歴史神の隠し事3
ルナはなんだかわからないまま、大きくなったリカについて説明をする。
皆が不安そうな顔でルナを見ている中、更夜は年長者として、ルナの親として話を聞く。
「つまり、マナだった幼少のリカがルナを消そうと動いたわけか」
「うん。で、ルナは身を守ろうとした。リカに神力をぶつけるつもりじゃなかった!」
ルナは話しながら興奮し、涙を流し、唇を噛む。思い通りにならない様々なことがヒーローになりたかったルナの心と離れていく。
「もうやだ……」
ルナは怒りにも似た感情で小さくつぶやくと、神力を再び暴走させた。
「もうやだよ! どうしたらいいんだよ! もう!」
「ルナ! 落ち着け」
ルナが放った神力はまるでかまいたちのように部屋を切り刻む。
更夜はすばやく結界を張り、子供のプラズマ、栄次、壱のルナ、スズ、トケイ、そして戸惑っているリカを守る。
「……っ」
ルナは皆を守った更夜を見て、自分がやってしまったことに震えた。
同時に。
ルナは悲しくなった。
これでは、自分が悪者だ。
いじめたあの子達と同じだ。
むしゃくしゃした気持ちをぶつけたあのいじめっこと、同じ。
耐えられない。
気持ちが抑えられない。
弱いものに、力を、ぶつけたい。
皆を守ったおじいちゃんを傷つけたい。
気に入らない。
これは、
ヒーローの感情なのか?
「……ルナはここにいちゃダメだ」
「ルナ……そんなことないんだ」
更夜が優しくルナに声をかけるが、ルナは更夜を睨み付けた。
「ルナは! もともとヒーローじゃねぇんだよ! ルナはもうイヤだ!」
「ルナ!」
ルナが部屋を飛び出し、更夜は呆然と立ち尽くしてしまった。
追いかけられなかった。
更夜らしくない行動。
更夜は動けなかった。
「苦しんでいるルナを助けられない……。俺はどうしたらいいんだ」
更夜は拳を握りしめ、絞り出すようにつぶやいた。
それを見た壱のルナは更夜の拳に手を置くと優しく声をかけた。
「ご先祖様、ルナと一緒に、こちらのルナを探しに行こう? こちらのルナ、もしかするとルナと同じ気持ちかもしれないです。ルナも、どうしたらいいか気持ちの整理ができないの……」
「……ルナ、ありがとう。お前の気持ち、こちらのルナの気持ち……子供の気持ちは単純なのに……複雑だよな。偉そうにものを言っているが、俺は感情豊かなお前達の気持ちがしっかり理解できていない」
更夜は壱のルナの頭を優しく撫で、子供になったプラズマと栄次を見てから、大人に戻ったリカを見る。
「リカ、俺とあちらのルナは今からこの世界から出ていってしまったルナを見つけに行く。お前は栄次やプラズマ、赤子のアヤを頼む。そろそろ、サヨも戻って来そうだから、戻ってきたら協力してくれ」
「更夜さん、どうやって世界から出ていったルナを見つけるんですか?」
リカが不安そうに尋ね、更夜はトケイに目を向けた。
「トケイ、二回目だがルナを連れ戻す。一緒に来てくれ。スズはここにいろ」
スズが一緒に行こうとしたので、更夜がすばやく止めたが、スズは首を横に振った。
「更夜……あたしはルナの友達で家族だよ! 一緒に行く!」
「……そうか。そうだよな……。わかった。来てくれ」
更夜はスズの気持ちを理解し、連れていくことに決めた。
「ど、どうなってるのかわからないけど……僕は更夜とあっちのルナちゃんと、スズを連れて弍の世界を動けばいいのかな」
トケイは戸惑いながら小さく更夜に声をかけ、更夜は「頼む」とそれだけ言った。
「ルナは不安定だ。お前達に先程の力を飛ばしてくる危険がある。だが、頼む、ルナを守ってくれ……。俺はどうしたらいいかわからない。お前達の声かけ、言葉が頼りだ」
「更夜、皆、行こう」
更夜の背中をスズが叩き、壱のルナが更夜の手を引く。
「えーと……リカ、だっけ? 僕、また行かなくちゃだから、子供ちゃんの相手、お願いします!」
トケイは困惑中のリカにそう言うと、部屋から去っていった。
「ルナは心配だけど、自分が栄次さん、プラズマさん、アヤのお世話ができるか不安だよ……」
別の部屋で寝ていたアヤが起き、泣いている。栄次とプラズマはリカの服を引っ張り、どうしたらいいか不安そうな顔でリカを見上げていた。
とりあえず、更夜が先程作っていたらしい子供向けの夕飯を二人に食べさせることにした。
「あ、アヤはミルクか……。ミルク……えーと、粉ミルク、人肌……最後にゲップさせる……あってる?」
栄次、プラズマに聞いても二人は首を傾げるだけ。
リカは突然の子育てに迷うことになった。




