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歴史神の隠し事1

 サヨは天記神(あめのしるしのかみ)の図書館に行くため、人間の図書館に来ていた。まだ夏は来ていないが夏のように暑い。


 ただ、図書館内は涼しかった。


 「夏かよ……。暑すぎ。中は涼しい。ふぅ」


 サヨは手で顔をあおぎながら辺りを見回した。今日はあまり人がいない。天記神の図書館への行き道を探していると、ひとりの女性が近づいてきた。


 「右の歴史書の棚を左です」

 「……へ?」

 女性はそれだけ言うと、元の持ち場へ去っていった。よく見るとまわりの人は彼女が見えていないようだ。


 「霊的ななんかなわけか……」

 サヨは頭を抱えつつ、歴史書棚を探し、左に曲がった。壁の先に空間があり、何も入っていない本棚が寂しく置いてあった。


 「なに、この本棚……ん?」

 下段に一冊だけ真っ白な本があった。手に取ると『天記神』と書いてある本なのがわかった。


 「んん?」

 サヨはとりあえず本を開く。

 刹那、サヨは白い光に包まれ、どこかへと飛ばされた。


 白い本がその場にむなしく落ちる。それを拾い上げたのは先程の女性。

 「再生の時神で『K』、望月サヨ。いらっしゃいました」

 女性は機械的な音声でそう発すると白い本を棚に戻し、去っていった。


 一方サヨは霧がかかる森の中にいた。辺りを見回した後、眉を寄せる。


 「どこ、ここ……弐の世界?」

 道は一本だけしかなかった。森の中へと続いている。


 サヨはとりあえず舗装されていない土の道を歩きだした。

 森の中なのに動物の声もなし、鳥の姿すらみえない。

 やたらと涼しく、不気味に静かな森だ。


 森を抜けると古い洋館が建っていた。館の主が盆栽好きなのか、様々な盆栽が館を囲っている。


 「ぼんさーい……かあ」

 サヨは立派な盆栽を横目に、洋館の扉を開けた。たぶん、ここが天記神の図書館である。


 「いらっしゃいませ~!」

 扉を開けた瞬間、女性のような男性の声が響いた。


 男性の声だが、雰囲気が女性。


 きれいに並べられた本が天高く棚に詰められ、沢山の閲覧席がある中、サヨは声の主を探す。


 サヨは閲覧席の椅子に創作の着物に星形の帽子をかぶる男性が座っているのを見つけた。


 「どうもー、はじめまして……え~……天記神さん?」

 サヨが頭の整理をしつつ、不思議な雰囲気の男性に話しかける。


 「そうですわよ。お初ですね。こんにちは」

 天記神は物腰柔らかく、サヨに挨拶してきた。


 「……失礼だけども、オネェさん……? ハートは女の子?」

 「あら! ハートは女の子! 良い言葉だわね! 好きよ」

 サヨの発言に天記神は喜んでいた。天記神の中身は女性であることをサヨはとりあえず理解する。


 「女なら話しやすいわ。あたしが来た理由、わかる?」

 「ええ、わかりますわよ」

 天記神は紅茶とクッキーをお盆に乗せ、サヨの前に優しく置いた。


 「あんたさ、東のワイズ軍、なんだよね?」

 「はい。そうですね」

 天記神はゆっくりと紅茶を飲む。


 「ルナにたいして、ワイズは動いてる? あんた、ルナも知ってるよね?」

 「望月ルナちゃんは知っています。ワイズは……動いてますが、こちらの世界の修復のため、動いております。わたくし達も時神を元に戻す修正をしております」


 「……ルナに罰はいくと思う?」

 サヨは天記神を真っ直ぐ見据え、尋ねた。


 「それはわかりません。わたくしはそこまで把握してませんので」

 「修正って時神を元に戻すだけじゃないよね? 何か隠してない?」

 「隠すとは?」

 天記神は上品にクッキーを食べる。


 「そちらにとって都合の悪い記憶を隠そうとしていないかなってことだよ。あんた、歴史神のトップだよね? 昔、あんた達さ、時神になんかやったんじゃないの?」

 サヨは鋭く天記神にそう言った。天記神は紅茶を飲むと、カップをゆっくり置く。


 「……わかりませんわね。何もしてませんわ」

 天記神が答え、サヨは眉を寄せる。その時、少し離れたところから男の声がした。


 「あ~……寝ちまった。誰か来たのか?」

 「……ん? え?」

 サヨは男性に気づかなかった。

 端の方で別の男性が寝ていたようだ。サヨはその男性を見て言葉がないほど驚いてしまった。


 「おサムライ……さん!? なんで元の大きさに?」

 「ん? あ~、人違いしてんのか?」

 「……そっくりすぎる」

 目の前に眠そうな顔で立っていたのは時神過去神、栄次と同じ顔をしている青年だった。


 ただ、言葉遣いが栄次らしくない。


