽くした。
「……やっぱり……よくわかんないけど、ルナが……止めるしかない!」
ルナは現状がよくわかっていないが、何かしなければという気持ちのみでとりあえず動き始めた。
ルナは答えが出ていない。
二人をなんで止めようとしているのか、どうやって止めるのか、何も考えられていない。
「お互い攻撃し合うのは間違いだと思う!」
ルナはよくわからないまま、どうしたらいいかの結論も出ていないまま、イメージもできないまま、神力を放出した。
ルナは憐夜の世界で時空をおかしくする方面の神力を放出してしまい、マナは驚き、振り向いた。
「望月ルナ……」
※※
栄優は空を見上げ、少し過去を思い出す。
……ワシは産まれた時、そりゃあ体が弱かった。何の病気だかわからんが、熱を出してばかり、咳をしてばかり……肺が弱かったのかなんなのか。
双子らしいから名前的にワシは長男で栄次は次男だったんだろう。だから、栄次は捨てられた。
おそらく、栄次の方が丈夫で長く生きられたはず。
でも、ワシが長男だから生かされた。
頑張って十二まで生きた時、二歳下の嫁さんができた。当時のワシに選択肢はなかったが、藤原氏の主として嫁さんを守ろうと思った。
なかよし夫婦だったんだ。
ワシは体が弱いから相変わらず具合が悪い日が多く、無理しながら主として頑張っていた時、嫁さんに子供ができた。
十七の時だ。
そりゃあ、嬉しかった。
それと同時に不安になった。
自分がいつまで生きられるのか。
自分はなぜ、産まれた時からこうなのか。
どんどん体が動かなくなる焦り。嫁がワシを泣きながら看病する日々……。
情けない。
ワシはまだ、十七だぞと。
嫁は腹に子がいるのにワシのために無理をしてほしくない。
産まれた子を導くのは誰だ。
ワシじゃないのか……。
こんな背中を子に見せていいわけない。
……まだ死ねない……。
まだ死ねない……。
当時は神に人生を、運命を握られていると思っていた。
神を何度も恨んだ。
お前には呪いがかかっている……。そんなことも言われていた。
今思えば、処分予定だった栄次が姉に連れられて生きていて、家族がそれを知っていたから、藤原氏は呪われたということか。
双子は呪われている……。
昔はまともに双子が産まれることはほとんどなかった。
同じ顔だし、産まれたら呪いだと思われていた。
人間は余計なことを考えられるほど賢いのか、単純に頭が悪いのか。まあ、考え方はわかるがな。
有名なエビス神さんは産まれた時に足が動かない子だったから海に流されてなかったことにされたと聞いた。
今はなにがなんでも生かす治療をすると聞く。親が望んでいなくても、赤子が望んでいなくても、医者は子を生かそうとする。
子供には「人権」があり、赤子でも「治療をうける権利がある
」と。
それは本当にいいことなのか、ワシには判断がつかない。
産まれてから生きられる体ではない赤子を無理やりでも生かす医療……、親が自然に任せたいと言っても「虐待」として流されて、勝手に生かされる治療をされる。
日本はどうやらそうらしい。
ワシは主として生かされて良かったのか、産まれてからすぐに死んだ方が幸せだったのか、よくわからんが、気持ち的には辛いことの方が多かった。
ワシは子供が産まれてすぐに死んじまった。
嫌だったねぇ……。
子供はかわいかった。
もっと一緒にいたかった。
嫁さんとも仲良く子を見守りたかった。
ああ、ダメだな。
「まだ、こんな気持ちになるのかよ。死んでから……嫁さんと息子に会えたのに……」
栄優の独り言にサヨは眉を寄せ、話しかけるのをやめた。
人間は賢いのか、馬鹿なのか。
個人個人に意志がありすぎる。
だから、自分が幸運だ、不幸だと考える。それをなくすために、試練を与えられただの、成長するためだの、あの子のためだの、余計な気持ちで気持ちを前向きにする。そうしなければ、生きていけないのが人間なのだ。
不幸を認めたくないから、前を向く。それが人間だ。
ワシも……それだな。