最終話1
サヨは時神の家のとなり、自分の家に帰った。
「ただいま!」
「サヨ!」
すぐに父、深夜が怖い顔で立っていた。深夜は更夜に似て、怒っていると顔が怖くなる。
「え?」
「学校に行かずにパパに嘘をついたな!」
「あ……」
サヨは深夜を騙し、弐の世界へと調査に向かった。
「制服は着ていないし、バックもないじゃないか! 弐の世界に入って無茶をしてきたんだろ!」
「ひっ! う、嘘ついてごめんなさい!」
珍しく怒っている深夜にサヨは涙目であやまる。
「俊也が戻ってきてくれた」
「お兄が帰ってきた! あ、あのね、今回、先祖さん達皆でお兄を助けたんだよ!」
深夜はサヨの言葉に目を丸くし、少し涙ぐんだ。
「守護霊さん達が……俊也を……」
「ママは大丈夫?」
「ママは俊也に抱きついて嫌がられているとこだ」
深夜は苦笑し、サヨは笑った。
「お姉ちゃん、お帰りなさい」
「ん? あ、ルナも帰ってたんだ!」
深夜の横から顔を出したのはあちらにいるルナとそっくりな少女だった。
性格は真逆に見える。
内気な雰囲気の少女。
彼女の名前もルナと言う。
サヨの妹だ。
「ちょっとお兄ー!」
サヨは兄、俊也をとりあえず呼んだ。
「あ、サヨ、おかえり。え? 何? 母さんからは抱きつかれるし、皆で僕を心配して……」
俊也は何事もなかったかのように顔を出し、首を傾げていた。
「うん、いつも通り。お兄、なんか夢とか見た?」
「な、なんだよ……。夢……? 家族が出てきて、皆でなんか喜んでた夢を見たなあ。それから、なんかよく覚えてないけど、先祖だっていう男の人が出てきて、なんかすごい励まされた。目覚めてからなんか、やる気があるんだよ」
「そう、良かったじゃん」
俊也はなぜ、サヨがそれを聞いてきたのかわからず、戸惑っていたが、サヨはそれだけで話を終わらせた。
奥からサヨの母、ユリも出てきて、サヨに抱きついてきた。
「うわっ、ちょ、ママ?」
「学校に行かないで何していたの! ママ、心配したのよ!」
「あ~……」
サヨはユリに「パパには学校に行ってるって言っておいて」と言って出ていった事を思い出した。
「サヨが俊也を助けたのは事実だが……勝手に動いたことに、パパはプンプンだ」
「プンプンって」
サヨは吹き出してしまった。
「向こうで更夜様にお仕置きしてもらってきなさい!」
「はあ? 嫌に決まってんじゃん! おじいちゃん、怖いんだから!」
「怖いからこそ、いいんじゃないか!」
「パパが怒れないからって、なんでもおじいちゃんに持っていくのは良くないって!」
サヨは必死に言い、深夜は笑った。
「変わらないなあ、サヨは」
「ママ、今日はお兄元気になったよ記念でなんかごちそう作ってよ!」
サヨは深夜を無視し、笑顔でユリを見る。
「ああ、そうね~。何がいいかしら……」
「あの、僕は一体、何があったんです?」
俊也は全くわかっていない。
「いいの! 今日はごちそう食べて元気に行こ! あ、あたし、夜までには帰るけど、ちょっとお隣さんと遊びに行ってくるから」
「サヨは宿題とか、勉強はいつも完璧だから、何にも言うことがないのよね。いってらっしゃい。ルナちゃん、一緒に買い物にいきましょうか」
「はい。ママ。お菓子、買ってもいい?」
ルナはかわいらしい笑顔でユリの手を握る。
「一個ね」
「一個かあ……」
「エコバッグ持ってくる」
「ママ、ルナも手伝う……」
ユリとルナは微笑みながら部屋の奥へと消えた。
「じゃあ、あたし、行くね~」
「サヨ!」
サヨが出ていこうとドアを開けた刹那、俊也がサヨを呼んだ。
「ん?」
「ありがとう……」
「え?」
サヨは固まった。
「あ、ごめん。よくわかんないだ。でも、ありがとうってなんか言わなきゃいけないって思って……」
俊也に弐の記憶はない。
だが、心のどこかで望月家当主として、望月を救ってくれた事へ感謝していたのかもしれない。
「……ありがとう……サヨ」
「うん。お兄、受験、頑張ってね……」
サヨは俊也と謎のハイタッチをかわし、深夜を見る。
「パパ、あたしね……」
「……ああ、サヨ、お前はもう……」
「うん……あたしはあっち側だけど、パパの娘だよ」
「……俺達が死んでも……強く生きるんだ……サヨ」
深夜はサヨを優しく撫で、背中をそっと押した。
「うん、行ってくるね!」
サヨの年齢が止まった。
神としての存在が始まる。
サヨはこちらの家族とはずっと生活できないことを感じていた。いずれ成長するこちらのルナよりも外見が年下になるのだ。
これからは向こうにいる更夜、ルナ、スズと共にいることの方が多くなるかもしれない。
「あたしは時神になった……。あの男の子の軍に入るのかな……? ……プラズマくんの下につきたいな……あたし。ワイズとか剣王に引き抜かれたり、しないよね……」
サヨは少しの不安を抱え、プラズマと冷林がいる時神の家へと向かった。