時空が歪む3
「なんだ! どうした?」
慌ただしく帰ってきたプラズマに栄次は驚いた。
「ああ、年齢が戻るのが早い! だから、冷林をこちらに呼ぶ! 冷林! いますぐ来い!」
プラズマは新しい着替えを持ってきて、とりあえず服を脱がせる。
アヤは静かに泣いていた。
「気持ち悪かったよな……。オムツは……パンツタイプ……。履かせりゃあいいのか? アヤちゃん、ごめんな」
プラズマは慌てながらアヤのオムツを一枚取った。
「ああ、あたしがやるよ」
サヨが横からオムツを受け取り、慣れた手付きでアヤを落ち着かせる。
「アヤはまずいな……」
栄次はアヤの服を持ち、お尻拭きをサヨに渡し、唸った。
オムツを履かせた時、アヤの年齢がまた下がる。
急に小さくなり、オムツが大きくなった。
「……アヤ……これじゃあダメだ。テープタイプちょうだい!」
「どうすりゃあいいんだ……。栄次……」
プラズマがサヨにテープタイプの赤ちゃん用オムツを渡しながら栄次を見た。
「……ルナの過去戻りを使うか。過去に戻れるのはリカとサヨだ。過去に戻ってルナを止めるしかない」
栄次が不安そうにこちらを見ている六歳のリカを見つつ、小さく答えた。
プラズマは唸る。
「……あまり過去に戻ると参(過去の世界)の門を守る竜宮が介入してくるぞ……。サヨとリカは二回目だ。しかもルナは今、不安定だろ」
「そうだが、それしか思いつかぬ……。壱にいると時間が進んでしまう故、弐にアヤは入っていた方が良いかもしれん。弐は時間が壱とは動きが違う」
栄次も困惑しつつ、悩みながら発言している。
「過去に戻ってルナを止めればいいの? やってみてもいいけど、ルナは激情型タイプ。気持ちが鎮まらないかも」
サヨが冷や汗をかきながらアヤを抱きかかえる。アヤは指しゃぶりを始め、うとうとと寝始めた。
「二歳くらいだ……。歩くのに慣れてきたくらいの時期。次は離乳食やミルクの時期に年齢が落ちる……」
サヨがつぶやいた刹那、更夜から神力電話が入った。
「ルナがいない! ルナが消えちまった! すまない……ちゃんと見ていたんだが……」
「ルナがいない?」
サヨの一言に栄次とプラズマはさらに顔を青くした。
※※
「ルナがいなくなった!」
サヨが栄次とプラズマを仰ぐ。
「どうしてだ! どこに行ったかわからないのか?」
プラズマが更夜の神力電話に入り込み尋ねる。
「……わからんが、もうひとりのルナと同じ精神世界に行った可能性がある。今、トケイとスズが探しているが、今のところ見つからない」
「……とりあえず、栄次、アヤを連れて更夜のところで待機していてくれ……。サヨとリカはこちらにいてもらう。冷林がそろそろ来る」
「わ、わかった」
栄次はアヤをサヨから受け取り、サヨは弐の世界の門を開いた。
「おサムライさん、しっかり抱っこしてあげて! 寝てる子は首がふわふわする!」
「わ、わかった……」
戸惑っている栄次にサヨは追加で声を上げる。
「後はおじいちゃんがなんとかできるから!」
「そ、そうだな。更夜は子を育てている……。赤子はかわいいが、扱いがわからぬ……」
栄次は恐々アヤを抱きつつ、弐の世界の門をくぐって行った。
栄次が消えたらすぐに冷林が慌てた雰囲気で現れた。
「冷林、どうしたらいい? ルナの力が人間のルナの中で暴走した。アヤとリカが年齢戻りをしている。何をするのが最適だ? 東西南は動いているのか?」
プラズマがすぐに尋ね、冷林は頷いた。頭にキーボードを打つように文字が打ち込まれ始める。
……歴史神がなにやら動いている。東の天記神、稗田阿礼、太安万侶、西のナオ、ムスビ、ヒメ。
つまり、西、東はすべてを知っていてもおかしくはない。
冷林はまとめた文章を頭に流してきた。
歴史神は特殊で時神のように同じ軍にいない。
「何」を守っているかで東と西に分かれている。
歴史神がこの世界の秘密を守っているのは間違いないので、軍分けをした東と西はすべてを知っていることになる。
今回、歴史や記憶をルナが動かしてしまったため、歴史神が関わり、なおかつ、西と東に話が伝わっているようだ。
「ヤバいことになってんけど、歴史神らが隠してることがわかるかもしれない……。前々から俺達の記憶をなんかいじってんの、知ってんだよ……」
プラズマが唸り、サヨは眉を寄せる。
焦りと動揺が押し寄せる中、「あ……」と幼いリカが小さく声を上げた。
「ど、どうしたの?」
「過去神も小さくなったらおもしろいかな? おはなし、書いてみよう!」
リカの発言にサヨとプラズマは慌てた。
「待って……それを書くとまさか……」
サヨがなにかを察し、声をあげる。刹那、再び更夜から驚きの報告が届いた。
「どうなってやがる! 栄次がガキになった! ルナが原因なのか?」
「な……嘘……」
プラズマとサヨは血の気が引いた。恐ろしい事態になっている……。
「……更夜のところに行くか……とりあえず……冷林、高天原の様子を探ってくれ……」
プラズマの指示に冷林は頷くと、ふわりと浮き、部屋から出ていった。