最終話2
「プラズマくん!」
サヨは扉を開け、時神の家に入り込んだ。
「サヨ、帰ったか。冷林もいる」
「……」
サヨは冷林を見て、何を言うか迷った。
「サヨ、あんたは時神だ。ワイズや剣王に引き抜かれる前に冷林の軍に入れ」
プラズマにそう言われ、サヨは少し考える。
「ねぇ、そういえばリカはいつ冷林軍に入ったの?」
「……リカは……実は冷林軍に入れていない。入れているようには見せているが」
プラズマが驚きの発言をし、サヨは目を丸くした。
「え! 軍に加入してないわけ? あんな弱小神、信仰心集まらなくて消えちゃうんじゃない? だって、高天原南の竜宮城以外の地域みたいな、一柱で信仰心が回せる神なら軍未加入でも力をつけられるけど……リカはさ」
「それが、リカは消えてないんだ。そもそも俺達、時神は信仰が消えない強力な神だ。時間は人間が信仰する大事な縛りだ。リカを加入させるかは迷っている……」
「なんで、迷っているの?」
「彼女は俺達の存在から世界を変えてしまった。元々別世界にいた俺達を彼女が同じ世界にまとめたんだ。彼女がまとめる前は俺達は毎日、天記神の図書館で会っていた。
あそこは、参からでも肆からでも壱からでも図書館で繋がるから。ただ、他の世界にはいけなかった。自分の世界に帰っていたんだ。
そこまでやっていたのに簡単に世界を統合してしまったリカの力が不気味だったんだ。北に何か被害が出るかもしれない。そう思った。
ワイズも剣王もリカを加入しには来ない。消しには来ているが。太陽や月、竜宮はリカがどういう存在かすら知らない」
「プラズマくん、リカがかわいそうじゃん。仲間のふりをしてるけど、警戒してるみたいな」
サヨの言葉にプラズマは目を細め、真面目な顔でサヨを見据えた。
「そうだ。俺は警戒している。彼女が来て、俺達の修正のために時神が増えた。サヨ、あんたもその一柱、ルナもその一柱だ。
ワイズの気持ちもわからなくはないんだ。
アイツは壱を守る神だ。壱が変わることを恐れている。だが、リカは優しい女性だ。俺は仲間として迎えたい。時神として」
「……プラズマくん、リカを冷林軍に入れよ?」
サヨが言い、プラズマは浮いている冷林を仰ぐ。
「冷林、リカをどうする」
プラズマに話を振られた冷林はプラズマとサヨを交互に見て困っていた。
「冷林」
プラズマが少し強めに冷林の名前を呼ぶ。冷林は慌ててプラズマを見つめた。目はどこにあるかわからない。
「俺は何て言った?」
プラズマの鋭い言葉に冷林は下を向く。
「さっきの失敗は気にするな。よく考えて決めろ」
冷林は震え始めた。
先程の失敗を思い出したようだ。決断ができない。
「プラズマくん、決めて」
サヨがプラズマに言ったが、プラズマはまっすぐ冷林を見ていた。
「決めるのは俺じゃない。冷林だ。リカを加入させるなら、リカの力を理解する必要がある。そして、おそらく、冷林は先程、ワイズから時神になったサヨの管理のことも責められ、ワイズの怒りを沈めさせるために俺に重い罰を与えた。
冷林は管理ができない。こないだ、ルナを理解したばかりだ。リカは特殊だ。軍加入は神力を理解し、共有し、初めて繋がる。リカを入れることで冷林のデータが変わる可能性もある。彼はそれで迷っている」
「……単純な話じゃないんだね」
「そうだよ」
サヨとプラズマは冷林の選択を待った。
「冷林、どうするんだ?」
プラズマが尋ね、冷林は再び動揺する。
「冷林」
プラズマに再度名前を尋ねられ、冷林はプラズマを震えながら見上げた。
プラズマは肯定も否定もせず、意見も言わない。
やがて冷林は小さく頷いた。
「それは、加入ということで良いのか? 冷林」
プラズマの問いに冷林は何度も頷く。
「では、リカを加入させよう。続いてサヨだ。サヨは冷林軍に入った方がいい。あんたは『K』でもある。ワイズに使われるかもしれない。メグは『K』の力を持つ海神、彼女はワイズ軍だ。サヨは俺達と同系の力だから、冷林は迷わなくていいはずだ」
「そうだね。入るなら冷林軍かな」
サヨがそう言い、冷林が頷く。
「では、繋がりの儀を始めようか」
「繋がりの儀?」
サヨが尋ね、プラズマはさらに答える。
「大したことはないさ。神力を交換するだけだ。軍とはいえ、神に上下はない。身分の違いもない。神力が高い神を敬うことはあるが。サヨ、冷林に平伏。上下はない。これは挨拶だ」
プラズマに言われ、サヨは素直に平伏した。
「これでいいの?」
