抜け出せ! 5
リカは再び、壱の世界とやらにいた。
「はあ……えーと」
リカはいつもの公園を見回して場所を確認する。いつの間にか秋になっており、紅葉がヒラヒラと落ちていく。
「あっちが商店街でアヤがいる、こっちは栄次がいて死ぬ……」
リカは振り向いて大きな建物を睨む。
「あそこは図書館。図書館は前回、よくわからないけど、避難場所にしている神がいた。よし、あっちだ」
リカはアヤがこちらに気づく前に逃げるように図書館方面へ走った。こちらは大通りが近く、車が通りすぎる音がやたらと響く。
図書館の自動ドアを抜けようとした刹那、軽い感じの男の声がした。
「そこの、ほら……えーと、トマトみたいな子!」
トマトをモチーフにした服を着ているリカは慌てて振り返った。
敵かもしれないと警戒したのだ。
しかし、目の前にいたのは時神未来神、湯瀬プラズマだった。
「プラズマ……さん?」
「お? 俺を知ってんの? なんかさ、変な雰囲気纏ってるから声をかけたんだけど、あんた神か?」
リカは複雑な顔を向けた。
以前、時神だと言われたのだが、実際にはよくわからないのだ。
人間だとも言えず、リカは頭を悩ませる。
「えーと、ですね……。よくわからなくて」
「ほー、ああ、ならさ、ナオのとこが……」
プラズマがそう発した刹那、リカの顔色が変わる。
「ナオさんのとこにはいかない!」
「お……おぅ。なんだよ、こえー」
プラズマはリカの雰囲気に怯え、戸惑いの声を上げた。
「あ、ごめんなさい。図書館に行こうかと……」
リカは慌てて顔を戻すと、とりあえずそう言った。
「ああ、なるほど。図書館ね。そりゃあ、いい考えかもな」
「……?」
プラズマが苦笑いを向けてきたが、リカにはなんだかわからなかった。図書館に行くのがいい考えとはなんなのか。
自分の記述が図書館にあるというのか?
「あいつのとこに行くんだろ?」
プラズマはリカが眉を寄せているので、確認するように問いかけてきた。
……なんだかわからない。
リカにはわからない。
リカはどうするか迷っていた。
知ったかぶりをして同意するか、何なのかを聞くか。
「わ、私っ……殺されたりしますか?」
「はあ?」
リカは動揺のあまり一番意味不明な発言をしてしまった。案の定、プラズマは首を傾げる。
「あっ……えっと……その……」
「あいつは大丈夫だと思うけどなあ……。なんでそんなに怯える。お前、尋常じゃないくらい震えてるぞ」
プラズマに問われ、リカは勝手に震えていた事に気がついた。
頭が真っ白になった。
初めての経験は不安でいっぱいだ。今度はどういう殺され方をするのか。
考える部分はそこばかり。
「んー、比較的、『こっち』の神は女神に手を上げないぞ。役割があるからな。神話上、男は力強い力……大地を活性化したりとか、滅ぼしたりする力が強くて、女は産み出す力や育てる力が強い。男女は逆なんだ。逆だから世界が保たれる。神の世界は天秤さ。だから、女神を突然襲ったりはしないぞ。単純な破壊の力は男が勝るからな。女を蹂躙する気質の神は今は少ない。世界が滅ぶからな」
「……よくわかりません。でも待って……。ねぇ、今、『こっち』って言いませんでしたか!?」
リカはプラズマの『こっち』の神は……という部分が引っ掛かった。
「ん? あー、向こうは伍の世界だろ? 詳しくは知らないけど」
「そっ、そう! 伍! 私はそこから来たみたいで……」
「へぇ」
必死なリカにプラズマは不気味な笑みを向けた。
「じゃあ、俺も図書館行こっと」
「私をどうかしたりしません?」
リカはプラズマのつかみ所がない部分を疑っていた。
「え? どうかってなにするの? 言ってみな」
「えっ……えー……」
リカは逆に問われ、戸惑い、目を泳がせるが、反対にプラズマはいじわるそうに笑っていた。
とりあえず、リカはプラズマを連れて図書館へと入っていった。