抜け出せ! 4
……時神……。
「ときかみ、ときがみ、時神」
リカは朝日が差し込む自室のベッドの上にいた。
「全然なんのことかわからない。だけど、確かアヤが時神だった」
栄次もプラズマって神も時神だと言っていた。
……それで、私も時神。
過去、現代、未来の時神があちらにはいる。
「じゃあ、私はなんなのか」
リカは頭を悩ませながら起き上がった。
……そろそろ……。
ピンポーン。
ドアのチャイムが鳴る。
「来た」
リカはうんざりしながら、トマトモチーフのパーカーを羽織る。
最近、突然に肌寒くなり、秋の訪れを実感していた。
「秋かあ……」
よくわからないまま、マナに会う。意思と反し、楽しそうに会話をする。
「じゃあ、零時に公園でね」
「はーい、楽しみ!」
わけわからない会話をして、笑顔でマナと別れた。
「はあ……」
リカはため息をついて自室に戻ろうとして立ち止まった。
……まてよ……。
「図書館だ……。こっちの図書館に神様の記述があるかも。なかったら少しでも向こうで調べよう」
リカはトマトの形をしたかわいいハンドバッグを持つと外へと飛び出していった。
図書館へ走る。
走りながら調べる神の名前を反芻した。
タケミカヅチ、イザナミ、イザナギ、アメノオハバリ、カグヅチ、スサノオ、時神……。
こちらの世界にはいままで「神様」がいなかった。「神様」という名前は昔からあったが、誰も信じていない。今は「マナ」の影響で「神様」が再注目された。
今はいるのだ。
なくなった存在が復活している。
リカは駅前の図書館にたどり着いた。赤トンボが多数飛んでいく。だいぶん涼しくなり、走っても汗をかかない。駅前の街路樹はやや色づいてきていた。
「ついた」
リカは顔を緊張させ、図書館の自動ドアを抜けた。
神様の記述がありそうな本棚を探す。いやでもマナが書いた「TOKIの世界書」に行き着いてしまうが、今は読まない。
学生のマナが書いたこの小説は異例のヒットで、今やどこの図書館にもある。
ではなく、神様の記述がしてある歴史書を探しているのだ。
「一応、向こうでも探してみるけど、こちらでも……」
リカは「古事記」という歴史書を見つけた。
……えーと、日本の神話……これだ。
閲覧席に戻り、本を開いてみる。
「うげぇ……古文か……」
日本で使われていた昔の文字がびっしり書いてある。同じ読みでも今と意味が違うものもあるので、読めるか自信がなかった。
「えー……と、えーと……」
漢字だらけの中で読めない中、最初の一文に「アマノミナカヌシ」という言葉を発見した。
その神が宇宙を創った神だという。
……どっかで、聞いた……。
「あ!」
記憶を辿ると、マナがそう言っていた。
アマノミナヌシに逆らうとは……。
そう言った。
「あれ? でも……これミナカヌシ……」
なぜ、マナは「カ」を抜いたのか。間違えただけなのか。
他に言っていたことを思い出す。
……アマノミナヌシの力を持っている。
そんなような事も言っていた気がする。
つまりマナは……この話が本当ならば創造神ってことだ。
さらにリカはアマノミナカヌシの文字を見て息を飲んだ。
「気のせいじゃないよね……。考えすぎ?」
アマノミナカヌシの言葉の中に「マナ」がいた。
「いや、まさか……さすがに」
苦笑いをしつつ、自己解釈で読み進める。全くわからないわけではない。学校の授業で古文は国語のテストに出るのだ。
「うーん……うーん……」
リカは唸りつつ、解読する。
なんとなくわかった。
リカは調べる神の部分だけ、頑張って読んだ。
結果としてわかったことは、アマノミナカヌシが世界を創り、イザナギ、イザナミが産まれ、最初の子供である蛭子神エビスが弱い子供だったために海へ流され、
そこから色々あって沢山の子供ができて、最後の子供になったのが「カグヅチ」で、カグヅチがイザナミの陰部を焼いてしまったことによりイザナミが死に、怒ったイザナギが神剣「アメノオハバリ」を使い、カグヅチを斬り殺す、その時に飛び散った血から産まれたのが「タケミカヅチ」。
それから、死者の国、黄泉の世界にイザナギが会いに行くがイザナミはひどい姿だったので、イザナギは黄泉から逃げて体を清めた。厄を落としているとその厄からさらに子供が産まれたという……。
それが、「アマテラス」、「ツクヨミ」、「スサノオ」。
こんな感じで神が沢山産まれたらしいが、ついこないだまで、神々は存在すらしていなかった。
この古事記という神話は、本当にこちらに昔からあったのだろうか。
「わけわからん……。神が産まれた理由も何もかも、意味がわからない。おしっことかから産まれるとか、なんなの?」
リカは頭を抱えたが、内容はなんだか役には立ちそうだ。
とりあえず、本を借りて家に帰った。