歴史神の隠し事2
栄優とサヨは図書館の外に出た。静かな霧深い森の中だが、不気味さはあまりない。
「歴史神はどいつもこいつも怪しい……。あんたもなんか怪しい。栄優サンだっけ?」
サヨに尋ねられ、栄優は眉を寄せたまま「そうだ」と答えた。
「あんたはね、時神過去神、栄次と同じ顔をしてるの。絶対栄次くんに関係あるでしょ。もしかするとあんたもさ、栄次くんを知らない可能性があるなと思ったんだよ」
「あんたも……と、いうと?」
栄優は何も語らず、サヨから話を聞き出そうとしている。
「あたしもそうだったんだけど、この世界は壱(現代)、参(過去)、肆(未来)がわかれた世界で、三直線に進む世界だった。だからね、現代に存在するあたしが時神過去神と未来神を知るはずがなかったわけ。
だけど、伍(異世界)からリカって時神が来て世界を繋いじゃったの。それであたしは栄次くんとプラズマくんを知った。
だから、あんたも壱の世界のあんたなら、栄次くんと関係があっても栄次くんを知らないよねって話。
でも、世界がくっついたから知らない記憶が、参の世界の記憶があんたに流れている最中なのかもって思ったわけ」
「なるほど。この謎の違和感はそれか。ああ、時神を調べていたのは本能だったわけか。今、知らないワシが姉と名乗った女と話している過去が流れてきた。参(過去)のワシか? こりゃ、ワシも姉も死んだ後の記憶だな。その時神ってやつ、無関係ではなさそうだ」
栄優の発言でサヨは呆然とした。
「ねぇ、本当に栄次くん、知らないの? なんか思い出さない?」
「知らんもなんも、会ったことがないからな。なんとも言えんがね」
栄優は手を横に広げ、お手上げのポーズでサヨを見た。
「……性格は違うけど、顔が同じ。双子かもしれない。うちにもね、性格全然違う双子がいるよ。あんたももしかすると、違う環境でそれぞれ育った双子なのかも」
「まあ、あるんじゃねぇかね、そういうのは。ワシの時代は双子は呪いみたいな扱いだったからねぇ。ひとり隠蔽された可能性があるわな」
栄優の言葉にサヨはまた心を痛める。
「隠蔽か。望まれてなくて捨てられたってことだよね?」
「ワシんとこは藤原氏、公家だ。ワシは跡取りだったわけだから、栄次ってやつは捨てられたかなんかしたんだろうな。双子という事実自体知らねぇし、一歳差の弟はいたが姉もいたことすら知らない。さっき、弐(死後の世界)で姉と名乗る女と話したらしい、知らんワシの記憶が流れてきただけだ」
「……実際、会ってみなよ。時神過去神に。連れていってあげる。今、理由あって子供の姿だけど。あんた、死後、今になって歴史神になったんでしょ? 神になったら例外を除いて、霊の時と違って弐の世界を自由に動けなくなる。栄次くんは今、弐の世界のあたしの心の世界にいる」
サヨの話を聞いた栄優は実際にはよくわかっていなさそうだった。神になったばかりで世界についてもよくわかっていないらしい。
「興味深い。時神が一番わからねぇ神だ。連れてけ」
「なーんもわかってなさそうだけど、偉そう……」
サヨは小さくつぶやくと、自分の世界への扉を出した。
ここは弐の世界でもあるが、他の世界とも繋がる不思議な場所だ。壱の世界のように扉が出せた。
「はい、この扉から入る」
「どうなってやがんだ? 興味深い」
栄優はどこか楽しそうに扉のまわりを回っていた。好奇心旺盛で、年相応な気がする。
死んで魂になり、弐に来てから変わらぬ年齢のまま過ごしたようだ。栄次と同い年ならば、彼は十八だ。十八で亡くなったかはわからないが、深い後悔があり、弐の世界で今までさ迷っていた魂であることは間違いない。
「ほら、あけたよ! 入る!」
サヨに怒られ、栄優は渋々戻ってきた。
「お嬢さん、気が強そうだねぇ……。コワイコワイ」
「はいはい」
サヨは栄優をとりあえず開けた扉の先へ押し込んでおいた。