チルドレンズドリームズ5
「なるほど、そいつは東のワイズだな」
部屋の一室に壱のルナ、幼少に戻った三人、トケイとスズを迎えた更夜は赤子に戻ったアヤをあぐらをかいて足の上に乗せ、話を聞く。
「……ルナがかなり責められてた」
スズが言いにくそうに言葉を発し、更夜は目を伏せる。
更夜の足の上に乗ってるアヤは更夜をみて微笑んでいた。
「あの子はルナの未来見、過去見をして全てを知り、傷ついた上、ワイズに責められたのか」
「そうみたい」
スズが言った横で幼少のプラズマが口を開く。
「未来見ができるのか。我と同じである。傷ついたのなら、かわいそうだ。理解はできる」
プラズマが頷き、栄次も頷く。
「……いつも笑顔の子のようだが、先ほどはとても悲しげだった。俺も悲しい気持ち、一緒だ。姉者がおらん」
栄次は再び涙を流し始めた。
「栄次、いちいち泣くな。立ち直れないのはわかるが、どちらにしろ、姉はいない」
更夜は栄次に一言だけ言うと、壱のルナに目を向ける。
「ルナ、俺はお前の親族だが、もう死んでいる。霊なんだ。もうひとりのルナも実は死んでいる。俺達は霊だ。お前は霊魂の世界に来ている」
「……はい」
壱のルナは素直に返事をした。
「……わかっているか?」
「……はい。ルナに会った時に気づきました。もうひとりのルナはうちにはいないから。……お墓の中に……いるから……。たぶん、更夜様ですよね? 更夜様もお墓に入ってるってお姉ちゃんが」
壱のルナは今にも泣きそうになりながらそう言った。
「……そうか。サヨが教えたんだな。……一度、会えて良かった。はっきりと言うが、お前はいじめにあっているようだな」
更夜に言われ、壱のルナは目を伏せ、悲しそうに下を向く。
「家族とか、皆に知られてる……。情けないですよね。情けなくて……たぶん、望月家の皆から恥だと思われてると思います……。ルナは……辛くて消えたいです」
「ルナ、お前までそんなことを言うのか。……少し、ここにいなさい。現実から逃げるのも立派な行動だ。言っておくが……誰もお前を恥だとは思っていない。お前の問題ではなく、いじめている子供の問題だ。
子供は皆、小さなことで様々な感情が暴走する。お前をいじめてる子供は皆、たいした感情じゃない。気に入らないから、クラスからはぶられるのが嫌だから、自分にないものを持つお前をうらやましく思っているなどの感情だ。たかだか三十人くらいの小さな世界。
だが、子供はその世界から逃げられず、それがすべてになる」
更夜は壱のルナの頭に手を乗せ、優しく撫でた。
「……ルナは……皆のためにいじめられてるってこと? お友だちはできないってこと?」
壱のルナは目に涙を浮かべ、更夜を仰ぐ。
「お前に友達はできる。お前の中に友達になりたい子、友達になれそうな子がいるはずだ。俺にはわかるぞ。いずれ、その子らはお前に話しかけてくるが、お前から話しかけていく方が勇気があるな」
「……そんな子、いないです」
壱のルナはふてくされたように更夜から目をそらし、口を結ぶ。
更夜はその子供らしい表情に思わず優しい顔をしてしまった。
更夜は守護霊でもある。
生きている親族を心の中から正しい道に向かわせる役目もあるため、はっきりとは言わず、ルナに気づかせようとしているのだ。
「全員がお前をいじめているわけではない。そのうち、見ているだけでは良くないと立ち上がる子が出てくる。その子達が立ち上がる前にルナが決着をつけるんだ。三十人程度の小さな世界だが、皆が皆、同じ考えじゃない。お前に対するいじめを良くないと思ってる子供もいるんだ」
「ルナは怖いです。できないです。ランドセルを蹴られたり、机に落書きされたり、消しゴムバラバラにされたり……転ばされたりしました。あの子達はルナが嫌いなんです。ルナはだから、学校にいかない方がいいんだと思います」
壱のルナの心の傷は深い。
「お前はなんで、そいつらのために生きてしまうのか。自分の人生、そいつらに捧げるのか? それこそ馬鹿馬鹿しい。お前は俺達親族の誇りであり、大切な子孫だ。皆がお前を守っている。本当に辛いのならば逃げても良い。
だが、俺はお前に立ち上がってほしいと思っている。俺は望月更夜。お前を心の中から守っている。答えが出るまでここにいなさい。俺はお前の味方だ」
更夜はアヤを横にいたプラズマに渡し、壱のルナを優しく抱きしめた。ルナは大粒の涙をこぼし、更夜の背に手をまわした。
「ルナをいじめてこない子がいるのは、知ってる……。でも、怖くて話しかけられなかった。何を話せばいいのか、わからなかった……。皆がどう思ってるのか、わからない。皆、お面をつけてるように見えるの……。お面をつけてルナを笑ってるように見えるの……。ご先祖さま、ルナは怖いよ……」
「……ああ、怖いよな。気持ちを俺に話してくれてありがとう、ルナ」
更夜は壱のルナが落ち着くまで抱きしめながら好きに泣かせた。
いままでたまっていたものが一気に出てきたようだ。
心の世界は人の心を裸にする。
プラズマ、栄次、スズ、トケイは黙ったまま更夜とルナを見ていた。その中、リカだけは作った物語が現実になっていくことに喜びを覚えていた。