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ルナはふたりいる3

 「おじいちゃん! お腹空いた! おじいちゃん!」


 ルナは銀髪メガネの着物の青年、更夜に叫ぶ。


 「待て! 今作っている! ポテトチップスだろ! 今揚げてるだろうが! みてわからないのか!」

 更夜はジャガイモを薄く切り、慌てて揚げ物鍋で揚げている。


 「ポテチィ!」

 「座っていろ! 近づくと油がはねる!」

 「おじいちゃん! ジュースはリンゴがいいー!」

 「わかった、わかった!」

 更夜がルナをなだめ、リンゴジュースを横で注ぐ。


 「おじいちゃん! 夕飯なにー?」

 「夕飯? ああ、えー……ジャガイモの味噌汁と……」

 「やったああ! ジャガイモだあ!」

 「あのな、少しは落ち着け」

 更夜が揚げたジャガイモを皿に盛り、子供用コップに入れたリンゴジュースをルナの前に置く。


 「わあああい! いただきまーす!」

 「待て! 揚げたてだ! ゆっくり食べなさい!」

 「あちち……」

 更夜の言葉が間に合わず、ルナは指に息を吹きかける。


 「だから言ったんだ……。ほら、やけどしてしまう。とりあえず、冷たいハンカチだ。指を押さえて……」

 「おいしー!」

 ルナは関係なくポテトチップスを食べ始めた。怪我はしていなかったようだ。


 「ふぅ……疲れた……」

 更夜はルナの向かい側に座り、天井を見上げる。


 「……疲れた。夕飯まで時間がある……。あいつらんとこに預けるか……。それより、スズはどこ行った?」

 「こうやー!」

 どこかでルナとは違う少女の声が聞こえた。更夜を何故か呼んでいる。


 「なんだ……。どこにいるんだ、まず! スズ!」

 「降りらんなくなっちゃった!」

 スズと呼ばれた少女は今にも泣きそうな声で更夜を呼んでいる。


 「んん? 上から聞こえるな……。どこにいる!」

 「屋根の上!」

 「なんでそんなとこにいるんだ……」

 更夜は頭を抱えつつ、縁側から庭に出て、屋根を仰ぐ。


 涙と鼻水を垂らした黒い髪の少女が困惑しながらこちらを見ていた。


 「困惑なのはこちら側なのだが」

 横を見るとハシゴが落ちていた。かけたハシゴが落ちて降りられなくなったらしい。

 彼女は忍だが、高さが高いと降りられないようだ。


 「はあ……」

 更夜は飛び上がって屋根に手をかけるとそのまま指の力だけで屋根の上へ登り、あきれた顔でスズの方へ歩いた。


 「屋根は登るところじゃないぞ。危ないだろうが」


 「屋根の上から景色を見てるテレビがやってて、やりたくなってやってみたら、降りられなくなっちゃったの~!」


 「やりたいなら、俺を呼べ」

 更夜はスズを抱きかかえると、軽々と屋根から飛び降りた。

 更夜は凄腕の忍であり、身体能力が異常だ。


 「うう……」

 「もう泣くな。大丈夫だっただろう? 珍しく怖がってるな……」


 「だって、私の上をウィングついた変な子が飛び回ってんだもん。あの子、前に見たことあるんだけど」


 「ん?」

 スズの言葉に更夜は眉を寄せる。


 「上見て、たまに来るから」

 更夜が空を仰いだ刹那、足にウィングをつけた橙の髪の少年が困惑した表情のまま、空に浮いていた。袖無しのユニフォームのような服を着こんだ少年である。


 「……あいつは……」

 更夜は栄次を救った少し前の事件、『栄次のループ事件』を思い出す。栄次がおかしくなった時に、栄次を壊そうと『破壊の時神』として現れた神だ。


 感情なく栄次を襲っていたが、突然に感情を取り戻し、せつなげにアヤを見て去っていった。

 あの少年である。


 「……会話はできるか?」

 更夜が話しかけると、少年はさらに動揺しながら口を開いた。


 「う、うん……ぼ、僕はその……」

 「会話ができるようだな。降りてこい」

 更夜が声をかけると少年は逃げずにゆっくり降りてきた。


 「お前、名は?」

 「あ、あの、トケイ……だと思います」

 「だと思いますとはなんだ? 自分の名も言えんのか? しっかりしろ!」

 更夜が強めに言い放ち、トケイと名乗った少年は怯え、震える。


 「ごめんなさい……。自分が何をしていたのかも、何にも思い出せなくて……思い出そうと飛び回っていたんですが、わかんなくて、それでここに……」


 「……ああ、そうだったのか。じゃあ、入れ。腹は減っているか? ポテトチップスを作っている。スズ……この子もこれからおやつなんだ」

 更夜がスズの頭を優しく撫で言った。


 「いいんですか! あ、ありがとう……ございます」

 トケイは更夜の言葉に涙を浮かべた。


 「大丈夫か?」

 「……すみません。こんなに……家族みたいに迎えられたことが、初めてで……」

 いぶかしげに見ていた更夜にトケイは優しげな顔で笑った。


 「……お前も時神なんだろ? 色々、大変だったんだな」

 更夜はトケイを家に上げた。


 「お前、いくつなんだ」

 「十六歳になったばっかり……だったと思います……曖昧です」

 「そうか」

 更夜は小さく頷くと、スズとトケイを連れ、廊下を歩き始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] トケイ、ボイスドラマではかなりエキセントリックなコメディリリーフですが、本編ではかなり不思議な役回りですね…トケイくん、記憶喪失なのでしょうか?そして時神、やはり妙に多いですね。過去と今と未…
2023/04/17 11:13 退会済み
管理
[一言] 現世のルナちゃんは心配……大人の言葉だけではどうにもならなかったりもするし、難しいよね…… トケイ君は自我が少しずつ!いい兆候なのか、ほころびの兆候なのか……
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