歴史神の隠し事5
弍の世界内、入り込める誰かの世界に入ったルナはどうしようもない気持ちを抱えながら道を歩いていた。この世界は夕暮れの一本道が続く田舎の世界。どこか昭和あたりの夏休みを思い出させる世界だ。
ひぐらしが鳴いている。
ルナは地面の小石を蹴りながら一本道を歩いていく。
ここを歩く意味は特にない。
気持ちが整理できないため、ルナは何にも考えずに道を歩く。
石を蹴りながら歩いていたら、目の前に赤髪の少女が現れた。
「……?」
「こんにちは。望月ルナさん。正義の味方になれる方法を教えさせてください。あなたは世界を救えるかもしれません」
少女は袴姿で優しく微笑んだ。
「……ん? 誰? ルナを知ってるの?」
「はい。私は霊史直神、ナオと申します。神々の歴史の管理をしている神でございます」
ナオは丁寧に頭を下げるとルナをまっすぐに見た。
「神か……。ルナはヒーローじゃないんだよ」
「ルナさんは正義として戦う方法があります。どうか、こちらの世界をお守りください」
「どういうこと?」
ルナが眉を寄せたのを見たナオは話を先に進める。
「アマノミナカヌシ、マナを倒し、追放し、伍の世界に封印しなければなりません。今、こちらの世界がマナにより脅かされております。神々、生き物の命を守るため、私に手を貸してくれませんか?」
「……んん」
ナオの言葉でルナは先程の子供のリカを思い出す。
ルナを消してこようとしたり、世界を思い通りに動かそうとしていた。
もしかしたら、マナは世界の敵なのかもしれない。
そう思ったルナはヒーローを模索していたこともあり、ナオの言葉が魅力的に聞こえた。
「ルナはヒーローじゃない」
「いいえ。あなたにはマナを抑える力があります。世界を救ってくれませんか? あなたは染まってないんですよ。こちらの世界のデータにも、あちらの世界のデータにも。だから、自由に動けるのです。マナを抑えることができたら、あなたは英雄です」
「……」
ナオの言葉はなぜか、ルナにとって大切な言葉に聞こえた。
彼女の言葉を胡散臭いとは思えないほどルナは純粋で、子供だ。
そして、傷ついた心に挽回できるかもという希望が芽生える。
役に立つかもしれない、世界を救えるかもしれない。
「マナは時神や我々を壊す害悪な神でありますが、私達はこの世界に縛られ、彼女に直接干渉できません。だから、あなたの力を借りたいのです」
ナオは本当に困った顔をしていた。
「……ルナはたいした力になれないかもしれないけど、皆を助けられるなら……力を貸すよ」
「ありがとうございます。では、一緒に来ていただけますか?」
ナオが手を伸ばし、ルナはその手を握る。ルナはたいした理解ができていないまま、ナオに連れられ世界から出た。
世界から出ると、弍の世界を飛べるらしい神々の使い鶴が宇宙空間で駕籠を引き、待っていた。