ルナはふたりいる4
ルナは泣いていた。
あれからしばらく経っても友達ができない。いつまでもできない。むしろ、関係が悪化している。今日は校庭で突き飛ばされて膝を擦りむいた。
ママが何かを言ったのか、先生がいれば助けてくれるようになったが、登下校は関係がない。
授業中も隠れてやることにスリルを感じ始めたのか、見つからないように何かをやってくる。
ママに転んだと嘘をつき、絆創膏を貼ってもらって、布団に入った。
……明日……行きたくないなあ。
そんなことを思いながら布団に横になる。
気疲れていたルナはそのまま眠ってしまった。
「はっ!」
しかし、すぐに目覚めた。
「え……?」
目覚めた先は布団の中ではなかった。
「どこ……」
白い花が沢山咲いている世界の真ん中にルナは大の字で倒れていた。
「ねー、大丈夫? うわっ! ルナと同じ顔! まさか! あっちのルナ!」
ルナと同じ顔の少女がルナを覗き込んでいた。自分とは真逆そうな少女。
自分と同じ顔をしている少女が全然違う言葉を発している。
奇妙な感覚にもなる。
「え、えーと……」
「ああ、ルナだよ! 正義のヒーロー! ルナだー! ルナでしょ?」
少女は自己紹介をした後、ルナにルナか尋ねた。
「え、うん。ルナ……です。あなたもルナ……?」
自分とは真逆の友達が多そうな元気いっぱいの少女。
「ルナだよ! そう言ってるじゃーん! あそぼ!」
少女は自分とは全く違う笑顔を見せ、いたずらっ子のように笑う。
「え……ルナと遊んで……くれるの?」
「ん? どういうこと? あそぼ!」
少女はルナの手を引き、白い花畑で楽しそうに走り始めた。
「えっと……待って……」
ルナは少女を追いかけ走る。
そのうちに楽しくなってきた。
ルナは初めて楽しい気持ちを覚え、夢なら覚めないでほしいと願った……。
※※
気がつくと一緒に遊んだルナがいなくなっていた。
自分とは真逆の内気な少女。
「あーあー。いなくなっちゃったー」
ルナはつまらなそうに言うと更夜がいる屋敷に帰っていく。
ふと、あの子に興味を持った。
「過去とか未来とか見ちゃお!」
ルナは彼女の過去を見る。
ルナが産まれるところからスタートした。
「……あれ……?」
母親と思われる女性、父親だと思われる男性が寄り添い、二人の赤ちゃんを抱いていた。
ただ、嬉しそうではなく、二人で悲しげに涙を流していた。
見たことない人、おそらくサヨの兄と、隣にいたサヨも暗い顔をしている。
「生まれてうれしくないのかな」
ルナは不安になった。
片方の赤ちゃんが看護師におくるみで包まれ、もうひとりの赤ちゃんもおくるみで包まれた。
二人目の赤ちゃんは看護師さんの顔が暗い。
ひとりの赤ちゃんが母親に返された。動いている、泣いている。
もうひとりは全く動いてなかった。まるで人形のようだ。
「……ルナだ……」
動かない方の赤ちゃんを見て、すぐに自分だと気がついた。
少しせつなくなる。
母親だと思われる女が動かないの方の赤ちゃんを抱いて「生まれてきてくれてありがとう」と泣いていた。
「……ママ……」
ルナは初めて見る母の顔をせつなげにみていた。
そのままルナは父だと思われる男性へ渡り、サヨへ渡り、兄の俊也へ渡った。
「まだ、生きてるみたいだね……。あたたかい」
「……ママの体温が残ってるんだよ……お兄」
「わかってるさ」
記憶は生きている方のルナへ行く。ルナの過去見はあちら側のルナだ。
自分じゃない。
ルナは内気な性格のようだ。
言葉が遅く、お友達とうまく遊べない。引っ張っていく性格ではないため、いつも取り残されている。
「お友達になろうって言えばいいのに」
ルナはあちら側のルナがわからない。双子らしいが、性格が違いすぎる。
「いじめられてる……ひどい……」
ルナは怒りを爆発させた。
「あいつら、やっつけてやる」
ルナは過去見を終わらせ、更夜の元へ走った。
自分の両親のこと、双子の姉がいじめられていたこと、それらが悲しみの感情、せつなさの感情、怒りの感情に変わる。
「おじいちゃん……!」
「ルナ?」
更夜は走ってきたルナをとりあえず受け止めた。
「どうした?」
「わかんないっ!」
感情がよくわからくなっていたルナは更夜に泣きついていた。
「わかんないよ……おじいちゃん」
「そうか。わからないのか。じゃあ、こうだな」
更夜はルナを抱きかかえると、優しく背中を撫でてやった。
「よしよし……ルナ、俺はお前の味方だぞ」
「……おじいちゃん、ありがとう」
ルナの感情が不安定だ。
本当の家族のことを知ったのか?
更夜は過去見ができる栄次に相談することに決めた。