 「ああ、栄優(えいゆう)さん。起きましたか。新しい歴史神さんは色々調べてますもの、眠くもなりますわ」

 「新しい……歴史神……」

 天記神の言葉にサヨはさらに眉を寄せる。


 「え~、お嬢さん。お嬢さんも神さんかね?」

 「うん、時神だよ」

 「なるほど。時神。今、調べている最中の神か」

 栄次にそっくりな男、栄優の言葉にサヨはすばやく食いついた。


 「あたしらを調べている? あんた、歴史神になりたてなんだよね? なんで時神を調べてるの?」


 「謎が多いんだわ。謎だらけ。ワシは知りたいのよォ。謎だらけのあんたらの事」

 栄優はサヨを鋭く見据えた後、天記神を見る。


 「栄優さん、時神はこの世界にとってかなり重要な神達です。調べるのはかまいませんが、世界の仕組みを知ることはかなり困難ではありますよ」


 「……だろうな。テンキさん、ワシはちょっくらこのお嬢さんと出るよ」

 栄優はサヨに目配せをし、一緒についてくるように言った。

 サヨはとりあえず、栄優についていくことにする。


 「天記神(あめのしるしのかみ)、ちょっとこのおサムライさんそっくりの人と外に行くね」

 サヨは一言、天記神に言い残した。


 「はい、またいらしてくださいませ。……いくら調べても何も出てはこないけれど」

 天記神は最後の部分を小さく付け加えた。


 二人が出ていった後、天記神は人間の歴史管理をしているヒメちゃんに連絡をとる。


 「ヒメちゃん、人間時代の時神の修復はできているかしら?」

 天記神が問うと、頭の中からヒメちゃんのかわいらしい声がした。


 「そろそろ終わりそうじゃ。これが終わったら『ナオ』に交代じゃな」


 「ナオさんには手を焼きますが……まあ、なんとかできるでしょう。……以前のように、稗田阿礼(ひえだのあれ)さんや太安万侶(おおのやすまろ)さんに神の歴史改変の記録を残す必要はないと思いたいですね」


 「アマテラス様がお隠れになったことにより、古事記を作った歴史神らが『先の世界改変の記録を残さねばならなくなったあの時代』までは世界が崩れることはないとは思うぞい」


 「そう、かしらね。異世界の時神、リカが来たことにより、時神達が統合時代の記憶を戻していることも個人的に気になるわ。後、アヤがあの『改変』を思い出さないか、ナオさんが心配している。アヤにたいしての記憶のブロックをこの機会に強化するのかもしれないわ」


 「それはできん。トケイが目覚めているぞい。アヤは近々、思い出す。ナオは罪神としての覚悟をそろそろ持つべきじゃ。天記神、どう動く?」

 ヒメちゃんに問われた天記神はしばらく悩み、ため息をついた。


 「歴史神の(かしら)として……彼女を守らないと……」


 「まったく、お優しいボスじゃの。まあ、今回は良い。それより紅雷王と栄次はリカが原因じゃ。ルナはようわからん。人間のルナを見てみても、歴史に異常はなく、弐のルナが神力を放出した故に、アヤが赤子になったとは考えにくいのじゃが……」


 ヒメちゃんの声に天記神は目を細めて唸る。


 「リカが幼くなった理由も実はハッキリしないのよね。あの子はこちらが操作しなくてもルナが元に戻した……。時神が面倒なのは、『発生が皆違うから』なのよね。ルナとリカは実態がないところからスタートしたタイプ。このふたりは構造が似ているわけです」


 「そうじゃな。ふたりは初めから人間の皮がないわけじゃ。ルナが動かせるとしたらリカじゃの。確かに構造の違うアヤをいじるのは無理そうじゃ」

 ヒメちゃんの言葉に天記神は頷いた。


 「そう。アヤは『あの時神』のバックアップだった。彼女が一番特殊で一番構造がまわりの時神と違うのよ。ルナが彼女を子供に戻せるわけはない」


 「……ということは、やはり、アヤは昔の『転生時代の神力』を戻してきていて、なにかのキッカケで幼年戻りをした可能性が高いわけじゃな」

 ヒメちゃんの言葉に天記神は頷いた。


 「おそらく、そういうことです。ナオさんが知らないわけはないと思うので、弐の世界でなにか動いてるはずですわ。ナオさんに関しては栄優さんを通して監視していこうと思います。わたくしはここを出られませんのでね」


 「……承知しました。こちらはこちらの仕事をします。引き続きお守りくださいませ。ではの、また何かあれば連絡をお願いするのじゃ」


 ヒメちゃんは丁寧にしめると通話を切った。


 「……まさか、『立花こばると』が復活した……? こないだ黄泉が開いたのよね……」


 天記神は冷めてしまった紅茶をひとり静かにすすった。

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