「ああ。俺が言った言葉を復唱してくれ。『我は時神再生神、望月サヨである。軍に加盟を希望する』」
「えっと、『我は時神再生神、望月サヨである。軍に加盟を希望する』」
サヨが復唱した刹那、サヨの頭にワープロのような文字が打ち込まれ始めた。
『我は縁の神、冷林。高天原北の主である。そちの加盟を許可する』
文字が冷林のものであることは間違いなかった。
その後、冷林が神力を解放し、プラズマがサヨに次の指示を出す。
「サヨ、神力の交換だ。冷林の神力を受け取り、自分のも冷林にあげろ。軍に加盟する、許可するの言葉が神力交換ができる鍵となっている。プログラムみたいなもんだな。だから今、神力を解放したらあんたの神力が冷林に入るんだ」
「わかった」
プラズマの指示通りに神力を解放する。サヨの神力は冷林に吸い込まれ、逆に冷林の力がサヨに入ってきた。
「……あたたかい力なんだね、冷林……。『K』に似ているなあ」
「それが冷林の力なんだ。縁を繋ぐ神」
「ありがとう、冷林。それからよろしく」
サヨの言葉に冷林は大きく頷いた。
「さ、軍に加盟できたし、おじいちゃんのとこ、行くかあ」
「そうしようか」
サヨが笑い、プラズマは微笑む。冷林は一緒に行きたそうにサヨを見ていた。
「冷林、プラズマくんが一緒に行こうって言ってたじゃん」
サヨの発言にプラズマは眉を寄せた。
「オイ、サヨ。まさか、聞いてたのか? 俺と冷林の会話」
プラズマに言われ、サヨははにかんだ。
「ごめん、ちょっと聞いてた」
「まあ、いいけど、人に言いふらすなよ」
「わかってるよ。二人だけの時だけ優しくしてやってるんでしょ? 今回のワイズみたいに、プラズマくんが使われて冷林の決断をおかしくさせるような策が使われる可能性があるから」
サヨが真面目にそうプラズマに答え、プラズマは頭をかいた。
「あんたは賢いな。本当に」
「しかし、冷林ってかわゆ~い! 抱きしめるとふわっふわなぬいぐるみじゃん」
サヨは冷林を抱きしめ、頬ずりを始めた。冷林はおとなしくしている。
「サヨ、しばらくそうやって抱っこしてやっててくれ」
「わかった。じゃあ、あたしの世界を開くね……」
サヨは扉を出し、プラズマを自分の世界へと促した。
※※
金色の天守閣の最上階。
ワイズは窓から外を眺めていた。
ワイズの側近、天御柱神、みーくんはワイズの側にいる。
「茶だ」
みーくんはワイズの前に緑茶を出した。ワイズは一口飲むと机に置く。
「紅雷王に何してんだ、お前。今回は許せねぇぞ?」
「冷林が提案した罰をやっただけだYO」
ワイズはやや怒りを滲ませるみーくんに軽く言う。
「あんなの、アマテラスが許すと思うか? お前、また……」
みーくんが慌てた声をあげた時、ワイズはひとりつぶやいた。
「そろそろ、来るか……」
つぶやいた刹那、ワイズの肩先が突然に斬れ、血が溢れた。
次に足、腹、背中、顔と斬れていく。
「こんなもんか、アマテラス」
ワイズは血を流しながら笑う。
「もうやめろ! お前はアマテラスと協力関係だったはずだ!」
「私が世界を守るデータを持っていただけだ。アイツが消える旧世界時、アイツの神力を私に勝手にいれやがったからこんなことが起きる」
ワイズは斬られていく身体に反応せず、呑気にお茶を飲んでいた。
「お前はアマテラスの規約を破ってんだ。だから、お前の中にあるアマテラスの神力が逆流してお前を傷つけている。何回言ったらわかんだよ!」
「何を今さら。なにかをするには、なにかを犠牲にするのが常。この世界は駆け引きだ。天御柱よ。お~、いてぇ、いてぇ。今回もいてぇなァ、オイ」
ワイズは笑っている。
「イカれてやがる。毎回、女がズバズバ斬られていくのを見させられる俺の気持ちにもなれ、バカやろう」
「さてと、データを修復して、怪我を治すとするかYO」
「聞けよ……。くそっ、しばらく休んでもらうぞ、ワイズ」
みーくんが神力を解放し、ワイズを止まらせる。
「こんな神力で私を押さえつけられるとでも?」
ワイズが笑い、みーくんが眉を寄せた。
「タカミムスビの神力があんだよな……。アマノミナカヌシに並ぶ、宇宙……世界を造った三柱の一柱……タカミムスビの子……か。ワイズは……オモイカネはアマテラスよりも遥か上にいるんだ……」
「まあ、いいYO。私は少々寝る。お父様は遠い記憶だ」
ワイズはデータをいじり、自己を修復すると、きれいに整えられているベッドへと入り込んで寝てしまった。
「……ゆっくりお休みくださいませ、ヤゴコロ オモイカネ」